2話 婚約御披露目パーティー.3
唐突だが、婚約御披露目パーティーの時間割は、ざっくり言うと、こんな感じだ。
十五時まで、貴族の馬車パレード。
十七時まで、自由時間。
十八時から、婚約の御披露目。
十九時から、女王の祝いの言葉の後に、ミルンとミユンの御披露目。
二十一時から、自由時間。
交通規制上、十五時以降に来た、貴族の馬車は、貴族門にて馬車から降り、そのまま徒歩にて、館まで来て貰う。
招待状にも書いてあるし、それでゴネる様な貴族が居たら、そのまま出禁になります。
食堂は、十二時から深夜まで開ける予定。
ニンニ君の休む時間は、無いだろう。
各区の祭りは、交通規制の解除と共に始まり、今日から三日間開催される。
農業従事者は休暇となり、商業区の商人や、職人達からしたら、ある意味稼ぎ時だな。
そんなこんなで、一組目。
ジアストール王国女王、ルルシアヌ・ジィル・ジアストールが、ご到着。
護衛達を置き去りにして、大股で向かって来るなんて、ルシィらしいわ。
「……ルシィ来るの、早くね? 普通女王って、時間ギリギリに来るモノだろ」
「ふんっ、別に構わぬじゃろ。夜までのんびりと、この地を満喫するのじゃ」
「そう言う事か……遊ぶなら、別館の二階に行けよ。カードやサイコロとかの、ちょっとした遊び場作ったから、楽しめるかもだぞ」
「何じゃそれは?」
「ボソッ(本気でこの異世界、娯楽少ないだろっ)」
まさかの、カードやサイコロを知らんだと?
思い返してみれば、和土国や連邦国で、カジノとか見た事無いな。
魔物が跋扈すると、娯楽が育たない訳か。
「陛下。わざわざの御来訪、心より御礼申し上げます。お時間まで、どうぞごゆるりと、お寛ぎ下さいませ」
「そう畏まらんで良いわ。ずっと思っておったが、ドゥシャよ。影の時の方が、口調が砕けておったであろうに」
「陛下、何の事に御座いましょう?」
何それ初耳ですが。
ドゥシャさんが影の時って、今と違って、もっと砕けた喋り方だったの?
「おぉ怖い怖い、そう睨むで無いわ。儂は時間まで、この都市を見て回る故、お主らはお主らの仕事をせい」
「陛下! 我々を置いて行かないで下さい!」
「煩いのぅナブリル。兵達を宿舎に置いて、さっさと町へ行くのじゃ」
知らない従者だな。
そういや、貞操帯さんは、帝国に行ったまま、帰って来てないんだったか。
「陛下。先に御部屋へ御案内致しますので、その後でも、時間は御座いますよ」
「ふむ、そうじゃのぅ。では、部屋に案内せい」
「畏まりました。流様は、後に来るお客様の応対を、お任せ致します」
はい、そのまま置き去り流です。
あのルシィの事だから、時間いっぱいまで、ドゥシャさんを連れ回すだろう。
と言う事は、俺一人で出迎えですか?
何ちゃって貴族の、流さんが?
「……なる様になるか?」
館の玄関で、こうして一人で佇んでいると、何だか悲しくなってくるよね。
そんな事を思っていたら、新人メイドが顔を見せ、どうやら二番手が来た様だ。
「領主様。ドェロ・ベロキッチ男爵様が、お見えで御座います」
「二番手…って、誰それ?」
ドゥシャさんが指示した、色んな貴族に招待状を送ったから、名前まで気にしていなかったけど、マジで誰それ?
流さんの、貴族お迎えタイム終了。
この二、三時間の間に、三十名以上の貴族が来たけど、案外マトモな人達ばかりだった。
名前は……色々と突っ込みたいけどな。
「茶を飲んで、一服しよ……」
もう直ぐ十二時だし、次の貴族からは、そのまま御部屋へ御案内して貰う。
じゃないと、作り笑いが崩壊して、威圧振り撒き魔神モード全開!!
パーティー解散!!
ドゥシャさん鬼ギレモード突入!!
そんな事になったら、お洒落をしたミルンとミユンに、脛バットされちゃうよ。
「ミルンの友達の貴族、まだ来て無いな。名前なんだっけ……クズール君だっけ?」
いつ知り合ったのか知らんけど、招待状は送ったんだし、待てば来るだろう。
と言う事で、自室にてゴロゴロ。
この領主館の中で、一番小さい六畳一間の空間が、俺の自室となっている。
普通の領主なら、だだっ広い部屋に、調度品とかを飾るらしいけど、俺にそんな趣味は無いし、この広さで十分なんだ。
勿論、寝室は別にあるけど、一息吐くなら断然、この部屋が良い。
「欲しい物は、この異世界だと無いからなぁ」
炭酸飲料と、芋チップス。
パソゲーと大型モニター。
あとはジャージ。
炭酸飲料と芋チップスは、何とかなるだろうけど、パソコンとかは無理だ。
古代人が居た時代には、あったのだろうか。
列車、義手義足、ドールの様なロボ、魔法小銃や、効果付きの武器防具。
これだけ発展してて、滅んだ訳だからなぁ。
「アルテラに聞けば……いや、どうせ作れないんだし、無駄な事か」
数世紀、時代が進めば、或いは……か。
コンコンッ────『流さーん。アズヴォルド・ラダン・ジルディス辺境伯様が、お見えになってますよぅ』
「……ゴロゴロタイムに来るなよなぁ。ラナス、ここに案内してくれ」
『えっ……駄目ですよぉ! こんな狭い部屋だと、お客様に失礼ですぅ!』
「一応俺の自室なんだけど……」
『貴族様用の、応接室に御案内しますのでぇ、早く来て下さぁい』
言うだけ言って、行きやがった。
アトゥナがメイド長になってから、ラナスとコルルの俺に対する扱いが、淡白なんです。
あっさりしてると言うか、諦められてると言うか、少し寂しくなっちゃうぞ。
「よっこらせっと……行くか」
体を起こして柔軟体操。
アズヴォルドが来てるって事は、ノイズのお嬢ちゃんも来てるのか?
ミルンの良い遊び相手だな。
貴族の応接室へと足を運び、扉をノック。
「流だ。入るぞー」
声をかけ、扉を開けようと、ドアノブに手をかけた瞬間、自動ドアの如く扉が開き、ポスっとお腹に何かが埋まった。
「……事案になるから、勘弁してくれ。久々だなノイズ嬢、元気してたか?」
「はい…元気にしてました。すーっはーっ」
「おいアズヴォルド卿。お宅の娘が、俺の匂いを嗅ぎまくってるんだけど」
部屋の中には、優雅に茶を飲む、子煩悩なおっさんが居るのだが、苦笑いを浮かべるだけで、一向に助けてくれない。
「久しいな、小々波卿。それと、娘のノイズの事は、許してやって欲しい。貴殿が婚約パーティーをすると聞いて、泣いておったのだ」
「泣く程喜んでくれたのか」
「っ!? んーっ!」
何故かポスポスと、ノイズ嬢が俺の腹を殴って来るんだけど、ミルンと違って、可愛い殴り方だなと思う。
ミルンパンチは、抉り込む様に来るからな。
「小々波卿……貴殿は、鈍感と言われた事は、無いだろうか。いや、これ以上はよそう」
「何のこっちゃ? ノイズ嬢、失礼しますよっと。よっこいせ」
ソファに腰掛け、アズヴォルドを見る。
ノイズ嬢の傷が治ったからか、以前と比べて顔色が良く、ダンディさが増しているな。
んでノイズ嬢は、何で俺の隣に座るの?
普通は、父親の隣だろうに。
「ふむ……娘の気持ちを考えれば、何とも心苦しいが、先ずは婚約おめでとうと、述べさせてもらおうか」
「あんがとさん。まだ婚約段階だけどな」
「側室候補は、かの殺戮人形と聞いたのだが、まだ空きは有るのかね?」
「久しぶりに聞いたな、その通り名。あと空きって何だよ空きって……」
シャルネの奴はアレだぞ。
押し掛けて来て居座って、いつの間にかミユンに推薦貰って、婚約しちゃったパターン。
「思い出したら、頭痛くなって来た……」
「その感じであれば、空きは有るな。娘よ、この小々波卿は、押しに弱そうだ」
「はい…っ、頑張ります」
「何の話をしてんだよ……で? わざわざ雑談する為に、俺を呼んだのか?」
アズヴォルドは知り合いとは言え、ジアストールの大貴族。しかも、なんちゃって貴族の俺と違って、ちゃんとした辺境伯様だ。
だからこそ、腹の探り合いとか、胃が痛くなるから、ぶっちゃけ止めて欲しいんです。
「相変わらず、腹芸は好かぬか。それならば、率直に言おう。ファンガーデンの精鋭達を、借り受けたいのだ」




