2話 婚約御披露目パーティー.2
炎終十一年、土の月の六日目。
三月六日と、言い換えても良いだろう。
朝日が『良い天気だぜ』と、顔を出して間も無いのに、犬人達が慌しく動き出す。
パーッパパパッパッパップーッ!
パーッパパパッパッパップーッ!
貴族門の城壁の上部から、ラッパ音が、ファンガーデン中に鳴り響いた。
二度のラッパ音から分かる通り、こんな朝っぱらから、二組の貴族様の御到着だ。
『整列! 間も無く馬車が通る! 各員持ち場に急ぎっ、安全に馬車を誘導せよ!』
「「「了解っ!」」」
貴族の馬車を先導するのは、ファンガーデンが誇る、機動隊の馬人族だ。
その馬人族が、立派な装具を付け、俺の貴族紋が施された、立派な旗を掲げて歩む。
貴族門から入った馬車は、居住区、特別区、商業区の大通りを、ぐるっと回り、領主館の前に到着するのに、一時間をかける。
遠目で見て分かる通り、貴族の馬車は無駄に豪華で、見世物としては最適だからだ。
『もう直ぐっ、貴族様の馬車が通ります! 規制線を越えない様っ、注意して下さい!』
『露店へ行くなら、迂回して下さーい!』
『見物人は前へ出ないで! 危ないですよ!』
馬車の動線を確保するのは、歩兵部隊の面々であり、それを補助するのが、オーガ部隊。
何処にでも馬鹿は居るから、間違っても貴族の馬車を止めない様に、周囲に目を光らせ、場合によっては力尽くで対応する。
パーッパパパッパッパップーッ!
『次の馬車が来るぞーっ! 機動隊員は持ち場へ急げ! 旗を忘れるなよ!』
『馬車の先導をする! 道を開けろ!』
慌てず騒がず冷静に。
各部隊長が指揮を執り、護衛付きの貴族の馬車を誘導したいるのが、ここからでも見える。
「上手くやってる様だな」
貴族門から少し離れた位置にて、建物の影から、そっと見守り流です。
「最初の馬車は……ルシィかよ。護衛が多過ぎて、攻めて来たかと勘違いするだろ」
王族用の金ピカ馬車で、無駄にデカい。
懐かしの、リティナの馬車よりかは小さいけど、それでも、動線ギリギリの大きさだ。
「派手に来たなぁ。あの感じだと、ドレスまで金ピカ……は流石に無いか」
この婚約御披露目パーティーの主役は、ドゥシャさんとシャルネ、ミルンとミユンだ。
もしも、この四人より派手なドレスだったら、そのままお帰り頂こう。
後世にまで伝わる、黒歴史にしてやろう。
「ルシィには、慰問もして貰わないとだし、余程の事が無い限りは、帰さないけどな」
院長影さんを管理人として、リティナでも治す事の出来無い、傷を負った人達に、仕事をして貰う施設。
あの、スラム化しそうな場所に居た人達を集め、特別施設を作った。
生まれ持った障害の所為で、碌な仕事にありつけず、魔物に襲われ、死ぬかもしれない中で、ファンガーデンまで来た、逞しい人達だ。
「機械の無い世界なんだから、どんな人でも、最高の人材なのになぁ」
義手義足の資料は有るんだし、研究チームを作って、調べて貰おうか。
「……っと、そろそろ戻らないと」
パーッパパパッパッパップーッ!
ラッパの音を背に、領主館へ猛ダッシュ。
領主館正門前には、新しく雇い入れたメイド達が待機しており、その先頭で、アトゥナが凛とした姿で立っていた。
「よっ、一番手はルシィだったから、そんなガチガチにならなくても良いぞ?」
そう俺が声をかけた瞬間、メイド達が一斉に頭を下げ、『お帰りなさいませ、御領主様』と、見事なカーテシーを披露。
「うんうん……嫌がらせか?」
「こんな一大事に、外に出てるのが悪いだろ。ドゥシャ様が探してましたよ」
「外見に行くって、言ったんだけどなぁ」
「早く中に入って、着替えて下さい。女王様が来るのなら、出迎え必須でしょ」
「へいへい、分かりました」
アトゥナに言われるがまま、衣装室へと行き、待ち伏せて居たラナスとコルルに、あっと言う間に着替えさせられ、軍服風の流です。
貴族の服装じゃ無いって?
俺はコレで良いんだよ。
「なぁコルル、ドゥシャさんは?」
「ドゥシャ様なら、陛下が来るので、流さんを探していました。今は自室に居ますよ」
「……影さんから報告受けたのか」
腕時計の時刻は、八時半。
ルシィが到着するのに、後三十分はかかる。
「ドゥシャさんの部屋に行って、のんびりと、茶でも飲んで待つか」
ラナスとコルルに礼を言って、そのままドゥシャさんの部屋に向かい、扉をノック。
「ドゥシャさん、流だ」
『どうぞ、御入り下さいませ』
「失礼しますよっと」
部屋に入ると、ドゥシャさんは未だ、スタンダードなドレスのままだ。
御披露目ドレスは、まだなのか。
「どうかなさいましたか?」
「まだ、御披露目のドレスじゃ無いんだなと思ってな。どんなドレスか、俺知らないし」
「それは、夜会までのお楽しみに、御座います」
「そりゃ楽しみだ。ドール、お茶を頼む」
「了。超渋めで、お淹れ致します」
ドールとドーツは、メイド服を改良したかの様なドレスを着て居て、もしかして……マネキン扱いされて無い?
「どうぞ。超渋めのお茶になります」
「あんがとさん。ズッ……甘っ!?」
「訂正。超甘めのお茶になります」
「俺を揶揄う機能、マジで要ら無いんだけど。勿体無いから飲むけどさ……甘いっ」
この、甘味の中から、更に甘さが襲って来て、それ以外の味がしない甘さって、何を使ったらこんなに甘くなるの?
「胃もたれしそうな甘さだ。うぷっ……」
「流様。もうそろそろ、お出迎えの御準備を」
「分かってる……行こうかドゥシャさん」
甘さで胃が重くなるとか、最悪なんです。
吐きそうになったら、ルシィにぶちまけて、盛大に泣かせてやろう。




