6話 二人っきりの旅路.3
「うぷっ……量多過ぎだろ、あの店」
夕飯を食べて直ぐ、宿へと戻り、鍵を閉めてベッドへ寝転んだ。
しっかり施錠をしておかないと、ドゥシャさんが突撃して来そうで怖いからな。
「ミルンの好物なだけあって、美味いのは良いんだけど、効果あり過ぎてヤバい……」
食べ終わって直ぐに、宿へと戻った理由が、あの料理の効果の所為だ。
何の効果か分からない?
察して下さい。
一服盛られた気分だぞ。
「ドゥシャさんは……自分の部屋だよな」
もし動きが有れば、窓からこっそり抜け出して、村の外で寝るしか無い。
簡易小屋があるから、問題無しだ。
「もう寝るか」
このまま起きてたら、気が滅入りそうだ。
一晩もすれば、この効果も治るだろ。
「……いや寝れんてっ!?」
あんな精力剤の塊食べて、寝れる訳が無い。
こんな時は、村を散策して、少しでも体を疲れさせなきゃな。
ギィィィッ────「ついでに、酒でも呑むか」
ドゥシャさんを誘うかどうかだが、ここは俺一人で村を見て回ろう。
だって、今のドゥシャさん怖いもん。
そんな感じで、村を散策中。
夜中にも関わらず、結構な数の冒険者達が出歩いており、なんとも賑やかだ。
「……人ばっかだな」
老若男女問わず、人ばっかり。
ケモ耳の姿が一切見えず、何と言うか、少しだけ違和感を感じる。
この村に来てから、ハム耳筋肉しか見ていない。
「地域差か? 南東は俺の領地じゃ無いし、何とも判断がつかないな」
そんな事を考えつつも、周りを見ながら歩いていたら、誰かにぶつかった。
正確には、脚に軽くぶつかって来た。
「痛っ、前見て歩けよ!」
「……ケモ耳だ」
「ああ!? 僕の顔見て馬鹿にしてんのか!」
小さいケモ耳男子発見。
見た感じ……ミルンと同い年くらいか?
ケモ耳は犬族っぽいけど、ミルンと違って垂れてない、ピンっと立った耳だな。
「馬鹿にして無いぞ? 良いケモ耳だと思ってな。少し撫でても良いか?」
「ひぃっ!? 変態だっ、このおっさん変態だああああああ──っ!!」
撫でようとしたら、逃げられた。
しかも変態って……そういや、ミルンと最初に会った時も、撫でまくって威嚇されたな。
「今のケモ耳……」
ちょっと後を付けてみるか。
知覚使って、爆速で走ってるのは……これがさっきのケモ耳だな。
村の外れに向かってる?
なーんかこの村、きな臭くね。
と言う事で、やって来ました村の外れ。
村とは違って、小さなボロ屋ばかりで、懐かしのミルンの家を思い出すなぁ。
「ここに住んでるのは……二人か」
さっきの犬人男子と、一体誰なのか。
「出て来たらどうだ。隠れても無駄だぞ」
獣族は鼻が良いから、俺が追って来てるのを察知して、待ち伏せしてたんだろうけど、そんなん無意味だって。
左前方の草村に、犬耳男子が隠れているの、知覚でハッキリ分かるんだよね。
ガサッ────「……何で追って来た」
何でケモ耳男子を追ったのか。
ケモ耳男子が俺にぶつかった際、あの一瞬で、ダミーの財布を盗んだからだ
アトゥナ並みの、手癖の悪さだよね。
「あの財布には、石貨一枚しか入れてないぞ」
「っ、僕を捕まえに来たのか!」
「捕まえても良いんだけど……何でこの場所に、二人しか居ないんだ?」
「……お前っ、何でそれを知ってる!!」
聞き方間違ったな。
四足体勢になってるって事は、本気モード。俺を殺る気満々って事だからな。
「分かるもんは仕方が無い。向かって来るのは良いんだが、お前に俺は倒せんぞ?」
「やってみなきゃ、分からないだろ!」
「来る気か……面倒だなぁ」
威圧で黙らせようか。
そう思った時、もう一人の気配が、ゆっくりと近付いて来た。
「……マルル、何をしているの」
「お母さんっ、変態が居るから来ちゃ駄目だ!」
「誰が変態だ。あぁ……成程なぁ」
犬耳男子マルルが、お母さんと呼んだ獣族。
確かに、耳がピンっと立ってて、尻尾の形もそっくりの親子だな。
でも、これは中々に酷い。
ボロ着のあちこちが裂け、白い肌に残る、生々しい傷痕が見えており、何よりもその、目を覆う布切れ。
「マルル、何をしているの」
「お母さんは離れてて!」
これは、見逃す事は出来ないな。
見逃せば、絶対後悔する事になる。
「貴女が、マルル君のお母様ですか?」
「はい、そうですが……貴方は?」
「失礼しました。俺は流と言います。そちらのマルル君が、俺の財布を拾って、届けてくれたので、その御礼に参りました」
「なっ、お前っ!?」
「マルルがそんな事を。人様の物を盗んでばかり居たこの子が……うぅっ、ようやく、分かってくれたのね」
お母さん泣いちゃったよ。
まぁ……我が子が盗みばっかりしてたら、そりゃ悲しくもなるわな。
「お前っ、どう言うつもりだ……」
「お前じゃ無くて流だ。少しだけ話を、聞かせて欲しいだけだよ。良かったら、家に案内してくれないか。御礼を渡そう」
「マルル、お客様を案内しなさい」
「お母っ……こっちだ……」
さてさて、事情を聞きましょうかね。




