8話 連邦国家をぐるっとな.1
やあ皆んな、小々波流だよ。
俺は今、国境を抜けて、連邦国家側のとある場所で、のんびりと寛いでいるんだ。
どんな場所かって?
薄暗くて、空気が湿った、ナメクジが居たら大喜びな場所さ。
三方を石壁に囲まれていて、部屋の隅には小さな穴が空いており、そこから汚物臭が漂って来る、何とも不思議な場所だよね。
寝床は何と、木製のベッド。
毛布が無いから、仕方無く空間収納から出して、軽いツマミを食べながら、こうして数日の間、自堕落な生活さ。
「牢から始まる異世界生活。慣れたモンですよ」
『あっ、また食ってやがるっ! 毎度毎度、何処から出しやがるんだ!!』
「へいへい、渡せば良いんだろ」
牢屋の見張りに見つかっても、大丈夫。
ツマミを幾ら取り上げようとも、空間収納内に、山程備蓄がありますからね。
なんならお酒も有るし。
茶葉もあるから、お茶も飲み放題だ。
「なぁ牢番のおっさん。問題になる前に、早く俺を、此処から出した方が良いぞぉ、むぐむぐ」
『凶悪犯が何を言ってっ、だから食うな!?』
「おっさんもそれ、食べて見ろよ。名物のオークの燻製肉だから、感想くれ」
『……旨っ、肉の味が凝縮されてっ……酒が呑みたくなるだろうが!?』
酒はやらんぞ?
水と違って、それほど持って来て無いから。
何故俺がこんな場所に居るのか、簡単に説明しようと言うか、皆んなは分かるよね?
ドゥシャさんと、ジアストール側の国境を抜けるのは、正直簡単だった。
国境の兵に俺の紋章を見せれば、怯えて逃げ出し、隊長格が現れて直ぐ、何故か腰を抜かして、そのまま通行許可を貰ったからだ。
「ドゥシャさんが呆れ顔だったなぁ」
しかし問題は、連邦国家側の国境だった。
おいでませ、"真心の水晶"さん。
俺がその石に、『ほいタッチ』と触った瞬間、赤黒く輝いて、粉々に割れました。
見事に粉々だよ。
そして直ぐに、連邦国の兵達が集まって来て、俺はこうして捕まりました。
懐かしいな、この感じと思ったね。
「ドゥシャさんは、頭を押さえて、俺が連れて行かれるのを眺めているだけ」
「ボソッ(すっかり忘れておりました)」
そんな言葉が聞こえて来たけど、大丈夫だよドゥシャさん。俺もすっかり、忘れていたからね。ノーカンノーカン。
「そんなこんなで、一人寂しく牢生活三日目だ」
『何一人でぶつくさ……頭が可笑しくなったか』
「お気になさらず!!」
『頼むから、大人しくしてろよ』
大人しくしてますよ?
結局ここでも、あのイケメンに渡された国章のバッチは、役に立たなかった。
偽造を疑われてるのかね?
あのイケメンに、一つ貸しだな。
「んぐっ、んぐっ、ぷはぁ──っ、旨い!」
『だからそれ何処から出したの!? 絶対それ酒だろ! 俺にも呑ませろよ!』
「牢の鍵を開けたら、怒られるぞ?」
『ぐぅっ、早く交代来てくれええええ──っ!』
交代来たら、そいつにも見せびらかすぞ。
ちゃんと、商業ギルド所属の石材屋だって言うカードも見せたし、連邦国家の国章も見せたのに、こんなステキ環境に放置しやがって。
「ドゥシャさんが同行してなかったら、空間収納使って脱獄してるぞ」
『聞こえてるし止めろよ。脱獄なんてしようものなら……俺のクビが飛ぶだろ』
「そんなん知るか! 立派なニートに成って、家族を困らせるが良い!」
『離婚されっちまうわ!?』
そんな感じで、ギャーギャーと牢番と言い合ってたら、偉そうな奴が歩いて来た。
服が偉そうって意味だぞ。
『たっ、隊長殿!』
牢番が敬礼したな。
この国境の一番偉い奴か?
『小々波流、ノーザンへの入国を許可する。釈放だ……この牢を開けろ』
『へっ?』
「んっ? 案外早かったな」
こんなに早く釈放って、どうやって偉い奴に連絡したんだ? 伝書鳩か?
『隊長殿っ、コイツは凶悪犯ですよ!?』
『構わん。中央に問い合わせたら、この者と、連れの者を通す様にと、指示があったのだ』
『中央からっ……お前、一体何者なんだ?』
「ただのしがない石材屋だが?」
今回は、脱獄せずに済んだ様だ。
早く出て、ドゥシャさんの御機嫌を取らないと、待ち惚け三日間は不味いからな。
凝った体をほぐしながら、連邦側の国境を抜けると、馬車の隣にドゥシャさんが居て、俺を目が合った瞬間……脚を開いて中腰になり、頭を下げると言う、任侠の人の御辞儀だよねそれ?
「御勤め、御苦労様です。だん…流様」
「勘弁してくれ……俺は任侠の人じゃ無いぞ」
「任侠とは?」
「知らずにやってたのかよ……」
「ミルン御嬢様が、時折りされておりました、不思議な御辞儀に御座います」
「誰だよミルンに教えた奴っ……」
館の人達は知らないだろうし……ヤナギか!
あの見るからにヤバそうなおっさんなら、部下達にさせてそうだな。
ファンガーデンで焼肉屋やってるし、ミルンの事を孫の様に可愛がってるから、色々教えてるんだろうけど、悪影響じゃん。
「……帰ったら、あの禿げに釘を刺しとくか」
「禿げ……どなたでしょう」
「ヤナギのおっさんだ」
「あの方ですか……禿げっ」
ドゥシャさんが笑ってる?
禿げが笑いのツボなのか?
あのおっさん意外だと、禿げてる奴って結構少ないんだよな。
「ボソッ(禿げに猫耳)」
「ぶふっ……だんっ、流様っ、御勘弁をっ……」
「ボソッ(禿げに兎耳)」
「っっっ、ぷふっっっ」
ドゥシャさんの弱点見つけたり!
いつもおすまし顔だから、笑いを堪えるドゥシャさんなんて、貴重過ぎて面白い!
「ボソッ(禿げに犬耳)」
「だん…流様。冗談にしては酷過ぎます」
「……急に素にならないで?」
「犬人族の命である耳を、禿げのおっさんに付けるなど、ミルン御嬢様に対する、侮辱に御座いますので」
どうやら、犬耳は怒りのツボらしい。
目が本気だ。
冗談はここまでにして、向かうとするか。
「だん…流様、先に何処に向かわれますか?」
「そうだなぁ……ノーザンを迂回して、別の国を見て回ろうぜ。イケメンは最後にしたいし」
「畏まりました。それでしたら、イヨワリ国に向かいましょう」
「それで良いよ……胃弱り?」
何その、ダイレクトに内臓を表している国。
そんな国名……少し気になるじゃん。




