5話 婚前旅行?.4
「ミルンさんや、羽ペンは持ったかい?」
「お父さんが可笑しいの。元から?」
「ぢゃろうの。我に会うなり、膝蹴りをかます様な、可笑しい人種なのぢゃ」
「引き継ぎをするだけなのに、この言われ様って、号泣して良いか?」
お昼を食べた後、こうしてミルンに、土地開発及び、稲作に関して、色々と注意事項を伝えようとしてるのに、本気泣きするぞ。
「大の大人の号泣なぞ、見たく無いのぢゃ」
「早く説明プリーズなの」
「ミルンの言語能力……日々向上してるなぁ」
「早く説明ペルファボーレなの」
「のぢゃ?」
「ペル……何処の言葉!?」
「知らないの。記憶にあるの」
「知らぬ言語なのぢゃ」
上手くすれば、ミルンはバイリンガルに、なれるんじゃ無いか?
と言うか、俺は日本語を喋ってると思ってるだけで、違う言葉を喋っている可能性も……これは考えると駄目だ、頭が痛くなる。
「そんじゃ、今から説明する事を、その用紙に書いていくんだぞ」
「かしこまっ!」
「我は補助ぢゃな」
稲作をする上で、気をつける事。
このジアストールでは、適度に雨が降り、適度に晴れると言う、超良い環境ではあるが、だからこそ、注意しなければならない。
先ずは害虫対策。
年中温暖の為、虫も元気いっぱいなんだ。
ミユンがいつ帰って来るのか分からん現状、この対策をしないと、稲が食い荒らされ、マジで洒落にならない。
「害虫対策として、馬鈴薯畑の土を、定期的に撒く事。勿論、馬鈴薯畑に影響を与え無いように、様子を見ながらだ」
「ミユンのお土だから?」
「成程のぅ」
そう、ミユンが弄っていた土なら、害虫対策がなされており、撒くだけでも、一定の効果が見込まれる。
「次は、魔物対策……は大丈夫か」
「魔物が来たら、ミルンが潰すの!」
「我も見ておるしの。問題無しぢゃな」
この付近だと、オークばかり出て来るけど、直ぐにお肉に大変身だな。
オーガ達は安全だし、何かあっても、ここの戦力なら問題無いだろ。
「んじゃ、米作りの手順だな」
二十平方メートル毎に田んぼを区切り、二十センチ程の段差を付け、水を張る。
後は、良く土と水を馴染ませて、田植えの際に、しっかり苗を植えれる様にしておく。
田んぼの準備と並行して、苗作りだ。
水を張れる様に、隙間無く作った長方形の容器に、ミユン製培土を敷き詰め、和土国から手に入れた籾殻付きのお米。これを、小皿一杯分蒔いて、その上に増土をする。
それを先ずは、百個用意する。
水をたっぷりやった後に、その上から薄い布を被せて、上手く苗が育つのかを、経過観察。
上手くいけば良し。
育たなければ、培土を変えたり、水やりの量を調整したりと、試行錯誤しながら行う。
上手くいけば、それを使って田植えを行う。
後は、日々雑草の除去や、水の状態、気温を見ながらの水量の調整を行なって、稲が実るのを待つだけだ。
実ったら、田んぼの水抜き、稲刈り、乾燥、脱穀をするんだけど、全てが人力だから、本当に疲れる。
「大まかに言うと、こんな感じだな」
「頭が痛いの。農家さん、有難う御座います」
「……これで大まかなのかや?」
「当たり前だろ。俺が今言った事なんて、基本のきの字も言ってないぞ。知らない事ばかりだから、挑戦あるのみだ」
「ミルンは指示役?」
「我はそれを見守る役なのぢゃ!」
「それで良い。役所に言って、人員募集をかけるところからだな。誰を雇うか、給金は幾らかとかは、ミルンの采配で決めて良い」
最悪駄目だったとしても、最終的に責任を負うのは俺だし、規模の大きな、社会勉強と思えば良いだろ。
「頑張るの! 馬車馬の様に働かせます!」
「それは我が止めるのぢゃ!」
「ミルンさんや。鉱山の犯罪者達とは違うから、ちゃんと休みを取らせなさい」
「生かさず殺さずは、駄目?」
「駄目なのぢゃ!」
「黒姫……ストッパー役、頼んだぞ」
ミルンはアレだな。
獣族の中でも、スタミナ満点元気っ子だから、働く基本水準が高過ぎるんだな。
「旅行行くの……不安なんですけど」
あれやこれやと準備して、出発の日。
ドゥシャさんが用意した馬車は、少し大きめではあるが、冒険者が利用している、普通の馬車だった。
マッスルホースも普通サイズ。
キングとか、エンペラーでは無く、一般的なマッスルホースだ。
久しぶりに、普通の見たわ。
「それじゃあ行って来るから、お土産楽しみにしてなよ。ミルン、あまり無茶は駄目だぞ」
「善処します!」
「……そこは、分かりましたって、言って?」
「アトゥナ。ミルン御嬢様の事、しかと頼みましたよ。しっかりお世話なさい」
「分かりました。無茶しそうなら、力尽くでも止めるので、安心して下さい」
アトゥナの方が、聞き分け良いじゃん。
少し心配になってきたな。
「ミルン御嬢様。アトゥナの言う事を良く聞いて、決して無理はなさりませぬ様、お願い申し上げます」
「分かったの。アトゥナの言う事を聞きます」
ミルンさんや、俺の心配を返して?
ドゥシャさんには、素直に応えるんだね。
俺は今、泣きそうだよ?
「……黒姫、後は頼んだぞ」
「任せるのぢゃ。可笑しな奴が攻めて来たら、軽く潰してやるのぢゃ」
戦力的には、心配無いな。
万が一リシュエルが来ても、黒姫が居るから安心だし、問題無しか。
「そんじゃ、行って来ます」
「行って参ります」
パシィッ────『ヒヒィイイインッ!』
「行ってらっしゃーい!」
「お土産はお酒なのぢゃーっ!」
「……掃除するかっ」
ドゥシャさんと二人旅。
全く想像して無かった事態だけど、これはこれで、楽しめば良いのかな。
「南の国境まで、凡そ二ヶ月弱か。ドゥシャさん、ナビゲート宜しくね」
「ナビ……? 旦那様、それは一体、どう言う意味なのでしょうか」
「……今のは俺が悪かった。道案内宜しくって意味だよ。ドゥシャさんの要望が有れば、寄り道も大丈夫だからさ」
「そうでしたか。寄り道はせずに、そのまま国境に向かいましょう」
「了解。それなら、途中の村を端折って、可能な限り急ぐとしますか」
「お願い致します。他国を、諜報では無く観光出来るなど、早々御座いませんので」
ドゥシャさん……本気で遊ぶ気満々じゃん。
さっさと行って、満喫しなきゃな。
『行っちゃったの……』
『そうぢゃな……』
『黒姫、準備は良い?』
『勿論なのぢゃ』
『なら……お肉パーティなのおおおおおおっ!!』
『酒を呑みまくるのぢゃああああああああっ!!』
『俺居る事、忘れて無いか?』
『っ、アトゥナが居たの!?』
『アトゥナや、見て見ぬふりをするのぢゃ!!』
『ラナスやコルルも、見てるぞ』
『あの二人も居たの!?』
『こっちを睨んでおるのぢゃ!?』
『影さん達も、あそこから見てるぞ』
『あそこって何処なの!?』
『我でも感知出来ぬのぢゃ!?』




