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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
五章 異世界とは機械人形が居る世界

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7話 領主代行ミルンのお仕事.1



 ファンガーデン、領主館の謁見の間。

 石造りの床に、赤い絨毯が敷かれ、十五センチ程の段差の上には、黒革張りの見事な椅子。

 その椅子に、もたれかかる様に座る者。

 ファンガーデン領主代行、ミルンである。


『領主代行、ミルン様。お初お目にかかります。私は────』

『是非とも、我らに商いの許可を────』

『この様な場を、設けて頂き────』


「胡散臭いの。お帰り下さい」

「ドゥシャの管轄だから、却下なの」

「しつこいから会っただけ。ハウスなの」


 お父さんが旅行に行って、早一月。

 触るな危険の領主が、居ないと見るや、来るわ来るわ利権欲しさの腹黒達。


「お疲れ様です、ミルン御嬢様」


「毎日毎日謁見ばっかりなの。アトゥナ、午後の予定はどんな感じ?」


「午後は……マドノ男爵、ヒヨリム子爵が、挨拶に来られます。少し面倒臭いですね」


「他領の貴族なの。どうせまた、乗っ取ろうと考える、素晴らしきお馬鹿さん達なの」


 お父さんとドゥシャ。この二人の影響力は凄まじく、理不尽なお父さんが、武力衝突の抑止力となり、商会を牛耳るドゥシャが居る限り、腹黒達は近付けない。


「分かり易く言うと、ミルンは舐められてるの」


 だからこその、この謁見の数。

 多い時だと、一日に十五件もの馬鹿が来るから、処理するのが大変です。


「実際は、流のおっさんより手強いのにな」


「アトゥナは分かってないの。舐められているこの状況は、ミルンにとって徳しか無いの」


「そうなんですか?」


「舐めてかかってくるから、対処が楽です」


 特に、獣族を下に見る人達は、その傾向が強く有り、軽くジャブを打つと、暴言を浴びせて来るの。

 領主代行に暴言。

 普通に処罰の対象なの。

 地下の牢屋で、一日一食ダイエットなの。

 十年は出してあげない。

 

 ギィィィッ────「ミルンや、お昼の時間ぢゃぞ。食堂に来るのぢゃ」


「黒姫遅いの」


「すまぬのぅ。地下の奴等に、臭い飯を配っておった故、遅くなったのぢゃ」


 黒姫は、この領主館地下の番龍なの。

 各区域にも、お父さんが考えた牢屋があるけど、言っても普通の牢屋なの。

 でもこの館の牢屋は違う。

 意味が分からない程に堅牢で、幾ら殴っても壊れずに、凶悪犯を閉じ込める。


「今日の臭い飯はなあに?」


「冷えて硬くなった干し肉と、ガチガチに固めた黒パンなのぢゃ。野菜クズの、冷えたスープも付いておるのぅ」


「それで良いの。明日は、オークの肝を液状にした後に固めた、臭いプリンを提供なの」


 臭い上に不味いお料理だけど、栄養満点な精力剤なので、地下牢の奴等には地獄なの。

 

「ミルン御嬢様。早くお昼を食べないと、貴族連中が来ちゃいますよ」


「そうだった。ミルンのご飯!」


「お昼は美味しい、ステーキなのぢゃぁ」


「ステーキっ!」


 貴族連中は、とても厄介なの。だから、しっかりお昼を食べて、迎え撃ちます。




「ボソッ(これだから貴族は厄介なの)」


 お昼を食べた後に、少しお昼寝をしていたら、貴族連中が到着した。

 そして、謁見の間に来るや否や、領主代行に向かって、横柄な態度で、良く分からない事を言い続けている。


『であるからして、ここ、ファンガーデンの各区域を、我等貴族が治める事により、流閣下の地位を盤石のモノへと────』


『一領地が持ちうる戦力を超えておりますれば、王家に反逆するモノとして────』


 マドノ男爵と、ヒヨリム子爵。

 二人共良い歳をした、禿げた爺なの。

 禿げを散らかしてるの。

 光ってて眩しい。

 マドノ男爵は、この広いファンガーデンを、貴族共の喰い場にしたい。

 ヒヨリム子爵は、このファンガーデンから、戦力を引き抜いて、弱体化させたい。

 盛大な阿呆なの。

 

「二人に問うの。ミルンの立場、理解してる?」


『勿論ですとも、ミルン領主代行様』

『このファンガーデンの決裁権を、持たれておられると、理解しております』


 やっぱり理解してないの。

 普通なら、私みたいな子供が、いくら辺境伯の娘だと言っても、領主代行は有り得ない。

 そんなミルンが、何で領主代行を任され、こうして貴族達と、相対する事が出来るのか。


「理解してないの。女王、ルルシアヌ・ジィル・ジアストールから、裁量権を貰ってるのは、お父さんだけじゃ無いよ?」


『は?』

『それは……どう言う事で……っ!?』


 子爵は気付いた様なの。

 私が貰った裁量権は、ファンガーデンを喰い物にしようとする貴族を、処分する権利。

 本来なら、女王でしか持ち得ないモノだけど、ドゥシャが普通に貰って来たの。

 交換条件として、女王が遊びに来た際は、必ずミルンが対応する事。


「ファンガーデンに仇なす事は、女王への反逆罪となり、普通に極刑なのだけど、御二方はどうする? 帰る? まだお話しする?」


『それはどう言う……』

『わっ、私は帰らせて頂きたく存じます! マドノ男爵も行きますぞ!』

『ヒヨリム様?』

『さっさと来んか! では、失礼致します!!』


 帰っちゃったの。

 あの二人は、他領の貴族だから、こっちの情報収集が上手く出来てないの。


「アトゥナ。あの二人の馬車に、塩を撒くの」


「岩塩をぶつけておきますね」


「さすがアトゥナなの」


 領主館のバルコニーから、あの二人の馬車目がけて、アトゥナの大遠投。

 これなら証拠も残らないし、いい気味なの。




『まさか……っ、あの噂は本当だったのか……』

『ヒヨリム様、どう言う事でしょう?』


『今は亡き王太子殿下の、娘の噂だ……』

『まさかっ、先程の獣族がそうだと!?』


『それならば、このファンガーデンに、陛下が入れ込むのにも辻褄が会う……見誤ったわっ!!』

『しかしっ、人種と獣族との間に、子供なぞ……』


『先のミルン領主代行の髪の色、瞳の色、顔付き。王太子殿下の幼き頃に、瓜二つであるわ』

『それならば、この場所に手を出すのは……』


『身を滅ぼすだけであるな……』

『くっ、来るのでは無かったっ』


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