7話 領主代行ミルンのお仕事.8
精霊の話をするの。
精霊達は、基本属性である、火、水、土、風の四属性と、光、闇の二属性が知られてるの。
その他、以前のミユンの様に、属性を持たない精霊達も居るんだけど、種類が多過ぎて、把握されていないらしいの。
今のミユンは、大地の精霊。
地の妖精を統べる、上位の存在。
精霊は、その種類は多いけど、数は少ない。
お父さんを、精霊神と例えるなら、その下に属性ごとの大精霊が一人ずつ。その下に精霊達が居て、更に下に妖精達なの。
妖精達はミルンには見えないけど、このファンガーデンのあちこちに、うじゃうじゃと居る気配がするの。
この湖近辺にも、それこそ、ゴブの集落並みの数の妖精達が、好き勝手に暮らしている。
時々、ミルンの尻尾に重みを感じるのは、妖精がぶら下がっているからなの。
それを踏まえて、問題です。
このファンガーデンに住まう精霊の数は、どれくらいでしょうか。
因みに、現在のファンガーデンの人口は、二十五万人弱だと、役場の人が言っていたの。
「答えは……目の前にあるの」
「どうしたで御座るか?」
「現実逃避です。お父さんの真似っこなの」
「……理解は出来るで御座るが、現実から目を逸らすには、まだ若いで御座るよ」
「だって……これは予想外なの」
屋台の犬人に扮して居た精霊に、他の精霊を集めて欲しいと、お願いした。
お願いして、まだ数分も経っていない。
経っていないのに……恐ろしい程の数の精霊達が、ミルンの周りに集まって来るの。
「正直言って怖いの」
「うむ……生きた心地がせぬで御座るな」
数百体は居るの。
こんなにも多くの精霊達が、ファンガーデンに住んで居たなんて……不法滞在者ばかりで、取り締まりの多さに、恐怖を感じるの。
「代表者は居る?」
この数の精霊を纏める存在なんて、お父さん以外だと、大精霊しか居ない筈なの。
「それは俺だぞ」
「屋台の犬人モドキが、代表者?」
「モドキって……俺は、炉の大精霊。人種からしたら、無の大精霊の一体になるのか」
「炉? 火じゃ無くて?」
「火は四属性だろ。分かり易く言うと、火の大精霊の変異種みたいなもんだ」
だから屋台で、工芸品を売ってるの?
まさかその工芸品……大精霊が自ら作った、変な効果付きの工芸品?
「御座る、そのお店の物を没収するの」
「御意に御座る」
「何すんだよ!?」
後でその工芸品を調べるの。
変な効果が付いていたら、即倉庫行きです。
「不法就労は犯罪なの。ここに居る精霊達も、不法滞在者なの」
「っ、俺達に敵対する気か?」
「ここを作ったのは、お父さんであり、獣族達なの。後から勝手に来て、ルールを守らず住んでいるのは、貴方達……」
「ぐっ……でも世界樹が……」
「世界樹を復活させたのは、お父さんなの。その意味は分かる?」
「うぅ……」
完全論破完了なの。
ミユンだって、しっかり住民票を持ってるし、それを怠った精霊達が悪いの。
「と言う事で相談なの。このファンガーデンに紛れ込んだ、他国の諜報員を捕まえたら、目出たく精霊達は、"住民権"を得るの」
『住民権っ……今あの犬人、住民権をくれるって言ったぞ!』
『それが有れば、この場所に留まれるのか?』
『精霊神様の近くで暮らせる?』
『諜報員ってなあに?』
『ここの住民じゃ無い、怪しい奴等だ』
黙って聞いていた精霊達が、ザワザワとし始めて、良い感じなの。
「……他国の間者を全員捕まえたら、俺達全員に、住まう許可をくれるのか?」
「この都市に被害を出さず、捕まえれる?」
「舐めるなよ。居心地の良いこの場所に、被害なんて出す訳無いだろ」
少し煽り過ぎた?
そう言えば、精霊のミユン一人で、和土国の兵士達を軽くあしらっていたの。
その精霊が、凡そ数百体。
その気になれば国なんて、簡単に滅ぼす事が出来るであろう、異常な戦力。
「ファンガーデンの、隠し戦力に出来るの」
「……陛下には言えぬで御座る。絶対に、見たいとか言い出して、来るで御座ろうて」
「女王に言ったら、御座るの事嫌いになるの」
「絶対に言わぬで御座る!!」
これで口止めも出来たの。
それじゃあ、この過剰戦力を使って、ファンガーデン内に潜む諜報員を、一人も残さず殲滅するの。
「それじゃあ炉の精霊さん。任せても良い?」
「分かった。直ぐ終わらせるから、住民権だけじゃ無くて、屋台開く許可もくれよ」
「構わないの。没収した品物も、変な効果が付いていなければ、ちゃんと返します」
「……約束だからな」
「約束じゃ無いの。契約なの」




