2話 婚約御披露目パーティー.6
さてさて、無礼講パーティーの開始です。
と言っても、今から俺は、挨拶回り。
ドゥシャさんとシャルネに、腕をキメられているから、逃げ出せないよーう。
あとやっぱり、来賓者達の奥様方は、半分以上が暗部関係の人達で、正直怖い。
『あの小さかったドゥシャが、大きくなられましたわね。小々波様……ドゥシャを泣かせようモノならば、覚悟なさいませ』
『ドゥシャちゃんが婚約だなんてっ、今だに信じられませんわ! 今夜はヤケ酒よ!』
『やっと、次の者に譲る気になったのね。貴女は人種なのだから、短い人生……これからは幸せに、生きなさい』
『おじちゃんが、ドゥシャの夫候補? 夜道では気を付けて、歩いてね!』
『ドゥシャ様、シャルネ様。御婚約、おめでとう御座います。処分なさりたい場合は、お早めにご連絡を……』
途中、ミルン並みに小さな御婦人に、殺意満々で脅されたけど、アレで大人とか。
隣に居た男の、娘かと思ったぞ。
そうして、一通り挨拶を済ませ、壁際に移動して、冷汗だくだくの体を休ませる。
「……大半が、脅して来るとかっ」
「彼女達は、私の先輩にあたりますので。昔は良く、可愛がられておりました」
「それ聞くと、御婦人方の妹みたいだな」
「ドゥシャの幼少期でしたら、私気になりますわ。さぞかし、優秀だったのでしょう」
「とんでも御座いません。不出来な身だからこそ、必死に覚えたので御座います」
ドゥシャさんは、努力の人だからな。
完璧主義者とまでは言わないが、妥協を許さず自分に厳しい、職人気質な感じ。
だからこそ、あの気難しい、工房の親方衆からも、絶対な信用を得ている。
「そういや結局、クズール君見てないな。ミルンが知ったら、落ち込むんじゃ無いか?」
村長も来て無いし、少し残念だ。
来ていたら、米の話とか、米の話とか、米の話とかをしたかったのに。
「流様。ミルンお嬢様が、落ち込む事は、無いかと存じます。寧ろ、喜ぶかと」
「んっ? 来てないのに喜ぶのか?」
「複雑な御事情の様で……」
「友達じゃ無かったの? 良く分からんな」
時間を確認すると、もう直ぐ十九時。
あのルシィから、祝いの言葉と共に、待ちに待ったミルンとミユンの、御披露目タイム。
「ドゥシャさんは、ミルンとミユンの衣装、見たの?」
「見ておりません。何やら、ドールに色々と聞いて居た様で、少し不安に御座いますね」
「ミルン、ドールに一体、何を聞いたんだ?」
衣装選びの参考とか?
それこそ、ドゥシャさんに聞けば良いだけだし、ドールに聞く必要は無いな。
「あらっ? 楽曲が変わりましたわ」
「本当だな……っ、アニソン!? 今まで流れていた曲もっ、アニメの挿入歌!!」
どうりで、聞いた事あるなぁと、思ったよ。
アニソンなんだ。
どう言う訳か、アニソンなんだよ。
古代人は、ドールの製作者だ。
古代人が異世界人なのは、あの施設を見る限りだと、間違い無いだろう。
その中に、ガチヲタも混ざってたのか!?
「ドールの奴っ、まさか……教えたのか」
「流様、どうなさいましたか?」
「震えてますわ」
女児向けアニメの筈なのにっ、格闘アニメと見紛う程の、不思議パワーを物理でかます、あのアニメの内容をっ、教えやがったな!?
「二人共っ、周囲を警戒!」
「っ、敵で御座いますか?」
「いつでも動けますわ」
「敵じゃ無い……が、あの伝説的アニメの内容を知った、ミルンとミユンの行動がっ、俺の予想だと間違い無く……何かするぞ!?」
「アニメ…とは、何で御座いましょう?」
「武器ですの?」
駄目だっ、二人の理解が得られない!
どこだ……どこから来るっ。
知覚で確認しようにも、二階に居るのか、地下に居るのかが分からんし、後手に回るぞ。
「ふむ、もうそろそろかの……」
酒をガブガブ呑んで居たルシィが、椅子から立ち上がり、一歩前へ出た。
時刻は十九時ジャスト。
ルシィの、有難いお言葉が始まる。
「皆っ、楽しんで居るであろうが、少しばかり儂の言葉に、耳を傾けよ」
ごめんねルシィ、今それどころじゃ無い。
今のミルンと精霊のミユンが、この場所で本気で暴れたら、手が付けられないぞ。
「先ずは皆に報告じゃ。知っている者も居ろうが、海を越えた先で、大陸を発見した」
『何とっ、海を越えたですと!?』
『陛下……この様な場で、御冗談ですかな?』
会場内がざわめくが、今何言ったの?
煩くて気が散るんだけど?
「その大陸を発見したのが、そこで何やらそわそわしておる、小々波辺境伯じゃ」
会場内居た貴族の面々が、一斉に顔を向けて来たんだけど、お前らロボットなの?
俺は今忙しいから、あっち向けっての!
「我らの知らぬ、未踏の地なれど、発見したのであれば、調査をせねばならぬ」
「あっ……何この嫌な空気……」
「流様、御安心下さいませ」
「予定通りですわ」
「そこでじゃ……その未踏の地の調査を、小々波辺境伯に、一任しようと思うのじゃ」
幾度目かの、会場のざわめき。
これはアレだ、同調圧力をかましてっ、勢いで従わせようとする、縦社会の不条理!!
「断固反『陛下! お待ちくだされ!』っ、俺の味方が居てくれた!?」
声を上げた者を見ると、名前何だっけ?
ノウ…ナス…男爵だった様な?
「陛下っ、大陸を発見したとなれば、これは一辺境伯でどうこうの話では、御座いませぬ! 国をあげての調査とすべきです!」
「愚かな進言に御座います」
「そうですわね」
「何で二人共っ、そんな冷静なの!?」
そういやさっきシャルネが、『予定通りですわ』って言ってた様な……予定?
「本来ならば、そうじゃの。しかしのぅ、その大陸に行けるのは、今の所、小々波辺境伯しか居らぬのじゃ」
「何故で御座いますか!」
「魔龍の助けが無ければ、叶わぬのでのぅ」
「まりゅっ……魔龍ですと……っ、ひっ!?」
魔龍と言われて直ぐ、ノウナス男爵消沈。
何故かって?
立派なドリルを生やしたのぢゃっ子が、『呼んだかや?』と、ぷにぷにしながら、ノウナス男爵を凝視したからだ。
位置が悪過ぎた。
ノウナス男爵の背後に居るとは、思わんて。
「無論、特権を持つ、小々波辺境伯には、無理強いは出来ぬ。じゃがこれは、国益に繋がるやも知れぬ、重要案件なのじゃ」
「あんのルシィっ、逃げ道を塞ぐ気かっ」
「諦めて下さいませ」
「お父様も、了承しておりますわ」
「……元々、逃げ道無かったのかよ」
一段高い、貴賓席の前に立つルシィと、お互いに睨み合って、ふと気付いた。
ルシィの席の後ろに、何かが居る。
そして、それにルシィは、気付いていない。
「助けないからな……ルシィ」
「流様? 何を見て……」
「不思議なお召し物ですわ」
「どうじゃろうか、小々波辺境伯よ。いや、ここは、魔神流とでも言お────」
ルシィは最後まで、言えなかった。
何故なら、急に何者かが飛び出して来て、ルシィの前に立ち、声を上げたからだ。
尻尾を振り振りポーズを決めて────「お話長いの! ミルンレッド!」
鼻を摘んでぷんぷん怒り────「お酒臭いの! ミユングリーン!」
身体全体で気怠さをアピール────「何でウチが……っ、リティナイエロー!」
若干酸素欠乏症になりかけの────「息苦しいですぅ、ニアブルー!」
ピチピチスーツが破けそう────「筋肉弾けるっ、ヘラクレスブラック!!」
「「「五人揃ってっ、色モノ戦隊っ! はっちゃけるんジャー!!」」」
ドゴオオオオオオ────ッン!!
ピチピチスーツの集団が、高らかに声を上げた瞬間、その後方で爆発が起き、直撃を受けたルシィが……吹っ飛んだ。
「……女児向けアニメの曲なのにっ、何で戦隊モノなんだよ!?」




