4話 連邦国へ御招待.2
『アーティファクトがあああああああああああああああ────っ!?』
と言うオーゲッツ・デルガの叫びを聞いて、ふと思い出した事。
あのイケメンが、毒無効効果付きの皿を鑑定した際、アーティファクトと言っていた。
古代の遺物、アーティファクト、歴史的遺産と、色々言われている物で、割れた皿でも、相当な値打ちモノらしい。
そのお皿、山程有るんですけどね。
「ミルンさんや、次からは気を付けような?」
「分かったの。お皿から、絶対手を離さないの」
「違うだろ。食べ歩きを止めような?」
「検討します!」
ミルンの賢いところ。
まるでどこぞの政治家の様に、イエスかノーで答えず、検討や善処、時には何も答えずに、その場をやり過ごす。
しかしこの場合は、悪手だぞミルンさん。
「ミルン御嬢様、少し此方へ」
「嫌なの! ドゥシャの目怖い!」
ドゥシャさんが、近くに居るからな。
お叱りを受けると良い。
「ミルン御嬢様っ、旦那様を離しなさい!」
ギチギチッ────「離さないのっ」
「っ、強くなられましたね」
ギチギチッ────「お父さん助けてっ」
ドゥシャさんに連れて行かれまいと、必死になって、俺の服を掴んで離さないミルン。
物凄く可愛いけど、それも悪手だ。
ブチィッ────「破れたのっ!?」
ドゥシャさんの引っ張る力と、ミルンの掴む力に、俺の安物の服が、耐えられる訳無いじゃないか。
「さあミルン御嬢様。お休み前にもう一度、しっかりと御作法のお勉強です」
「お父さん助けてええええええ────」
ドゥシャに抱きかかえられ、ミルンはそのまま何処かへと、旅立って行った。
お勉強部屋兼、お説教部屋だけどね。
ミルンとミユンからしたら、そのお部屋は、立派な拷問部屋らしい。
俺は入った事ないぞ。
怖いからな。
「……儂、何を見せられとるんだ?」
「温かい日常の風景を貴方に」
「これが日常!?」
「と言うのは冗談で、狙いはあの皿か?」
「ぬぐっ……」
全部思い出した。
あのイケメンに、友好の証として、あの皿一枚プレゼントしたんだった。
あの、皿くれ皿くれって書いてた書状も、こう言う事だったんだな。
「おーい、アトゥナさんやーい」
「何か用か、流のおっさん」
「台所から、皿一枚持って来てくれ」
「何で皿?」
「良いから良いから」
近くで待機していたアトゥナに、台所に置いてある皿を、持って来て貰った。
そしてそれを、オーゲッツ・デルガに、自慢する様に見せてみる。
「さっきのよりも大きい皿っ、一つの欠けも無く残っておるとは……何処で見つけた!」
「言う訳無いだろ?」
「くっ、であろうな。ならばこの皿、儂に譲ってはくれぬか。よもやあの若造に渡しておいて、儂に渡さぬなぞ、有り得ぬだろう?」
「幾らで買うよ」
「ぬっ、あの若造からは金を取らず、儂からは金を取ると申すか?」
「当たり前じゃん。あの時は、正式な手続きで集まったから、友好の証に渡しただけで、お前らは不法入国者だろ?」
南の国境から先触れも無く、普通に俺の領内に入って来て、夜遅くに押しかけて来た。
しかもその理由が、皿をくれ。
ただの馬鹿なのか?
「待てっ……今流殿、お前"ら"と申したか?」
「一名捕縛済みだぞ。これってどう考えても、国際問題だよな」
「儂以外にも国境を……っ、彼奴、儂より先に、誰かを通しておったか」
「と言う事で、皿を買っても、持って帰る事は出来ないぞ。アンタは、牢屋行き確定だからな」
「待つのだ流殿! その様な事をすれば、我が連邦国との戦争になるぞ!」
「イケメン君と商談するから、戦争になんかならないって。ちゃんと高値で、イケメン君に引き渡すから、安心しろ」
「何を安心しろと────っ!?」
そう言って、合図を出す。
我が家のメイド達は、中々に優秀だからな。
俺にダメージを与える事が出来る、御山が立派なアトゥナも居るし、オーゲッツの首を締めて、窒息完了だ。
「流のおっさん、こいつどうすんの?」
「地下牢に入れといてくれ。明日になったら、また話するから」
「分かった。牢に入れて見張っとく」
「宜しく!」
アトゥナは強くなってから、睡眠欲と言うか、睡魔が襲って来なくなったそうだ。
なので、夜通し見張りをしても、次の日も元気に働いている。
羨ましい限りだよ。
俺は睡魔が全開だから、そろそろ寝るか?
「……酒呑み直して、ゆっくり寝よ」
あの小魚、まだ残ってたよな。
『ミルン御嬢様! ナイフの持ち方が違います!』
『武器と違うのっ』
『噛む時は音を出さない!』
『勝手に出るのっ』
『食べ歩きはお外のみ!』
『お父さんはしてるのぉぉぉっ』
『旦那様は旦那様! ミルン御嬢様はミルン御嬢様です! 悪いところを真似しない!』
『ドゥシャ怖いっ』
『こんな夜更けに、何をしとるのぢゃ』
『黒姫助けるのぉぉぉぉぉぉっ』
『黒姫様も、参加なさいますか?』
『……我は寝るのぢゃぁ』
『黒姫助けるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
『ミルン御嬢様! フォークの置き方が違います!』




