3話 祭りをのんびり楽しむデー.2
ミルンのナビにより、屋台が軒を連ねる、商業区に来たんだけど、確かに並んでいる。
十時オープンなのに、既に十人程だろうか。
屋台は閉まっている為、看板も無く、本当に何の屋台なのかが分からないが、並んでいる。
「シャクシャクじゅわぁ、楽しみっ!」
「開店まであと、一時間以上も有るのに、本当に人気の屋台なんだな」
シャクシャクじゅわぁは分からんが、こんなにも人気なら、少しは期待出来そうだ。
「んーっ、にしても、視線が痛い……」
「お父さんは、人気者?」
「服が不味かったかなぁ」
昨日の正装そのまんま着たから、行き交う人達が、チラチラと見て来る。
でも、この視線……俺の上を見てるよな。
可愛いミルンに釘付けか?
「これ、ミルンへの視線だぞ」
ミルンは、お出かけ用の服だ。
お気に入りの、天使の羽根の刺繍がされた、可愛いワンピース。
はい。ケモ耳天使の降臨です。
「ミルンは見られても平気っ。嫌な視線なら、近付いて玉潰すの!」
「見てるだけなら、放置しときなさいな」
実害が無いのなら、放置一択だ。
どうやら、貴族達に付いてきた兵や従者達が、色々と見て回ってるっぽい。
そんな中で、領主が列に並んでいるから、気にならない訳が無いのだろう。
「今思い出した。結局、クズール君来なかったな。折角手紙送ったのに」
「大丈夫っ。別荘の権利書は押さえたから、いつでも遊びに行けるの!」
「……何それ? 別荘の権利書?」
「管理人は、ウザ子にしたから、安心安全っ」
あの影さんが、管理人?
もしかして、数ヶ月前に来てたのって……コレは、考えたら深みにハマるヤツだ。
「取り立ても完了したから、ホクホクです」
ミルンさんや、確かクズール君は、子爵家の嫡男だった筈だけど、その子爵家に取り立てって、何したのその子?
聞きたいけど、怖くて聞けない。
「あまり無茶はするなよ」
「りょっ。危なくなったら、お父さんに攻め込んで貰うから、安心っ」
それは……攻め込んだ先に、隕石落とせと?
「なんやアンタら、物騒な話しとるな」
ミルンとのお喋りを楽しんでいたら、通行人が立ち止まり、話しかけてきた。
和服っぽい姿に、白髪青目の無い乳娘。
「リティナなの」
「リティナだなぁ」
「淡白っ! いつもならウチに会うなり絡んで来るのにっ、何やそん目は!?」
「某スナギツネの眼差しだ」
「それなあに? 狐人?」
そういや、狐人の中にも、無を感じる眼差しの奴が、居た様な居ない様な。
「何考えてるかっ、分からへん目を"すな"!?」
「"スナ"ギツネだけに?」
「お父さん十点! 百点満点中なの」
ミルンの辛口酷評です。
「リティナの突っ込みが、甘いからだぞ」
「何の事やねん!?」
ゼェゼェと、息を切らせるリティナを眺めながら、周囲を確認する。
麗しの猫耳メイドが居ないな。
「リティナは、また一人か」
「流にーちゃんと話すと、ほんま疲れるわ……ニアならまだ寝とるで。昨日の枕あるやろ? アレの所為で、中々起きへんのや」
「ふかふか枕! 一度使ったら、二度寝三度寝は当たり前なのっ!」
「何やその効果……で、アンタらは二人して、何してんの。けったいな行列やけど、何かオモロいモンでもあるん?」
「俺は知らんぞ。ミルンが食べたいって言ったから、こうして並んで……列増え過ぎっ!?」
リティナと話をしていて、気づかなかったが、いつの間にか俺の後ろに、何人? 何十人と並んでいるこの状況。
「人いっぱいいる。早めに来て、正解っ」
「こんなにも人気だとはな。ミルンの言う通り、早めに来といて良かったぞ」
「何や、こない並んで、けったいな連中やなぁ。ウチは治療院に戻るけど、変ないざこざ起こさんといてや」
そう言ってリティナは、歩いて行った。
失礼だと思わんのかねぇ。
まるで俺が、諍いの元の様な言い草だったけど、人畜無害な中年なのに。
「争いなんて、真っ平御免」
「お父さんの口から、変な言葉が聞こえるの」
「待て待てミルン。俺から争った事なんて、今まで一度も無いだろ?」
「ぬーんっ……」
肩の上で腕を組み、色々思い返しているっぽいけど、やられたらやり返すだけで、俺から手を出した事なんて、無い筈だ。
無い筈……無いよな?
ガラガラッ────『少し早いですがーっ、今からお店を開けまーすっ!』
いつの間にか、九時四十五分。
ミルンは考えたままだけど、ようやく、良く分からない料理? との御対面だ。
「お父さんから……手を出した事……」
「なあミルン。そんな無理に思い出そうとしても、無駄だと思うぞ」
「ぬーんっ……」
『前の方から順に、お進み下さーい』
「ほれミルンさんや。屋台が開いたぞ」
「シャクシャクじゅわぁっ!」
ミルンの意識が、屋台に向いてくれた。
背中に尻尾がタシタシと、ヒットアンドアウェイを繰り返して、気持ちが良い。
「なんだこの匂い?」
「ソースの、良い香りがするの!」
一人、また一人と列が進んで行き、ようやく匂いの元凶の前まで、到着した。
そして、見た事有る人が、居るんです。
「いらっしゃ……流さん!?」
調理用の鉄板の向こうに、桃色お化けの信者コト、神官のルトリアが、額に汗をかきながら、焼きそばの様なモノを作っていた。
「ルトリア。お前補給部隊の一員なのに、何で屋台なんかしちゃってんの?」
「副業禁止なの! ギルティっ!」




