8話 連邦国家を見て回ろう.3
ノーザン連邦国の町、アバルト。
その冒険者ギルドに来たんだけど、正にテンプレを守るギルドだったらしい。
外観は、煉瓦造りの小洒落た建物なのに、中に入ると世紀末ですもん。
ギルドに入ると、中に居る男共が一斉に、コッチに目線を飛ばして来て、ドゥシャさんを見るなり、口笛を吹いてアピールして来た。
「ボソッ(感動もんなんですけど)」
「ボソッ(だん…流様、意味が分かりません)」
「ボソッ(だって見てよドゥシャさん。あいつら絶対、絡んで来るでしょ)」
「ボソッ(来た瞬間に潰しましょう)」
右横に座っている団体さんが、命知らずの口笛を吹いて来た野郎共で、馬鹿の集まりだ。
ドゥシャさんに手を出したら、その出した手を斬り落とされて、人生詰んじゃうぞ?
「だん…流様、受付はあちらですね」
「受付嬢は……普通の人?」
スタスタと、中央を突っ切って歩くドゥシャさん、格好良過ぎだろ。
俺は勿論、腰を屈めて低姿勢で通ります。
仕方無いだろ。染み付いたサラリーマンの癖は、早々抜けないんだから。
「失礼致します。買取をお願いしたいのですが」
「あーっ、はいはい。どれですかぁ?」
ギルドの受付嬢、ヤル気無いなぁ。
可愛い衣装を着てるのに、目に力が無いと言うか、死んだゴブリンの目をしている。
「だん…流様、品物をお願い致します」
「はいよ。受付さん、これ幾らになる?」
空間収納から出したのは、金の指輪。
随分前に手に入れてから、ずっと空間収納に保管してたけど、使わないしね。
「ふぅん、金ですか。この重さなら、五万ジェルクで買取ですねぇ……」
こんな時、毎回思うんだけど、他国の貨幣の単位なんて、分かりませんからね。
ドゥシャさんをチラッと見ると、頷いているので、買取金額は適正なんだろうけどさ。
「なら、それと同じ物が残り九個有るから、全部の買取をお願いしたい」
「はいはい。それじゃあ、五十万ジェルクでの買取となります。ギルドカード良いですかぁ」
「……俺、冒険者じゃ無いんだけど」
「だん…流様、私が提示致します。これで良いですか」
「はい確認しま……っ、ゴールド……」
受付さんが、ドゥシャさんの冒険者カードを見て、固まってしまった。
この国でも、やっぱりゴールドランクは凄いって事だよな。話し声に、聞き耳立ててた男共も、それ聞いた瞬間静かになったし。
「ドゥシャさんは、テンプレクラッシャーだよね」
「だん…流様、意味が分かりませんが」
「普通に強過ぎるって事」
「強い女性は、好みでは御座いませんか?」
「そこに好き嫌いは無いぞ」
好きか嫌いかを答えろと言われたら、強い女性は好きな方だろうけどね。
「おーい受付さんやーい。早よ買取してくれ」
「あっ……はい、えっと……こちらが五十万ジェルクになります。確認して下さい」
「ほうほう、これが連邦国家の貨幣か……」
硬貨に数字が彫られており、これが一万ジェルクなんだろう。
金貨では無い様だ。
技術大国なだけに、金の有用性を理解して、硬貨に使うのを止めているのだろうか。
「確かに五十枚有るな。それじゃあドゥシャさん、観光行くとしますか」
「気になる場所が御座いますので、先ずはそちらから見て回りましょう」
そう思って、ギルドから出ようとした。出ようとしてたのに、どこにでも、お馬鹿は居るもんだ。
テンプレ回収率百パーセント乙。
『なあそこの姉ちゃん。そんなひょろっとしたブ男よりも、俺らと遊ばねぇか?』
『そうそう。裏路地でヒィヒィ言わせてやるからよぉ。楽しもうぜぇ』
出入口近くに座って居たのか、ドゥシャさんがゴールドランクの冒険者だと、聞こえていなかった様だな。
扉を塞ぐ様に立って、通せんぼしてるけど、先に言っておくとしよう。
「グッバイたまたま」
『ああっ? 何言ってやがる』
『姉ちゃん乳デケぇなぁ。優しくしてやるからよぉ、大人しくしろや』
「だん…流様、少しお時間を頂戴したく」
せっかく観光しようとしてたのに、邪魔をされたから、ドゥシャさんプチ怒だな。
「潰しても良いけど、殺さない様にね」
「畏まりました。ここは、ミルン御嬢様に倣うと致しましょう」
『おい姉ちゃん。さっきから何を言って……』
『んっ? どうしたボブス?』
ここで、ドゥシャさんの能力を紹介しよう。
ドゥシャさんは、見ての通り、超絶美人の人間だけど、ジアストールの暗部の長だ。
オールラウンダーで何でもこなして、格好良いと思うのだが、ドゥシャさん自身は、そうは思っていないらしい。
全てが中途半端。
突出した才能が無い、ただの凡人。
本気でそう思っている様だ。
しかし、俺は憶えている。
初めて会った時、ミルンの全力突進を軽くいなして、軽々と持ち上げていた、あの恐ろしい程の怪力を。
と言う事は、絡んで来た二人がどうなるかなんて、考えるまでも無い。
ドゥシャさんの右手が、男顔面を掴み、ドゥシャさんの左手が、男の首を掴んで直ぐ、その指に力が込められた。
『あああああああああああああああああああああああああああああああ──っ!?』
『ごっ!? いぎっ!? まっ、かっ!?』
「それではだん…流様。少しゴミ掃除をして参りますので、今しばらくお待ちを」
ドゥシャさんは、二人の男を、万力の力で掴んだまま、冒険者ギルドから出て行った。
その光景を、目の当たりにした誰もが、こう思った事だろう。
あの人には、関わるなと。
「……俺なら耐えれるよね? 大丈夫だよね?」




