2話 婚約御披露目パーティー.1
炎終十一年、土の月の五日目。
三月五日の方が、分かりやすいだろう。
婚約御披露目パーティーの準備を始めて、あっという間に半年が経ち、明日からの三日間、ファンガーデン全体でのお祭りだ。
この半年の間にも、近くのダンジョンでスタンピードとか、黒姫の汚物爆撃とか、ピュアの駄々っ子洪水とか、色々と問題が起きたんだけど、何とか無事、解決する事が出来た。
「……明日から三日間かぁ」
もうね、不安で不安で仕方が無いの。
ドゥシャさんが指示を出して、アトゥナがそれを実行してるから、準備は万端なんです。
ダンスホール兼、特別宿泊施設も完成しているし、いつ貴族達が来ても、問題無し。
それじゃあ、何が不安なのかって?
貴族の応対を、俺がすんのよ。
「嫌な客でも、笑顔で迎えろとか、リーマン時代が懐かしく思えるわ」
だからこうして、川で釣りをしています。
明日から、強制貴族応対地獄が始まるんだから、前日ぐらいは、のんびりしたいのよ。
「釣れないなぁ」
魚影は見えるのに、餌に食い付いてくれないのは、俺の心が荒んでいるからだろうか。
少し離れた所を見ると、ミルンとミユンは、ピュアを餌にしての、入れ喰い状態。
ロープでぐるぐる巻きにされたピュアを、ミルンとミユンが川へ投げ込み、引き揚げると、あら不思議。沢山の魚をピュアが抱えて、ちょっとした漁だろう。
「……狡いと言うべきなのか?」
洪水を起こした罰として、ああやって活用されているピュアだが、良いのかそれで。
「あーっ、のどかだぁ」
空を見上げると、黒姫がデブドラの姿で、ファンガーデンをぐるっと旋回中。
その首には、『明日から祝日』と書かれた、巨大な板をぶら下げており、汚物爆撃の罰を、しっかりこなしている様だ。
「アレは、ヤバかったなぁ。黒姫の汚物が、屋根を突き破るとか……考えんの止めよ……」
ダンジョンのスタンピードなんかより、汚物爆撃の被害の方が、大きかったからなぁ。
ポチャッ────「おっ、来た来たっと……」
ミルン達が取ったお魚は、両手で担がないと持てない大きさ。
俺が今釣った魚は、手の平サイズ。
「さようなら小魚さん。大きくなってから、また会おうな……」
すいすいと泳いで行く、小魚を眺めていると、何だか少しだけ、心が落ち着く。
逃した先で、ピュアに捕獲され、そのまま塩振り焼魚になってしまうまでは、だが。
「釣って直ぐに直火とか、凄い事してるなぁ」
ピュアが捕まえ、ミユンが引っ張り、ミルンがそれを補助しつつ、塩振り焼魚を作る。
完璧な連携とは、この事だろう。
『おとーさんも食べるーっ?』
しかも、釣れない俺に気を使って、釣った魚を分けてくれるとか、有難い。
「一匹貰うわーっ。よっこいせっと」
釣りモードから、頂きモードに変更だな。
焚火に近付いて、『お父さんの分っ』と、差し出された巨大焼魚を食べる。
「んぐっ、流石ミルン。良い焼き加減だ」
外はカリッと、中はふんわり仕上がって、これだけで最高のご馳走様です。
「塩加減と焼き加減の、バランスなの」
「こだわりが凄い……三人共、明日は頼むぞ」
「どっせいっ! ドレスの準備はバッチリなの」
「ぷぁっ、もう魚居ないわ。取り過ぎるのもアレだし、もう終わりにしたらどうなの?」
ミユンは何だ、漁師さんかな?
どっせいとピュアを引き揚げて、跳ねる魚をカゴに入れたら、『ちょっ、まだやるの!?』悲鳴をあげるピュアを、川に蹴落とし、そのまま待ち始めた。
「明日のお料理に、使えるかもだから、まだまだ足りないの! 頑張るのピュア!」
水の精霊は、溺れないと言ってもだ、側から見たら犯罪臭がするんだけど。
「ミユンが怖いの」
「洪水の所為で、少しばかり畑が被害受けたからな。怒るのも、理解は出来るぞ」
実はこの場所、領主館の裏手の川で、ここから洪水が押し寄せてきたから、小麦や芋畑が、偉い事になったんだ。
米の被害は無かったけど、少ない被害とは言え、主食の小麦がやられたから、優しいミユンだって普通に怒るわな。
「ご馳走様。それじゃあ俺は戻るけど、あまり遅くならない様にな」
「「はーい」」
『がぽぽぽっ』
川をぐるっと、館の裏門へと回り、靴の泥をしっかり落として、中へと入る。
今から何をするのかって?
明日の為の、打ち合わせです。
派手な貴族達の馬車の列を、パレードに見立てて、交通規制もしなくちゃだし、やる事は沢山有るのよ。
会議室に入ると、ドゥシャさん、シャルネだけで無く、冒険者ギルドのマスターである、ネリアニスと、工房の親方であるドルバンニ、繁華街を纏めるヤナギが、椅子に座って話をしていた。
壁際には、アトゥナがポツンと居るけど、どうやらこの会議の、進行役の様だ。
ハズレくじ乙っ!!
「よっ、親方。来て貰って悪いな」
「悪いと思ってるなら、もっと早よ来んかい。年寄りを待たせおってっ」
「ミルン優先だから、仕方無いだろ? ヤナギも、随分と久しぶりだな。元気だったか?」
「元気じゃのうたら、来ぇへんわぃ」
「相変わらず顔怖ぇ……」
親方とヤナギが揃ったら、どこからどう見ても、ヤバい会合してる風になるぞ。
そんな事を思いながら、椅子に座って直ぐ、置かれていた茶で一服。
「ふぅ……んじゃ、最終確認でもしようか。アトゥナ、始めても良いぞ」
「分かっ…りました。それでは、僭越ながら俺が説明させて貰います。皆様、お手元の資料を、ご確認下さい」
長机の上に置かれた、紙の束。
これが、ある意味で表に出せない機密であり、明日からの三日間の、予定表でもある。
「先ずは、御来賓の方々の、訪問予定ですが────」
長々と、されど妥協を許さない、三日間の最終確認が、淡々と進んで行った。




