1話 婚約御披露目パーティーの準備.7
全裸の小花さんに、替えの服を用意しつつ、時間を確認すると、もう二時半。
遅過ぎる昼飯タイムだけど、お詫びも兼ねて、小花さんに米を振る舞おう。
そう思い、メイドのラナスに配膳をお願いして、ウキウキわくわく待ってます。
「流様。挙動が怪しいので、少し落ち着いて下さいませ。お客様の前ですよ」
「そんな事言われても……自領製米なんだから、楽しみで仕方ないだろ?」
「……私は気にしてません。と言うより、奥方様の背後に居る方は……どなた様でしょうか」
顔面水晶メイドの、ドールとドーツです。
なーんて答えても、疑問の解消にはならんだろうけど、詳しく教える訳にはいかない。
「ただのメイドだ、気にしなくても良いぞ」
「了。メイドのドールと申します」
「了。メイドのドーツと申します」
「小花様。当家の護衛の様な"モノ"と、御認識頂ければ宜しいかと」
「護衛ですか。生きている者が発する"気"を、全く感じないとは……っ、失礼しました。詮索すべきでは無いですね」
この人今、"気"って言ったのか?
魔力云々も良く分からんのに、気なんて言う素敵チートまであんの?
確かに、小花さんの顔を見ると、東の国の血が、混ざってるっぽい感じだけど、ツキヨ国って、気を使える者達の国なの?
「と言う事は、皿くれお化けも"気"を使えると」
「っ、今のお言葉……"気"をご存知なのですね」
「そんな構えなくても良いって。知らんとは言わんけど、見た事なんて無いぞ?」
「見た事の無いモノを、ご存知だと……」
異世界では、間違い無く見た事は無いな。
日本だと、それらの情報や本が山の様に有るから、眉唾物の知識だけなら持ってます。
あとは二次元のアレだ。
手から気を放ったり、◯◯拳何倍とか、光り輝く野菜の人の知識だな。
「……気で空を飛べたりする?」
「それだと我が国は、連邦国の一つでは無く、一強の国家として君臨出来ますね」
「無理って事か。変な事聞いてすまん」
空を飛ぶと言ったら、あのぷにっと黒姫の奴は、どうやって飛んでるんだろう。
必死に翼を、バタバタしてる訳も無く、スムーズに飛んでるよなぁ。
「あれっ? そういや、黒姫の姿が見えないけど、あいつ何してんの?」
「黒姫様は、シャルネと共に、港の建設に御座います。あの大きさですので、便利に使われているものかと」
「あぁ……重機扱いされてんのね」
「重機とは、何で御座いましょうか?」
「連邦国で見た、列車みたいなモノだよ」
列車と聞いて、ピクッと小花さんが反応したけど、そこは敢えてスルーだな。
下手に突っ込んで、墓穴を掘りたく無い。
コンコンッ────『ちわーっす。昼ご飯をお届けに来たっすよーっ』
「ドゥシャさん……コレは、どう返答すべきなのか、迷うんですけど」
「頭が痛いとは、この事に御座いますね」
「御二方共、どうなされたのですか?」
この声の持主を、小花さんが知る訳が無い。
ラナスに持って来る様頼んだのに、何でウザ子が来てるんですか?
コンコンッ────『あれっ? 魔神様ーっ。居ないっすかーっ。部屋間違えたかなぁ? 確かにここの筈っすけどぉ……』
荷物の配達員みたいな事を、言い出したぞ。
このままだと、不在届けを書き出して、そのまま帰りそうな雰囲気だ。
『ちょっとーっ! 何勝手に持って行ってるんですかーっ! 私のお仕事ですよぅ!』
『えーっ、良いじゃ無いっすか。ちびっ子が働く必要無いっすよ』
『私のお仕事なんですぅ!』
ラナスの仕事を、ウザ子が横から強奪かよ。
あいつ何しに来たの?
と言うか、お客様来てんのに、扉の向こうで言い合いって、ドゥシャさん震えてるぞ。
『配膳車返してぇ!』
『ふはははっ! ちびっ子如きに、この惨影がやられるとでも、思ってるんっすかぁ!』
『んんんっ! ドゥシャさまあああ──っ!』
『ちょっと待つっす!? それは反則っすよ!』
隣をチラッと見ると、ドゥシャさんはいつもの澄まし顔だけど、こめかみに血管が浮かんでいるのは、見間違いでは無い。
「……ラナスっ! 許可します!」
『!? 分かりましたぁ!!』
「ドゥシャさん? 何許可したの?」
「聞いていれば、分かるかと存じます」
「聞いていれば分かる……」
扉の向こうで、一体何が起きているのか。
『ドゥシャ様の許可が出たのでぇ、もう容赦しませんからぁ!』
『えっ……何っすかソレ!? ぐっ! ちょっと待つっす! 反則! それ反則っす!?』
『逃がしませーんっ!』
どったんばったんと、音が聞こえているが、何やら、ウザ子が劣勢な感じだ。
ウザ子は暗部の一人なのに、ラナスってそんなに、強かったっけ?
少ししたら、スンッと静けさが戻り、諍いの決着がついた様だな。
「……どっちが勝ったんだ」
「流様。ラナスは幼ないながらも、私が鍛えた病魔族の一人なのです」
「今の言葉で、大体分かった」
ガチャっと扉が開き、配膳車を押して入って来たのは、勿論ラナスだ。
病魔族って、影を圧倒出来るんだなぁ。
一瞬だけ、扉の向こうが見えたけど、ウザ子が泡を吹いて、昏倒してたよ。
「お騒がせしてぇ、申し訳御座いませんっ。御食事をお持ちしましたぁ」
「ラナス。次にあの者を、館内で見かけたら、即座に昏倒させなさい」
「ふぇっ…分かりましたぁ」
「目標は五秒です。精進なさい」
「うぅ、頑張りますぅっ」
この二人は、何のやりとりをしてるの?
小花さんが、冷汗を浮かべながらドン引きしてるの、見えてるよね?
「失礼致しますぅ」
小さいラナスがカチャカチャと、クローシュで覆われた皿を並べて、何故かそのまま、部屋から退出。
「……蓋取らないのかよ!?」
「流様の意図を、汲み取ったものかと」
「自分で開ける楽しみってか……どれが米だ?」
一人あたりの皿は三枚。
このどれかが米の筈だけど、今のラナスの行動からは、嫌な予感しかしない。
「これは……頂いても?」
「あっああ、すまん。本来なら、配膳した者が開けるんだが。ドール、ドーツ、お願いしても良いか?」
「いえっ、自分で開けますのでっ」
「良いって、こちらのミスだしっ」
「了。失礼致します」
「了。失礼致します」
小花さんの蓋を、三つとも取りました。
一品目、香辛料を使った、巨大な焼魚。
二品目、柔らかオーク肉、葉野菜を添えて。
三品目、香り豊かな、温かスープ。
念の為、俺とドゥシャさんの皿も確認。
全く同じお料理ですね。
「ふぅ、やっぱりな。そんな事だろうと思ってましたよ。だって厨房に、腹ペコキッズ達が居たからね……」
「流様、余り怒りませぬ様」
「えっと、とても美味しそうな、御食事ですね」
何かを察したのか、小花さんに気を使われて、流さんは泣きそうなんです。
泣かないけどね。
取り敢えず、叫んでおこうか。
「ミル────────ンっ!! お部屋に来なさああああああ────いっ!!」




