1話 婚約御披露目パーティーの準備.5
土鍋五つで米炊き中。
目が離せないとは、こう言う事だろう。
「ごーはんっ、ごーはんっ、ぐつぐつまあだ?」
「蓋を取ったら怒られるーっ」
「ごーはんっ、ごーはんっ、ぐつぐつまあだ?」
「ピピィ、ピィピィ、ピーピピキュッ」
ミルン達、また即興で歌ってる。
今度はエトワルも追加されて、良い感じの音色を奏でているぞ。
翻訳されないと言う事は、あれは鼻歌? それとも、翻訳し切れないだけなのか?
「おのぉ、領主様…これは、いつ迄待てば?」
「まだだぞ。蓋を取ったら台無しだからな」
「はぁ……」
米研ぎをして土鍋に入れ、水の量も完璧に調整したから、美味しく炊ける筈。
ニンニ君がそわそわとしてるけど、しっかりと魚を焼いてる辺り、流石料理長だ。
他の調理担当も、しっかり統率しているし、俺の目に狂いは無かったな。
「お父さんっ、まあだ?」
「まだまだだぞ。火を止めても、三十分は放置するから、昼御飯は二時になりそうだぞ」
「二時っ……遅めのお昼なの」
「ミルンお姉ちゃん。お米は手間暇がかかるから、仕方無いと思うの」
「ぬぅ…お腹空いたっ」
その手間暇があってこその米だな。
室温管理さえすれば、長期保存が出来て、腹持ちが良い穀物なんて、最高でしょ。
「そういやミユン、村長のとこの畑は、どんな感じなんだ? 米作れそうか?」
「まだ先っ。今は、お芋や葉野菜を中心に育ててるから、お米は違う村で作る予定」
「成程。優先順位を決めてるんだな」
「そうなの。ミウやメオが居るから、作業効率はアップしたけど、やっぱりファンガーデンとは、勝手が違うっ」
「そりゃぁ、王都から離れてるからなぁ。俺の全力ダッシュでも、相当時間かかったし」
それなら、婚約御披露目パーティーには、村長は来れないだろうな。
距離が離れている事と、領地を任せられる人員が足りないから、離れられないだろうし。
「迅号の全速力なら、数日あれば着くから、折を見て話しに行こうかね」
「ピィッ…良い匂い!」
「ふっくらぐつぐつ、良い匂い!」
ミルンとエトワルは、土鍋から出てる湯気に夢中で、涎がえらい事になってるな。
まだだから、蓋は取っちゃ駄目だぞ。
そうして雑談していたら、何処からか俺を呼ぶ声が聞こえたが、これはコルルの声か?
『流さぁーん、どこですかぁーっ』
「コルルーっ! 厨房に居るぞーっ!」
『お客様が来てますよーっ』
大事な米炊きの最中に、まさかの客かよ。
行きたく無いなぁ。
でも行かないと、コルルがドゥシャさん連れて来て、強制的にレッツゴーだからなぁ。
「お父さん、行かないの?」
「……土鍋を見守りたい」
「パパ! ミユンとニンニが見てるからっ、お客様対応して来るの!」
「ピィーッ(見てるーっ)」
不安だなぁ。
何が不安って、俺が対応している間に、炊けたお米が全て、無くなるんじゃないかっていう不安なんです。
この娘達の顔見たら、離れたく無い。
「領主様、しっかり見てますので、大丈夫ですよ。後ほどお持ちしますので……」
「言ったなニンニ君……本気で頼むぞ」
「流さん! お客様ですぅ!」
とうとうコルルが来ちゃったよ。
ほっぺをぷんぷんさせて、羽根が忙しなく動いてるから、ちょい怒だな。
「へいへいったく、この忙しい時に誰だよ」
愚痴愚痴言いながらも、応接室にご到着。
コルル曰く、貴族として出迎えて良いのか、分からなかったので、商い用の応接室にて、来訪者を待たせているらしい。
「……貴族か分からん奴て、どんなだよ」
扉の前で、意味も無く深呼吸と。
それじゃあ、米炊き邪魔した奴の顔を拝んで、さっさと戻りますか。
ガチャッ────「流様、遅いですよ」
そのままバタンと閉めて、考える。
何故かドレス姿のドゥシャさんが居て、お茶を片手に、来訪者と雑談していた。
来訪者もチラッと見えたけど、全く知らない女性で、何か幸薄そうな顔だったな。
『流様……早く入って下さいませ。お客様がお待ちに御座います』
部屋の中から、さっさと入って来い指令。
一体俺に何の御用なの?
訳が分からず、そっと扉を少し開けて、隙間から御挨拶してみる。
「流辺境伯様だぞーっ、あんた誰?」
「流様…それは失礼に当たります。彼女は連邦国ツキヨからの使者、小花様に御座いますよ」
「皿はあげないぞーっ」
「流様、御早く御入り下さいませ。さもなければ……ミルン御嬢様に接触禁止令を出しますが」
ガチャッと入ってすかさず土下座!!
「勘弁して下さい!! ドゥシャさんの言う事ならっ、ミルン聞いちゃうから止めて!!」
ミルン接触禁止令なんて、ミルンなら遊び感覚で逃げそうだから、本気で俺のメンタル崩壊するぞ? 俺を殺す気なのか?
「あのぉ…先に言われました通り、連邦国家からの使者として来ました、小花と申します……」
「失礼致しました小花様。こちらが、このファンガーデン領の領主である、小々波流様に御座います」
「土下座姿勢ですまんな。流と呼んでくれて良いけども、皿くれ女の国から何で?」
「さっ、皿くれ女……我が国の代表が…皿くれ女だなんて……」
「流様……」
ドゥシャさん呆れ顔してるけどさ、間違った事言ってないからな。
垂れ目でぺったん睫毛バーンな、一度見たら忘れない顔なのに、皿くれ皿くれと、性格までヤバい奴なんだよ。
「んで、そのツキヨから何の様だ?」
「……連邦国からの、書状をお持ちしました。それと、我が国の代表は、十花忌道理様ですので、先程の皿くれ女は、御訂正下さい」
「訂正して欲しいなら、皿くれ女に皿を諦めさせないとな。ドゥシャさんは内容見たのか?」
「流様宛てに御座いますので、見ておりません」
「そうなのか? んじゃ、なになにっと」
書状の封を開けて、ピラっと確認。
成程成程、ふむふむと。
「……皿あげるから、帰ってくんない?」




