3話 祭りをのんびり楽しむデー.5
ミルンが……哀愁漂う背中を丸めて、床にしゃがみ込み、無言で何かを、集めている。
その側には、青褪めた顔の、店員達。
カチャッ────「……ミルンのお皿」
カチャッ────「大事なお皿……」
カチャッ────「……なんで割れた?」
ミルンの静かな、お怒りモード。
普通に怖い。
お皿の破片を集めながら、まるで一人言を呟いているかの様に、声を出している。
「心配して見に来たら、どう言う状況なの?」
ミルンは戻って来ないし、頼んだお団子も遅いので、様子を見に来たら、この有様。
何で誰も、皿の破片を拾わないんだ?
「よっと。ほれミルン、端っこ見つけたぞ」
拾ったお皿の破片を、ミルンが集めたであろう、沢山の破片の上に、優しく置く。
「お父さん……皆んながね、このお皿を割った人が、誰なのかを、教えてくれないの」
そう言って、顔を上げたミルンの目は、オークの睾丸を、平気で生食していた時の、ガチの目になっている。
「何だそりゃ?」
「聞いても、黙ったままなの」
「ミルンが怒っている理由は、それか」
本当なら、毒無効の皿が、割れたぐらいで、ミルンは怒ったりしない。
どれだけ頑丈な物でも、劣化はするし、ふとした拍子に壊れてしまう事を、ミルンはしっかりと、理解しているからだ。
ならば、何故ミルンは、殺気全開なのか。
答えは簡単。
割った本人は前に出ず、あまつさえ、その場に居た物達と、口裏を合わせて、黙り込む。
ただ一言、謝れば済むと言うのにだ。
「なあミルン。ミルンはこの店のオーナーで、店長は、別に居たりするのか?」
「その黙ってる一人が、店長……」
「おぉっ、店長何してんの?」
そういや、何かが割れた音がして直ぐ、声を荒げていた奴がいたな。
風貌から、店長兼お団子職人だろう。
店長の手に、白い粉が付いてるからな。
「えっと、アンタが店長?」
「はぃっ……ポッズとっ、言います」
「さっきの声は、アンタだな。と言う事は、他の三人の誰かが、皿を割ったと」
「っ……」
黙り込んだか。
何を守ってるのかは知らんが、このままだと、ミルンが暴れちゃうぞ。
「なあミルン。もしこのまま、店長を含めたこの四人が、黙ったままだったら、どうする?」
カチャッ────「お店を閉めるの」
「っ!? そっ、そんなっ!?」
「待って下さいオーナーっ! 何でっ!」
「はっ、働けなくなるっ!?」
「っ……」
やっぱりこの店員達、理解してなかったか。
恐らくこの人達は、他の村から、ファンガーデンに来た、移住希望者達だろう。
要は、審査期間中の人達だ。
仮の住民票を配布されて、数年間、労働の実績を作らねば、住民にはなれない。
以前は、労働年数を固定していたが、今では、一年から十年と幅を持たせて、役場の審査に合格すれば、住民となれる。
「だからこそ、解雇の理由の如何によっては、職業紹介すら無く、仮の住民票すら剥奪されて、最悪、鉱山労働か追放だぞ?」
因みに、ジアストールの法律では、雇用主に対し、共謀して悪事を行う、又はその悪事を隠した場合、鞭打ち十回らしい。
「因みに、その割れた皿の代金も、お前達四人に、しっかりと、払って貰う事になる」
普通に謝れば、済んだものを、共謀して、罪を隠した時点で、アウトだ。
「ミルンは、その皿の価値を、店長や店員達には、伝えていたのか?」
「勿論なのっ。一点物の、効果付きのお皿だから、そこの台から動かさない様にって、契約書にも書いて、口頭でも伝えたのっ」
「と言う事だが、店長。何があったのかを、話してくれないと、本気で詰むぞ?」
お皿の弁償額で、人生が終わる。
ミルンの事だから、契約書面にしっかりと、割った際の弁償額を、書いているだろう。
カチャッ────「最後のチャンスなの」
カチャッ────「誰が割った?」
カチャッ────「正直に言って?」
ミルンさんや、怖いっ!!
「っ、ぼっ、僕ですっ!!」
青年が一歩、震えながら、前に出て来た。
ミルンはジッと、その青年の顔を見詰めていたが、急に視線を変えて、別の一人を見た。
「犬人は、嘘に敏感なの。知ってた?」
そう言ってミルンが見詰めた、一人の店員。
可愛い可愛い、女性の店員だ。
「この人が、前に出て来た時、貴女はホッとした顔で、胸を撫でたの、撫で下ろしたの。何で?」
「そっ、それはっ……」
「皆んなで貴女を、庇う理由は?」
「わっ、私は割ってないっ!」
「今ので確定なの、割ったのは貴女。さっきも言ったけど、犬人は嘘に敏感なの」
ミルンが本気で、ガチ詰めしてる。
犬人に限った話では無く、獣族達は皆んな、嘘を嗅ぎ分ける能力に、長けている。
直感が優れているとでも、言うのだろうか。
「わっ、私が割ったって言う証拠なんてっ、どこにも無いじゃないっ! 彼が割ったって言ったんだからっ、彼が割ったのよ!」
お嬢さんや、問題はそこじゃ無い。
「ポッズ店長。信用して、お店を任せたのに、この仕打ちは酷いと思う」
ミルンの尻尾が、へにゃってなった。
これは、相当ショックを受けてるぞ。
「最後に聞くね。何で皆んな、彼女を庇うの?」
「ミルンさんや。それだとコイツらは、何も言わずに終わっちゃうぞ」
「お父さん……」
「ポッズ店長。その女を庇って、全員地獄か、割れた理由を話して、謝罪するか。二つに一つだけど、どっちが良い?」
お助け流さんです。
女を庇った所で、全員地獄に落ちるだけ。
お皿が割れた経緯さえ聞ければ、謝罪するだけで済ますと言う、俺の温情です。
えっ、本音?
ミルンの店を潰すなんて、耐えられない!!
ただそれだけだ。
「っ、ミルンオーナーっ、申し訳御座いませんっ! 皿を割ってしまったのは……そこのマリヌに、間違い御座いませんっ!」
「なっ、ポッズ店長っ!?」
「諦めろマリヌっ! 御領主様の、仰られる通り、事実を述べて謝罪するしかっ、それしか無いんだっ!!」
そこからは、ポッズマシンガントーク。
ポッズ店長、喋るわ喋るわ。
さっきまで黙ってたのに、もう耳が痛くて、堪らないんです。
そして結論。
女性店員が、皿を割ったのは間違い無いが、どう聞いても、不可抗力なんです。
効果付きのお皿から、小皿にお団子を分けようとしたら、粘り気全開のお団子が、効果付きのお皿を持ち上げて、クレーンゲームの様に、そのまま落下。
「何で、直ぐに理由を、話さなかったの?」
「それは……あんな賠償金なんて、マリヌには、払えませんし……」
「ふーん。マリヌは何で、まだ謝らないの?」
「私の所為じゃ無いもの! 勝手にくっ付いて落ちたんだから、謝る必要なんて無いわっ!」
さてさて、ミルンはどう、判断するのか。
「分かったの。今回は、お店を閉めません」
「ミルンオーナーっ、有難う御座いますっ」
「ても、マリヌとあそこの彼は、要らないの。オーナー権限で解雇するから、荷物を纏めて、出て行って」
ふむふむ、ミルンはそうするのか。
「なっなんで私が解雇っ!?」
「まっ、待って下さい! 何で僕までっ!」
ミルンの解雇基準は、とても簡単だ。
「嘘吐きと、謝らない人は、要らないの。後は店長に任せるから、その二人を追い出してね」
ミルンは、それだけ言うと、お皿の破片を詰め込んだ袋を手に、外へと出て行った。
マリヌと言う元店員は、ぎゃあぎゃあと喚き散らしているが、そう言う所だろう。
「調理担当なのに、マリヌだけ、手が白く無いとか、分かりやすいわぁ」
店長や、他の店員に甘やかされ、雑な仕事を覚えてしまい、この有様。
「っと、ミルンを追いかけないとな」
俺はミルンを、甘やかすけどね。




