6話 二人っきりの旅路.2
『ブルゥフフッ』
「ほいお疲れさん。たっぷり草食べて、明日からまた頼むぞ」
太陽が沈む前に、そこそこ大きい村に到着。
旧ラクレル村と、同じ規模だろうか。
冒険者らしき人達も歩いてるし、ここら辺に、働き口でもあるのかね。
そんな事を思いながら、宿探しの真っ最中。
「村にしては、冒険者が多いな」
「だん…流様。この付近には、小さいですが、ダンジョンが御座います。初心者の冒険者が、多い理由に御座いますね」
「へーっ、だから賑わってんのか」
「明日にでも、見に行かれますか?」
「見るだけならね。ダンジョンに興味はあるけど、怖くて潜れんて」
セーフアースの洞窟は、ダンジョンと言うよりも、避難場所的な感じだったからな。
「だん…流様なら、ここのダンジョン程度、無傷で攻略出来るかと存じます」
「防ステだけ高くてもな……魔法か……」
ダンジョンなんかで、下手に魔法を使ったら、生埋め地獄であの世行き……駄目だ、考えるのよそう。
「あちらが宿の様ですね」
「鼠の寝床? 中々意味深な名前だな」
宿屋の看板に、鼠人の耳が描かれている。
これはアレだ、メオの様な、ハム耳ハム尻尾の可愛い娘さんが、小走りで宿を営んでいる、素敵な寝床だ。
「晩飯前に、宿を取っておくか」
「それが宜しいかと」
そう思い、宿へと入った。
ギィィィ────『おぅ、いらっしゃい』
そしてそのまま回れ右をして、ドゥシャさんの肩を掴み、そのまま外へと出て行った。
「だん…流様? いかがなさいましたか?」
「ドゥシャさん……別の宿にしないか?」
「この村こ規模ですと、宿屋はここだけになるかと、存じます」
「くっ……仕方無いっ!!」
息を吸って、吐いて、再度扉をくぐる。
ギィィィ────『おぅ、いらっしゃい』
ハム耳は間違っていない。
間違っていないんだが、その可愛らしいモフッとした耳が、村長並みの筋肉に付いているのは、精神衛生上良くないと思うの。
何なの?
俺に喧嘩売ってるの?
百歩譲って、普通の男性なら許せるけども、何で筋肉の塊にハム耳生えてるの?
あと鼠人って、種族を問わず皆んな小さいのに、目の前のハム耳筋肉、どう見ても俺より、背が高いよね。
「なぁ…その兄ちゃん、大丈夫か?」
「問題御座いません。一泊でお願い致します」
「あぁ……血の涙出てるが」
「問題御座いません。直ぐに治るかと」
アレは付け耳、アレは付け耳、アレは付け耳に違い無い。だって、あの頭の大きさに、あの小さなモフモフの耳が、似合って無いから。
「一泊五千ストールだ。一部屋で良いのかい?」
「……問題御座いません」
「二部屋で頼むっっっ!!」
「おっ、おう……二部屋だな」
「一部屋でお願い致します」
「ドゥシャさんっ、二部屋にしようね!!」
「……一万ストールだ」
危なかった……意識が戻らなかったら、ドゥシャさんと同じ部屋にされて、夜な夜な取って喰われるところだった。
「……チッ」
「……えっ? 今ドゥシャさん、舌打ちした?」
「気の所為で御座います。別にだん…流様を、ヘタレなどとは、思っておりませんので」
そのままドゥシャさんは、自分のお部屋に、向かって行きました。
何だろう……泣きたくなってきたよ?
宿を確認して直ぐ、晩御飯を食べる為、こうして村を歩いている訳だけど、ドゥシャさんが一切、口を聞いてくれない。
「ドゥシャさんやーい、何食べたい?」
「……チッ」
返事は全て、この舌打ちです。
あのドゥシャさんが、まさか舌打ちをするだなんて、思っても見なかった。
「ドゥシャさんの、食べたいモノで良いからさ。舌打ちで返答するの、勘弁して?」
「……チッ」
誰か助けてプリーズミーっ!!
このままだと、お店を見つける前に、俺の心が病んでお仕舞い地獄行き!!
「あのお店……だん…流様。御夕飯は、あちらのお店で頂くと致しましょう」
「ようやく口聞いてくれた。あのお店? 何か微妙に、離れた場所にあるんだな」
「香りが強い、お料理ですので」
香りが強い料理?
香草焼きとか、薬膳料理かな。
ドゥシャさんの後を付いて行くと、お店に近付くにつれ、そのキツい臭いが、漂って来た。
薬膳料理と言うには、キツ過ぎる臭い。
何処かで嗅いだ事のある様な、無い様な、ある意味不気味な臭い。
お店に入り、着席して、メニューを確認。
ドゥシャさんに、謀られた。
どうりで、嗅いだ事のある臭いだと思った。
メニューのオススメ欄が、コレだ。
ハイオークの睾丸シチューに、ハイオークの塩漬け睾丸。ハイオークの逸物の干物と、ハイオークのハート焼き。通常のオークでは無く、希少な上位種の、ハイオークである。
ただのオークでも、精力剤になるんだ。
その上位種の効果たるや……ヤバい。
「だん…流様。御夕飯を沢山食べて、しっかりと明日に備えましょう」
ドゥシャさん、少し口元が笑ってるよ。
長い夜に、なりそうだ。
『はっ!?』
『どうしたのぢゃミルン?』
『今何か……お父さんに危機が迫ってる…気がするの』
『ふむ、命の危機かや? あの流が?』
『違うの……何だろう?』
『よう分からぬミルンなのぢゃ』




