7話 領主代行ミルンのお仕事.9
城塞都市ファンガーデンから、諜報員を殲滅しましょう第二弾を、継続中。
ファンガーデンに、不法在住をしている精霊達に、他国の諜報員を捕まえて貰いましょう。
その効果や如何に?
「なーんて、考えてる暇が無いの」
精霊達にお願いしたのが、お昼前。
そして今は、お昼過ぎ。
それなのに、その短い間に、風に運ばれて来る、白目をむいた諜報員達。
「これは……見事に御座るなぁ」
「精霊達の、本気度を感じるの」
精霊達のやり方は単純。
風の精霊が、ファンガーデン内部の音を拾い、諜報員を特定して、花の精霊が、特殊な花粉を振り撒き、自白をさせて、石の精霊がそれらを気絶させての、牢屋へさようなら。
「他の精霊達も、力を最大限に発揮して、諜報員を潰して回ってるの」
「影以上の、隠密性で御座る」
「御座るでも敵わない?」
「精霊が本気で気配を消したら、影では対処出来ぬで御座るな。知らぬ間に隣に居て、いつの間にか倒されるので御座る」
影の御座るでも対処不可能。
それなら、ファンガーデンに隠れている諜報員なんて、精霊達の敵じゃ無いの。
「どうだい、俺達の働きぶりは?」
炉の大精霊が来たの。
凄く鼻高だけど、貴方は何をしてるの?
「炉は何もしないの?」
「俺は物を作る事は出来ても、ああして誰かを捕まえるなんて、出来ないさ」
「大精霊なのに?」
「大精霊だからこそだよ。それこそ、俺が力を使ったら、この都市全体が炉になっちゃうよ」
「……物騒な力なの」
都市全体が炉に成ると言う事は、その中のモノ全てが、どう成るか分からないの。
下手をしたら、一瞬で塵になる?
それとも延々と焼かれる?
考えたく無いの。
「これでも六属性の大精霊より、遥かに弱いからな。あいつらは加減を知らないから、下手にモノを頼むなよ」
「頼まないの。その大精霊も、ファンガーデンに居たりするの?」
「どいつかは居る筈だけど、姿を見せないな。バカンス気分なんだろうぜ」
ファンガーデンは、精霊達の避暑地?
世界樹が有るから、居心地良いのは分かるけど、居るなら挨拶ぐらいはしたいの。
ついでに、住民票の登録もしたいの。
不法滞在は許さない。
「この調子なら、他国の諜報員全てを捕らえて、良い感じに御仕置き出来るの」
「ミルン御嬢様……アレは不味いで御座る」
「どうしたの御座る? アレって……」
御座るが空を見上げていた。
その目線の先には────ウザ子が風の精霊に、見事に運ばれていた。
『止めるっすよおおおっ! ミルン御嬢様助けてえええ──っ!!』
「他国と自国の見分けが、付いてないの」
「影とあろう者が……馬鹿で御座るっ」
チラッと炉の大精霊を見てみる。
サッと目を逸らされたの。
これを減点とすべきか、それともウザ子を責めるべきなのか、物凄く迷う。
「まっ、まぁ精霊達だって、間違う時ぐらいあるだろうし……許して下さいっ」
「謝るなら許すの。影にも良い訓練だし、あのウザ子は元居た場所に返すの」
「分かった。『シルフィネス、そいつを戻して来い。』これで大丈夫だろ」
『えっ、何処に向かってるすか! ミルン御嬢様ああああああ────』
さらばウザ子なの。
こっちには来なくて良いから、元居た場所でしっかりと、お仕事をするの。
捕まえた諜報員の数、百四人。
東の各国から来た者が、七十三名。
連邦国の者が、二十七名。
北の帝国の者が、三名。
西のアルカディアスの者が、一名。
因みに、領主館の地下三階にある、牢屋の部屋数が五十だから、普通に足りないの。
「アルカディアスと、帝国の諜報員には、手紙を持たせて帰って貰うの」
アルカディアスの国王や、あのシャルネが、諜報員を送って来るとは思えない。間違い無く、シャルネママの仕業なの。
帝国の諜報員達は、間違い無く戦が終わった事を知らない人達なの。だから、あの皇女宛の手紙を持たせて、そのままさようなら。
問題は、東の小国と、連邦の奴等諜報員。
幸い、見た限りでは、和土国の者が居ないので、ぶっちゃけ処分しても構わない。
連邦国の諜報員達も、同じ扱いなの。
「一部屋に三人詰めれば、牢屋の数も問題無いし、徹底的に情報を吐かせるの」
「拙者も、お手伝いするで御座るよ」
「御座る有難う」
領主代行のお仕事の隙間時間に、ストレス発散で、お尻叩きを毎日するの。
「これで俺達に、住まう許可をくれるんだよな」
「問題無いの。お手伝い感謝します!」
「定期的に見回る様にするからさ、捕まえたら、また持って来るぞ」
「それは有難いの。次からは報奨金を出します」
それじゃあ今から、捕まえた諜報員達を牢屋にぶち込んで、一人一人お話を聞こう。
「棍棒を尻にぶっさすのっ」
「……楽しそうで御座るな」
「楽しく無いの。これがミルンの、お仕事です」




