7話 領主代行ミルンのお仕事.3
「それではミルン御嬢様。拙者はあの親子の護衛途中故、また後で、御挨拶に行くで御座る」
「分かったの。御座る、また後で」
むふふっ、御座るが来たの。
少し前にウザ子が休暇だったから、いつかは来ると思っていたけど、別の影じゃなくてよかったの。
御座るは話し易い影で、それ以外の影は、一癖も二癖もある影だから、御座る以外はお断りしたいの。
「今は観察しなきゃ……」
あそこの男女が、何故怪しいか。
簡単な話、小綺麗過ぎるの。
新品のお洋服を、ワザと汚してるし。
このファンガーデンに、移住を希望する者達は、何某らの理由で村を追われたり、口減しに追放された者や、戦から逃れて来た難民達が大半を占めるの。
稀に、ただ住みたいからと言う理由で、ここまで来る人も居るけど、あの男女は違うの。
話してる内容が、丸聞こえだから。
『北の戦から逃れる駄目に、ここ迄来たんだ』
『どうか私達に、ここに住まう許可を下さい』
北から来たにしては、痩せて無いの。
戦に行った本人としては、あの男女は北の人間では無く、東の国のどれかか、南の連邦からのお客様だと、判断します。
『あーっ、お二人は御夫婦ですか?』
『そうだ』
『見ての通り、夫婦よ』
『ふぅん……何故北からわざわざここに? 他にも、村や町は有ったでしょう』
『ここなら、実力に見合った仕事が有るって言う、噂を聞いたんだ』
『迫害の無い、良い都市だと言ってましたわ』
流石役場の人間なの。
しっかり内情を深掘りして、見極めてる。
『ここに来るまでに、どの村や町に泊まりましたか? 王都? ペルシコ村? ルネサ?』
『色んな町や村を通って来たからな……トルリカ村では、良くして貰ったな』
『そうね。宿屋の朝食なんて、美味しかったわ』
ミルンの知らない村の名前なの。
いつか色々見て回りたい。
『トルリカ村に行ったんですね。そこは僕の故郷で、宿屋も評判なんですよ。店主のバルドンは元気でしたか?』
『バルドン?……あっああ、あのゴツい爺さんか。元気だったよ』
『そうね、娘さんもお元気でしたわ』
『お元気でしたか。それは良かった……それでは、少しお待ち下さいね』
受付の人が離れたの。
上役の許可を、貰うのかな?
『ボソッ(ミルン御嬢様、他国の諜報員です。至急捕縛致しますので、御助力を)』
ミルンのお耳に聞こえる程度の小声!?
しっかり役場の人達にバレてたの。
流石、ファンガーデンの役場の人……ミルンの変装を見破るなんて、お給金アップなの。
片手を上にあげて、ハンドサインっ!!
お父さん曰く、このハンドサインをした時は、必ず叫ばないといけないの。
「うぃいいいいいい────っ!!」
そうしたら、役場に居る皆んなの視線が、一斉にミルンに集まるから、その瞬間を狙って確保されます。
誰にって?
受付カウンターに潜んでいる、肉食系オーガの、お姉さんになの。
『オトナシクシテクダサイネェ』
『やめっもがもがっ!?』
『なんっ、むうううううう──っ!?』
他の人達には気付かれず、カウンターに引き摺り込まれて、捕獲完了なの。
あとは、何事もなかった様に椅子に座って、受付の順番を待つ、ただの女の子に戻るの。
『はい、次の方どうぞーっ』
ミルンの番が来たの。
狙ったかの様に、さっきの受付さんなの。
「んしょっ……バレてた?」
「そりゃあバレますよ。ミルン様の尻尾の形を、皆んな覚えてますから」
「尻尾の形!? 恐ろしいの……」
「ここの者達は全員、ミルン御嬢様ファンクラブの面々ですからね。耳の形、尻尾の形、体型から体臭まで、一通り網羅しております」
それはもう、ストーカーを遥かに超えた、異常者の集まりだと、ミルンは思うの。
お給金アップは無しなの。
だって怖いから。
「さっきの人達は?」
「裏で拘束してます。男の方は……オーガが好き放題しておりますが」
「殺してなければ良いの」
交換条件で、人を喰わない、襲わない限り、それ以外は好きにして良いの。
死ぬ思いは味わうけども、死にはしない。
「オーガの行為が終わったら、ミルンが持って帰るけど、問題無い?」
「問題御座いません。持ち帰り用の台車も御座いますし、オーガに運んで貰いましょうか?」
「それが良いの。言葉が分かるオーガだし、館でご飯を振る舞うの」
「それは羨ましいですね。ちゃんと返して下さいよ。彼女は役場の人気者ですからね」
「勿論なの」
この役場の、護衛兼アイドルなの。
ボンキュッボンの身体に、肌の色は違うけど、物凄く美人なの。
人種、獣族問わず、あのオーガを狙っている男が沢山居るけど、枯れ果てる未来しか見えないから、皆んな尻込みしているの。
「コカトリスより臆病者」
「……察しないで下さいよ」
「当たって砕けるのっ」
「それ、男として……終わりますからね」
裏から聞こえてた音が、止まったの。
スッキリ顔で、オーガが歩いてくるの。
お肌が艶々してる。
「フゥ……ゴチソウサマデジタ」
「お粗末さまなの。それじゃあ、二人の引き渡しをお願いするの」
「畏まりました。直ぐに準備致します」
館に帰ったら、あの汚部屋に入れるの。
しっかり吐かせて、対策しなきゃ。




