3話 突然の来訪者.5
時刻は夕方。
領主館内、食堂にて、お送りしております。
いやぁ……凄い光景だ。
「なぁ…流のおっさん」
カチャッカチャッ────『もっもっ、んぐっ。もっもっもっ、んぐっっっ、けほっ!』
「何だ…アトゥナ」
カチャッカチャッ────『ムゴムゴっ、それミルンのお肉なのっ! 離すのっ!!』
「あの人…誰?」
カチャッカチャッ────『嫌……もっもっもっ、んぐ。もっもっもっ、んぐっ』
「……俺も知らん」
カチャッカチャッ────『ムゴムゴっ、それミルンの唐揚げなの! 離すの!!』
「ミルンと張りおうとるのぢゃ……」
「テーブルマナーがなっておりません。ミルン御嬢様には再度、教育で御座います」
ミルンさんや、そこまでにしておかないと、ドゥシャさんが見てますよーい……肉を取られまいと必死過ぎて、聞いてないな。
ミルンと爆食いで、張り合う女性。
そうです。埋まってた女性です。
一度無視して、南側の開発を進めてたんだけど、辺りが暗くなって来たので、女性を地面から引っこ抜いて、取り敢えず連れて来た。
ミルンは俺の頭を楽器代わりに、物凄く抗議して来たけども、流石に原因が原因だから、やむ得ない判断だと思う。
夕飯だった事もあって、詫びがてらこうして、食事を振る舞ってるのだけど、ここまで食うとは思わんがな。
女性の容姿的には、東洋人系だな。この異世界的には、東の人っぽい。
瞳の色は黒く、若干タレ目。
まつ毛がバーンっ!てなってる。
黒髪は艶やかロングヘアだけど、前髪にだけ何故か、赤っぽいメッシュ。
背丈はミルンより高く、ドゥシャさんより低い。
あとは、御胸様が見当たらない。
リティナ以上に見当たらない。
「男の娘じゃ…無いよな?」
「何言うとるんぢゃ? 彼奴は女子ぢゃぞ?」
「黒姫が言うのなら、間違い無いか……」
カチャッカチャッ────『これ美味しい……もっもっもっ、んぐ。もっもっもっ、んぐっ』
カチャッカチャッ────『ムゴムゴっ、ミニハンバーグはっ、ミルンのヤツっ!!』
「料理が消えて行く……ドゥシャメイド長、もっと持って来ましょうか?」
「構いませんアトゥナ。旦那様が連れて来たとは言え、敵か味方かも分かりませんので。しっかりと監視なさい」
「分かりました。しっかり監視します」
アトゥナはやっぱり、ドゥシャさんに対してだけは、言葉使い気にしてんのな。俺には普通にタメ口なのに……楽だから良いんだけど。
カチャッカチャッ────『もっもっ、んぐっ。もっもっもっ、んぐっ。ごっごっ!!』
カチャッカチャッ────『ムグムグっ、今のうちに食べ尽くすのおおおおおおっ!!』
「鍋ごと野菜スープ……凄いな……」
「ミルン御嬢様の食べる早さと、あの女の飲む早さが同じって……俺、何見てるんだろ」
「アトゥナや、気にしたら駄目なのぢゃ」
「黒姫様の仰る通りですよ。アトゥナは気にせず、監視を怠らない様に」
それで、結局こうなる訳だよ。
「うぷっ……うっ、動けないの」
「……ご馳走様っ、うぐっ…けぷっ…」
ミルンだけで無く、見知らぬ女性も、腹を抱えて床に大の字って……倒れているから丁度いいな。尋問し放題じゃん。
「そんで、結局お嬢さん?は、何者なんだ」
「けぷっ…連邦国ツキヨ…十花忌、道ぷっ…」
何だその名前。"とばないとおぷ"って、変わった名前の人も、居るもんだ。
しかも、連邦国の人間なんだな。
「……不法入国及び、意味分からん罪。ドゥシャさん、牢屋へゴーだ」
「畏まりました。地下牢にて、監視致します」
「ドゥシャメイド長、お手伝いします」
「ざっ…ざまぁなの…お腹苦しいっ」
「ミルンは成長せぬのぅ」
さて、お腹も膨れたし、風呂に入るか。
勿論、ミルンは放置して行く。今のミルンを担いだら、腰が抜けて、大変な事になるからな。
「おどうざんみずでないでぇーっ、うぷっ!」
「後で我と入るのぢゃ」
「黒姫……頼んだぞ」
ミルンもそろそろ、一人でお風呂に入らなきゃな。全裸で徘徊癖も直さんと、いつか本当に、痛い目を見るぞ。
そう言う事で、一人風呂。
ミルン像を眺めながら、和土国産のお酒を片手に、ゆったりタイムだ。
「んぐっ……っ、旨いっ!」
喉ごしサラっと、後からガツン。
発泡酒や生も良いけど、やっぱりコレだよ。
ツマミで用意した、小魚の醤油焼きとも相性抜群。
良い時間だなぁ。
「良く分からん事もあったけど、明日の俺に丸投げですよっと…んくっ…うまぁい…」
◯ーライオンの如く、温かいお湯を吐き続けるミルン像を眺め、好きな酒と、好物のツマミを食べながら、風呂に入る贅沢。
「あぁ……働きたくねぇ……」
俺は油断していた。
後はゆっくり、お布団ですやすや。
そう思っていたんだ。
「何て事が起きたら、マジで泣くからなぁ」
『たのもおおおおおおおおおお────っ!!』
遠くから、おっさんの声が、浴場まで響いて来た。
噂をすれば、何とやらか。
無視を決め込もうと、酒をちびちび呑んで居たら、浴場に、コルルとラナスが突撃して来て、アレやこれやとお着替えさせられ、謁見の間に、連行されました。
俺、酒呑んでたんですけど?
酔ってますけど、大丈夫ですか?
『ラナス! 流さんに水飲ませて!』
『コルルがやってよぉっ!』
『待て二人共っ、バケツは止めっ────おばばばばばばばばばばばばばばっ!?』
『流さん! 酔いは覚めましたか!』
『文句ならっ、ドゥシャメイド長にお願いしますぅっ』




