4話 連邦国へ御招待.4
この二人が、どうやって南の国境を越えて、このファンガーデンまで来たのか。大体予想は付くけど、出来うるなら、コイツらから言質を取りたい。
何でって?
コイツらを通した馬鹿を、御仕置きする為に決まっているじゃないか。
「もう一度聞くぞ。どうやって、南の国境を越えてきた。正直に答えろ」
「正直に答えるの!」
「ぢゃないと、お尻に刺すのぢゃ!」
黒姫の角を刺す?
良い案だな!
『……儂を出せ』
『賄賂…門番に…』
『御主は馬鹿かっ、糞っ……』
本当に正直に答えるよねお前。
アレかな?
正直に答えたら、その牢屋から、出して貰えるとでも思ってるのかな?
出す訳無いだろ?
「気持ち悪い程の阿呆ぢゃ」
「正直なのは良い事なの」
「ミルンさんや。こう言うのは、得体が知れない奴だから、気を抜くなよ」
何処か欠けている奴程、何かに突出しているって事は、地球でもまま有る事だ。
目の不自由な人は、生活をする為に、聴覚と空間把握能力が増すし、逆もまた然り。
しかもそれは、肉体だけに、限った事では無く、精神面でも、同じ事が起きる。
「シャルネ以上に、ヤバい可能性も有るからな」
「ミルンはずっと、警戒してるの!」
「我は、警戒するまでも無いのぢゃ」
「そういやミルン、埋めようとしてたな」
ミルンが警戒してたのって、女性だからってのも有るけど、コイツがヤバいからか?
『お皿……頂戴?』
「何であの皿欲しいんだ? ただの皿だろ」
『自慢された…から』
「……えっ、それだけ?」
『……それだけ』
んーっと、整理しよう。
あのイケメンは、何かの折に、あの渡したお皿を、コイツらに自慢した。
んで、この十花忌道ぷは、それが羨ましかったのか何なのか、皿を求めて不法入国。
「んんっ?」
「お父さんの頭が破裂しそう!」
「素晴らしき阿呆なのぢゃ」
『お皿……』
「良しっ! お前は一旦黙ろうか!!」
このままだと、俺の頭が宇宙になる。
より正確に言うと、コスモになる。
コスモ?
「んで、オーゲッツのおっさんは答えないのか? このままだと、一生出さないぞ」
「切り替えたのぢゃ!?」
「お父さんが進化した!?」
切り替えて無いし、進化もして無い。
考えるのを、諦めただけだよ。
意味分かんないもん。
『はぁ……あの若造の鼻を、へし折ってやろうと思っての。流殿を儂の国へ招けば、彼奴の面目も立たぬし、人類に友好的な、魔王との交流も図れる。以上だ……』
「イケメンへの当て付けかよ。んな事で不法入国とか、本物馬鹿じゃん」
『思い立ったら直ぐ行動。儂の信条だ』
「人の迷惑を考えろよ。正式な訪問なら、こんな事にならんだろうに」
『っ、今後悔しとるわ!』
「後悔後先立たずなの」
「後の祭りなのぢゃ」
「覆水盆に返らずとも言うぞ」
『ぬぐっ……』
一国の代表が、こんなんで大丈夫なのか?
猪突猛進と言うか、考え無しと言うか、濃過ぎる奴等ばっかじゃん。
コッコッコッ────「誰か来たの」
んっ、ドゥシャさんじゃん。会合とやらが、終わったのかね。
「旦那様。南の国境より先触れが有り、連邦国アルマシロ代表、マルマリ・オッツ様が、面会を申し出ております」
『なっ、マルマリの小娘っ!?』
『マル…マリ?』
「まともな奴も居るじゃん。ちゃんと来るなら、もてなさないとな。ドゥシャさん、直ぐ来て貰っても大丈夫か?」
「問題御座いません」
「それじゃ、直ぐ許可を出すか」
正式な手続きで入国する、まともな奴なら、この二人と違って大歓迎だ。
「ドゥシャ…もう怒ってない?」
おっと、そうだそうだ。
ドゥシャさん忙しいから、言える時に言っておかないと、タイミングが無いからな。
「ドゥシャさん」
「何で御座いましょう?」
「ミルンなんだけどさ。礼儀作法が大事なのは、理解出来るけど、それを強制するのだけは、やめて欲しい」
「しかし……ミルン御嬢様は、貴族の娘です」
「違う。ミルンは貴族の娘じゃ無くて、俺の娘なんだ。ドゥシャさんなら、ミルンの生い立ちを知ってるだろ? 頼むよ……」
「っ……少し、強くし過ぎました」
「ミルンが甘えられるのって、俺かドゥシャさんだけなんだから、仲良くしないとな?」
正確には、ギルドマスターのネリアニスにも、甘えてるけどね。
アレは友達感覚だろうけど。
「申し訳ございません、ミルン御嬢様。以後、やり過ぎない様気を付けます」
「ドゥシャ…ミルンの事、嫌い?」
「とんでも御座いません! 嫌うなどっ、決して御座いません!」
「なら良いの。ミルンも、ドゥシャの様に、立派な女性になれる様、頑張ります!」
「有難き御言葉……その御言葉に恥じぬ様、これからもお側にて、御見守り致します」
ほい解決。
やっぱりこうして、本音で言い合った方が、気持ちも伝わるし、大切な事だよね。
『儂ら……何を見ておるんだ?』
『お皿……』
「いつもの事なのぢゃ。気にするで無いのぢゃ」




