2話 異世界のお約束.2
「ふぅ……声を上げたらスッキリしたぜ」
「グウウッ」
またミルンが威嚇してる。
また噛み付かれるのは勘弁だが、はてさてどうしたもんかねぇ。
今の話を聞く限り、ここが異世界であると言う事は、疑いようの無い事実。
豚野郎(漢)も居るし。
犬耳っ子も居るし。
「どうしたもんかぁ……」
「うぅ?」
うん、それ止めてね?
俺の反応見て、首を傾げるの。
可愛い過ぎて、鼻血が出るだろ?
「これが、萌えと言うやつか……」
「もえ?」
家の中を再度確認。
天井や壁は、隙間だらけ虫だらけ。
所々に、真っ赤なシミや、何かの"骨"が転がってるけど、歯磨き用の"骨"ですよね?
風呂無し、トイレ無しの、ガチサバイバル。
この犬耳っ子。こんな環境で、どうやって暮らしているんだ。
現代っ子の俺なら、一日二日もこんな環境に居たら、泣き出して踊っちゃうぞ?
その後に踊り狂っちゃうぞ?
「ミルンをまじまじと……むふっ♪」
「気持ち悪いっ!?」
このふわふわ頭、金髪か茶髪の中間かな。
瞳の色は金色で、気品と言うのか生命力と言うのか、力強さを感じる。
死んだ魚の目の俺とは、真逆だよね!
お顔は多少痩せてるけど、可愛いお顔。
あと胸は……無い乳だな。
尻も小さい。
この感じだと、見た目は幼女、中身は婆さんって線は、無さそうだ。
少しだけ安心したな。
本気の姿とか言って、ムキムキ筋肉犬耳女性になられたら、おっさん泣くからね?
一生モンのトラウマになるからね?
「……今どこ見て頷いた!?」
「ミルンさんの御胸様ですが!!」
「ハッキリ言った!?」
うんうん、コミュニケーションは大事だ。
こうやって少しずつ、距離を近付ける!
だって、犬耳と尻尾を、触りたいから!
「ミルンは今、何歳なんだ?」
「おとし? いち、に、さん、六さい?」
「四と五、飛ばしたなぁ。六歳って事は、一年生じゃん。何サバイバルしてんだよ……」
「一年生?」
「友達百人作る年って事だ」
「百人っ!?」
六歳児でサバイバル。
何か、嫌な予感するんだけどなぁ。
獣族は村に入れないとか言ってたし、人間至上主義的なヤツなのかね。
「糞喰らえっての」
「うんちは食べません! お腹壊すから!」
「それ、食べた事有るヤツのセリフだよね?」
「……食べてないもんっ」
これは絶対に食べたな。
目が泳いでるぞーい。
ミルンはアレだ。
耳と目と尻尾を見れば、嘘を吐いてるかどうかが、丸分かりだよな。
耳がペタンっとしてて可愛い。
尻尾が振る振るしてて可愛い。
目がきょどってて面白い。
「イコール! 食べた事が有る!」
「食べて無いもん! お口に入っただけ!」
「普通に自白したっ、だと!?」
「っ、流さんしつこい……ぐううっ」
これ以上追求したら、また噛まれそうか。
少し面白かったんだけどな。
こうして誰かと話すのは、久しぶりだし。
それに、何で俺、初対面の犬耳っ子と、こんなに話出来てんだろ。
「……何か、話し易いんだよなぁ」
「?」
「んーっ……何だろこの感じ」
「どうしたんですか?」
「どうしたんだろうな……」
「?」
「ミルンさんや、ちょっと来い来い」
手招きして、ミルンを近くに呼んだ。
警戒しながらも、物凄く警戒しながらも、ゆっくりと近付いて来るミルン。
ちょっと警戒し過ぎじゃね?
「……何ですか」
俺は、近付いて来たミルンの頭に手をのせ、そっと優しく撫でた。
何故か、自然と、そうしたくなった。
意味が分からん。
「ミルンは凄いな……」
「……ボソッ」
「んっ? 今なんか言った?」
「早く頭から手を退けて!」
怒っちゃった。
でも、今さっき、パパって言ったか?
聞き間違い……だよな?
こんな、初対面のおっさんに、言う台詞じゃ無いだろうし。
「っとそうだ! 今は魔法だ魔法っ!」
異世界素敵能力を、どうやったら使えるのか、考えないとだな。




