7話 領主代行ミルンのお仕事.5
「ふむ、間者の一掃で御座るか」
「そうなの。また来るとは思うんだけど、今入り込んでる奴等を、根刮ぎいきたいの」
「中々難しいので御座るが……手が無い訳でも無いので御座るな」
流石御座るなの。この一瞬で、諜報員を殲滅する方法を、考え付くなんて。
「どうすれば良い?」
「捕らえた二人を使って、間者を一ヶ所に集め、一網打尽にするので御座る」
「一網打尽……どうやれば良いのか、分かんないの。御座る教えて下さい!」
「でしたら先ずは、軽く間者の組織図を説明するに御座る。基本故、これを知らねば、対策出来ぬで御座るからな」
御座るのお勉強会なの。
先ず間者とは、他国の内情を調べたり、裏工作をして、自国に有利な情報を流したりする、表に出ない組織。
お父さんの言い方だと、諜報員なの。
そっちの方が格好良い。
ジアストールで言うところの、暗部みたいな者達だけど、影の様な意味の分からない強さを持つ者は、ほんの一握りらしい。
調査役、纏め役、指示役、監視役と、三角形の図になる様で、今回捕まえた二人組は、一番下っ端の調査役との事。
「下っ端は使い捨て?」
「それは、国によるで御座るな」
「それで、どうやって諜報員を集めるの?」
「簡単な話、捕まえた二人を、解放するので御座るよ。勿論、首輪を付けた状態で」
「わざと解放して、纏め役を誘き出す?」
「正解に御座る」
指示役は自国から動かないだろうし、潜り込んでいるとしたら、調査役と纏め役。纏め役を特定して、ぷちっと潰せば解決なの。
「楽しそう……御座るの案を採用します!」
「それならば、今日中にでも解放するで御座るよ。その者等を尾行して、纏め役と合流したところを、捕まえるので御座る」
「かしこまっ!」
「ミルン御嬢様…また変な言葉を…」
「ミルンの流行りなのぢゃ」
御座るの案で、夜に男女を解放した。
解放理由は、嫌疑不十分により解放。但し、このファンガーデンへの移住は認めず、明日の朝までに、この都市から退去せよ。
そう言う流れでの解放。
男女は、疲労困憊のまま、ふらふらした足取りで、宿屋へと向かって行った。
尾行されているとも、気付かずに。
「ボソッ(忍々で御座るなの)」
「ボソッ(ミルン御嬢様、それは忍で御座る。拙者達とは、違う存在で御座るよ)」
「ボソッ(相変わらず、緊張感が無いのぢゃ)」
影専用黒外套を羽織り、屋根の上からあの男女を、監視しているの。
誰かと合流するのか。
もし合流しなければ、再度牢屋にご案内からの、本気の尋問がはじまります。
次は、お尻が真っ赤になるだけじゃ無く、全身を余す所無く、くすぐり地獄なの。
下手をしたら、笑い死にするの。
あの二人が、宿屋に入ったのを確認したら、耳を澄ませて、話し声を聞いてみる。
『くそっ、尻が……』
『私なんか刺されたのよ! あんたがあの時、余計な事を言った所為でっ!』
『お前も余計な事を言っただろ!』
『兎に角、別の者を送って貰わないと……』
お尻が大変そうなの。
傷は残ってないけど、痛みはそのままだから、椅子に座ると悲鳴ものなの。
『私がリーダーに伝えて来るわ。あんたは撤収の準備をしておいて』
『チッ、分かった……誰にも見つかるなよ』
『分かってるわよ』
既に見つかってるの。
二人には、極細の糸が絡んでるから、見失っても追跡出来るし、他にも仕込んでいるから、逃げられる心配も無いの。
「ボソッ(黒姫は男の監視なの)」
「ボソッ(分かったのぢゃ。逃げそうであれば、こっそり捕まえておくのぢゃ)」
「ボソッ(女が宿を出たで御座るよ。ミルン御嬢様、追うで御座る)」
「ボソッ(分かったの)」
屋根の上をこそこそと、抜き足差し足御座るのお足と、音を立てずに尾行します。
遠回りしてる様だけど、あの女が何処に向かっているのか、分かってきたの。
北西の、ファンガーデンを囲う壁の一ヶ所に、小さな穴がある。
その穴を潜った先にある、とある場所。
「ボソッ(お父さんの隠れ家なの)」
「ボソッ(間者に利用されているで御座るな)」
小さい簡易小屋に、井戸や綺麗なお布団と、非常食も完備され、居心地抜群なの。
唯一の欠点は、壁の上から丸見えなの。
「ボソッ(巡回時間を、把握されてる?)」
「ボソッ(そうで御座ろうな。でなければ、今頃奴等は捕まっているで御座るし)」
「ボソッ(警備体制の見直しが、必要なの)」
上からこそっと覗いたら、さっきの女と、他に数名程、姿が見えた。
その内の一人。
立派な御胸様に、薄手のローブを纏い、その数名に指示を出す者。
「ボソッ(あれが指示役なの)」
「ボソッ(なれば、さっさと捕まえて、ゆっくり話を聞くで御座るか)」
「ボソッ(あのリーダーは、徹底的に搾るの)」




