7話 領主代行ミルンのお仕事.2
「お尻を叩くとおっ!」
バチィンッ────『ぎゃあああっ!?』
「二つに割れてえっ!」
バチィンッ────『のおおおおおおっ!?』
「真っ赤なレモモがあっ!」
バチィンッ────『ああああああっ!?』
「ジューシーお肉ぅっ!」
バチィンッ────『おおおおおおっ!?』
腕が疲れて来たの。
諜報員さんも、中々しぶとく耐えている。
何をしてるのかって?
拷問じゃ無いの。
お父さん曰く、拷問は、被人道的だから、こうして優しく、背後関係を聞いてます。
オークの柔軟な皮を、世界樹の枝に何重にも巻いた、治癒機能付きの棍棒なの。
「しなり具合も抜群で、鞭みたいな良い音がでるの。職人さん有難う」
ギロンヌさんの作品。
商業地区で鍛冶屋を営む、ファンガーデン随一の変態職人さんで、自分の身体を使って、日々研鑽に励んでるの。
「此奴らもしぶといのぅ。早う吐かねば、お尻が四つに割れてしまうのぢゃ」
「昨日の貴族が連れて来た?」
「どうぢゃろうの。東の小国からか、他の領地からか……いっその事、薬を飲ませるかや?」
「それは駄目なの。ゲロッぱお薬は、お父さんが禁止してるから、使えないの」
ファンガーデンの領主館には、お父さんが考案した、秘密部屋が幾つも有る。
この聴取部屋もその一つ。
地下三階に、牢屋と尋問室。
地下二階に、聴取部屋と軟禁部屋。
地下一階に、実験室。
他にも色々有るけども、全容を知るのは、ドゥシャとお父さんだけなの。
何でこんな事をしているのか。
話は、昨日の昼過ぎまで遡るの。
「貴族達、ようやく帰りましたね」
「本当なの。仕事の邪魔だから、このまま大人しく帰って欲しい」
「影さんに、見張りをして貰いますか?」
「影……ウザ子が来たら嫌なので、見張りは不要なの。必要になったら呼びます」
ウザ子は、知らないうちに消えていたから、休暇が終わって、お仕事に戻ってる筈。
御座るなら、ウェルカムなの。
貴族の対応が終わったから、次は、都市内部の巡回業務兼気分転換です。
こうして見て回るのも、領主代行の立派なお仕事の一つなの。アルテラが、不正な宗教勧誘をしてないかも、随時チェックなの。
「何で私の所ばかり、監査にくるのよ」
「ぼったくりのお店だからなの」
「これは正当なお布施なのよ。いくら貴女と言えども、手が出せないでしょ?」
「ファンガーデンでは、宗教の人でも税を納めて貰うの。収支報告書に記載の無い場合、課徴金を概算で算出して、請求しちゃうよ?」
その場合の請求額は、金貨千枚なの。
もし払わなかったら、アルテラ教ファンガーデン支部は、解体します。
「……本当に厄介ね」
「それはお互い様なの。るーるに則って、しっかりお金を収めるの」
「減税の処置は無いのかしら?」
「役場に申請書を、提出して下さいな」
「……分かったわよ」
役場に減税申請書を、提出する女神なの。
本当に住民になってるの。
最早ただのおばさんなの。
「今……何か変な事、言わなかったかしら?」
「言ってないの。思っただけです」
アルテラの額がピクピクしてたけど、気にせず巡回を続けるの。
お次は役場の状況確認。
しっかりお仕事をしているのか、こうして抜き打ちチェックをしないと、組織内部から腐って行くの。
頭巾でお耳を隠して、マスクをして、少し汚い服を着込めば、移住希望者の一人なの。
順番札を取って、待合席に座るの。
そして、じっくりと観察する。
特に注視すべきは、移住希望者の窓口。
ファンガーデンでは、仮住民で数年過ごさなければ、正式な住民になれない。
逆を言えば、仮住民になるだけならば、そこまで難しくは無いと言う事。
各門の出入り口で、あの石に触れて、犯罪者で無い事は確認されるから、後は申請をして、面談で問題が無ければ、仮住民となる。
「ボソッ(諜報員が紛れ込むとしたら、ここなの)」
「ボソッ(成程で御座るな。ならば、あの者達など、怪しいで御座るよ)」
「御座るなの!?」
「ボソッ(静かにで御座るよ)」
いつの間にか御座るが居たの。
臭いも無かったし、びっくりした。
「何で御座る居る?」
「あの親子の護衛に御座る。魔神様より、連れて行く様お願いされましてな」
あの親子?
目に包帯をした、犬人族なの。
御胸が大きくて、スタイル抜群で、間違い無くお父さんの好みなの。
あとは、男の子?
「新しい住民?」
「左様で御座る。何やら、村に取り残されておった様で。ここが終わったら、リティナ殿の所で治療で御座るよ」
「ふーん。お父さんは帰って来たら、脛をひたすら殴打なの。下心が、透けて見えるの」
「それで、ミルン御嬢様。あの者達は、放置したままでも良いので御座るか?」
そうだ、今は怪しい者の調査なの。
「受付中の男女……」
何処にでも居そうな、仲の良い二人組。
小綺麗な服に、安物の靴を履き、擦れた鞄を持っていて、パッと見た感じは、普通の人。
「御座るの言う通り、怪しさ満点なの」
「そうで御座ろう。あの感じですと、何処ぞの諜報員やも、知れませぬな」




