2話 異世界のお約束.1
俺こと小々波流は、気付いたら森の中。
良く分からない状況の中で、襲い来る豚野郎(漢)の魔の手から華麗に逃れ、川を下った。
その先に居た、犬耳っ子のミルンを見つけ、なんとか自分の今居る場所を確認。
今後、どの様に動くかを考える為の、拠点を手にするのであった。
「流さん。どうしたのですか?」
「んっ? 何だミルン?」
「急に上をみあげて、じっとしてるので」
ミルンが何か、物凄く残念な人を見る様な目で、見つめてくるぞ。
残念な人なんて、ここには居ないんだよ?
居ないんだよ、ミルンさん。
「そう言えば、飯食ってないなぁと思ってな」
夜食にするため菓子パンを買っていたのだがリュックはどこに──「おっリュックも拾って来てくれてたのか」
枕元にちゃんとありました。
「はい! 流さんを川からひっぱっていく時にそのリュック?が、流さんの首に引っかかっていましたので、そのまま持って来ました!」
首に引っかかっていたのかよ。
なんだそれ。
尻を半分だ出しながら、首にリュックって、絶対自分では見たくないな。
俺なら絶対、ガン無視して放流するぞ?
「ありがとうな」
「いえ、お気になさらず」
うん、ミルンは凄く優しい犬耳っ子だ。
クキュルゥウウ────「何の音だ?」
どこからか泣き声? 音がする。
ボロ屋の中で響いていたのだが、音が鳴る様な物なんて無いのに。
辺りを見ても、顔を真っ赤にしたミルンしか、ここに居ないからなぁ。
「すみません流さん。川でお魚が獲れなかったので、少し待っていて下さい! 森で何か、食べ物獲って来ますのでっ!」
ミルンのお腹の音だった。
まぁ分かってたけども。
顔を真っ赤にしたミルンが、立ち上がり出て行こうとするので、リュックの中を漁り、菓子パンを出した。
「ちょっと待ちなさいな、ミルンさんや。俺の所為で、ご飯獲る時間無かったんだな」
潰れた濡れパンになってるな。
これは、温めてから食べるか。
「ミルン。何か、火を起こせる道具とかないか? あればこの濡れパンを温めて、マシパンに出来るんだけど?」
「パンですか!?」
凄いミルンが、食いついて来たな。
どうしたの?
「パンは村でも作っているらしいので、時々遠くから、良い匂いが風に乗って来るんです!」
めっちゃ尻尾が揺れている。
あっ、でも直ぐにしゅんっ、となった。
「すみません。ここには、火を起こせる道具が無いんです。獣族は魔法も使えないので、火を出すことも……出来ません」
下を向いて、しょんぼりしているミルン可愛いな。と、頭を撫でそうになる手を抑え、今聞いた内容を思い返す。
火起こしの道具が無い。
獣族は、魔法が使えないから火が出せない。
魔法……魔法?
「魔法あるの、この世界?」
ちょっと思い出せーっ、何か忘れてないか?
流くんの、ちょっと悪い頭(自己分析済み)をフル回転させてっと。
結構大事な事……っ、そうだよ!
レベル! レベルアップだよ!
今じゃ無いタイミングで、やたら煽ってきたあのアナウンス!!
「ミルンさんや、ステータスって……分かる?」
「分かりますよ? 産まれた時に、神様から授かる恩恵ですね。流さんは、知らないのですか? 当たり前の事なのに?」
ミルンが不思議そうな顔で見て来るぞ。
でもそんな事よりっ、マジか!
あるのかステータス!!
良し、アレだな。
最早異世界あるあるのステキパラメータが、遂に俺にも現れると言う事だな。
この時、この瞬間を、俺は一生忘れない。
腹減った……っ、でも今はっ!
「さあ来い! 俺の! ステータス!」
一度立ち上がり、片足を軸に一回転して、ビシッとポーズを決め、薄目で前をみる。
「おっほっ、めっちゃ見える!」
見える! 見えるぞ俺のステータス!
へーほーうん?
これは……なんぞ?
「村人基準より下って、どゆこと?」
小々波 流 35歳
レベル 3→4UP(楽しい経験値効果)
能力
STA 11 INT 25
VIT 11→12 AGI 60→65
DEX 54→56
(村人男性平均100とした値)
スキル
・身体強化(これで貴方もマッスルバディに)
・楽しい経験値リシュエルのサプライズ
・空間収納(大人の本の隠し場所として)
・基本魔法(一人暮らしのお供に)
・ー 判別不能 ー
称号
・逃げ惑うニート
・崖からダイブするニート
・ケモナー(仮免許)
「あの、流さん」
「何だミルン?」
「口にださなくても……ステータスは、見れるハズなんですけど」
「……えっ?」
口にださずに……見れるの?
「先に言って欲しかった…かな」
犬耳幼女の目の前で、流に新たな、黒歴史の1ページが、追加されました。
5分後、俺は深呼吸をし、黒歴史の新たる1ページを、この右手に封印した。
「ふぅっ、危うく闇に、堕ちるところだったぜ」
流石に、犬耳幼女の目の前で、キメポーズの姿勢から一度両手を天に掲げ、そのままゆっくりと、頭を抱えながら身体をもぞもぞくねくねさせるのは、見た目が悪かろう。
大人として、そんなキモい醜態を、犬耳っ子に見せる訳にはいかないからな!
「グウウウッ!?」
ミルンが物凄く、怯えながら後ずさっているが、気にしない。
気にしたら負けなので気にしない。
「ミルン!」
「ウウッ……何ですかっ」
「何か俺、魔法使えそうな気がする!」
ミルン曰く、この世界にある魔法は大まかに二つに、分けられるらしい。
属性魔法。
火、水、土、風の四属性に光と闇、それに無を加えた魔法が属性魔法と言われている。
適性が無ければ使えず、一人につき一つ、又は二つの属性しか使えない。
「俗に言う、テンプレ魔法だな」
固有魔法。
そのまんま、その人にしか使えない、唯一無二の、オリジナル魔法。
響きはカッコいいが、ある意味もの凄く使えない魔法とも、言われているらしい。
何でも、このナントカって言う国で、使い手は唯の二人だけ。
内一人の魔法の効果が────『この荒れた大地に一粒の恵みを!』
使い手がその魔法を唱えると、使い手の声が届く範囲内で、奇跡が起きる。
その奇跡と言うか、効果がアレだ。
頭皮の汗が、良く光っている方々の大地に、一本、恵みが与えられるそうな。
その希少性と、一日に使える回数が限られている為、その魔法使いは、『少量の慰み』と言う不名誉な二つ名を、与えられたとの事。
それに加え、何処ぞの屋敷で保護もとい、監禁されているとの噂。
一日に、自然と散っていく恵みの量を考えれば、本気で使えない魔法という訳である。
「固有魔法は……ガチャだな」
そう思っていたが、ふと、疑問に思った事を聞いてみる。
「なぁミルン。国の名前も、村の名前も知らないのに、何でそんなに、獣族が使えないと言われている魔法に詳しいんだ?」
「何ですか流さん?」
まだまだ説明したり無いとでもいうように、尻尾をピンッと伸ばている。
物凄く可愛いし、モフりたい。
「私が以前居た場所で、凄く変わった方に、教えて貰ったんです。小さかったので、うろ覚えなんですけど」
「へぇ……今もミルンは幼いだろ?」
「私はその方に、獣族だから、魔法が使えないから、覚えても意味が無いと言いました。その方は、何て答えたと思いますか?」
「んーっ。いや、ミルンは幼いだろ?」
『使えようが使えなかろうが、知らなければ意味が無いかどうか判らん。人種だろうが獣族だろうが、知る事、知ろうとする事を辞めてしまっては、最早魔物と何が違う?』
「そう笑いながら、魔法の事を教えてくれたんです。少しだけ……流さんに似てましたね」
ふふっと笑顔で笑いながらの、魔法初級講座有難うミルンさん。
地味に俺の質問、無視してたよね?
「で、ミルンさんや?」
「質問ですか流さん?」
可愛い尻尾が、ピンッとなっている。
「大事な事をまだ聞けていない」
「何でしょう?」
尻尾をまじまじと見つめている。
「魔法の使い方は?」
「そんな事ですか」
尻尾をまじまじと見つめている。
「使える人には、使えるみたいです!」
「へぇ……使える人には……」
可愛い尻尾が、ピンッとなっている。
ピンポンパンポーン(上がり調)
レベルが1上がりました(真理!?)
ピンポンパンポーン(下がり調)
「……俺今魔法の使い方を聞いてるんですけどおおおおおおおお────っ!?」
俺は再度、両手を天に掲げた。
スキルがあっても、魔法があっても、使えなければ、意味は無い。




