3話 突然の来訪者.1
さて、先ずは状況を整理しよう。
先日に引き続き、稲作を始める為の伐採兼土地開発に勤しむ為、黒姫とミルンを連れて、こうしてファンガーデンの南側に来た訳だけど、そこに見知らぬ女性が倒れていた。
倒れていた。と言ってしまうと、あたかも俺が、雀の涙程の人道精神を発揮して、助けた後の様に思われてしまうだろうから、この場合は、"倒れている"と言うのが、正しいのだろう。
より正確に言うと、倒れていると言うよりも、なぜか埋まっている。
現在進行形で、埋まっている。
ものの見事に、埋まっている。
どれ程埋まっているかと言うと、顔だけがボコっと出ていて空を見上げ、それ以外の部分が、全く見えないと言える程には、埋まっている。
しかもその女性、まるでそこが、"私の寝床です"と言わんばかりの真顔のままで、その表情筋は生きているのだろうか。などと、少し心配してしまいそうになる。
因みに先程から、見知らぬ女性。その女性。などと言っているけども、顔以外は埋まって居るのに、なぜ女性だと分かるのか。
簡単な話である。
ミルンが全力で、何の躊躇も無く、埋まっている女性に対して、増し土、もとい盛り土をしているからだ。
ミルンは基本、人を嫌う事をしない。
ウザ絡みをするウザ子さんは別として、基本的に、誰とでも仲良くなろうとする、コミュ力抜群の犬耳娘だ。
基本的にと言うからには、勿論例外も存在する。その例外が、埋まっている女性。
埋まっている女性は例外。では無く、ミルン曰く、シチュエーションが問題なのだと、尻尾を逆立てながら、力説していた。
どうやら俺に、悪い虫が付かない様にと、ミルンなりの気配りらしいのだが、無抵抗の女性に対して、それも躊躇無く、顔面ダイレクトで土を被せるのは、如何なモノだろうか。
これがもし日本だとしたら、傷害又は殺人未遂事件として、警察が動き出し、逮捕後そのまま、実刑となるかも知れない。
この異世界であっても、この女性が万が一にでも、他国の重要人物であった場合、下手をすると、国を挙げての祭りが始まるだろう。
血祭りと言う名の、祭りが始まるだろう。
それにしても、ミルンに土を被せられている状況だと言うのに、この女性は、全く微動だにしない。
恐ろしい程の胆力だと、称賛を送りたいところでは有るが、正直称賛よりも、得体の知れない不気味さの方が、遥かに勝っている。
なんなら、不気味さしか無い。
そうこうしている内に、女性の顔面が、完全に埋まってしまった。埋まってしまったと言うと、語弊が有るので、ミルンが全力で、埋めてしまったに訂正しよう。
ミルンのやり切った顔が、とても可愛い。
良い運動をした後の顔だ。
額の汗を拭い、さも大仕事を終えた土木作業員の様に、お水をゴクゴクと飲み、『ぷはぁっ、今日も良い汗かいたの!』と、尻尾を振り振りお耳をぴこぴこ。
いつ見ても可愛い。
会った時より、少しだけ背が伸びていて、あと五、六年もすれば、男共の視線を奪う、ケモ耳美少女になるだろう。
反抗期まっしぐらだ。
異世界にも、反抗期は存在するのだろうか。
お父さんウザい。
なんて言われようモノなら、俺の心は砕け、涙腺は崩壊し、自分探しの旅に、出てしまうかも知れない。
おっと、思考が宇宙の彼方へ飛びそうだ。
俺はゆっくりと、ミルンが作った小さな御山と近付き、その土を掘ってみる。
ミルンが俺の背に乗り、止めようとして来るが、流石に生き埋めは不味かろう。
そう思いながら掘っていると、何か固いモノに当たった。いや、当たったと言うより、刺さったと言う感触だろうか。
右手が何かに刺さった。
何に刺さったのか、分からないけども、上手く抜く事が出来ない。
それならばと、その刺さったままの右手を動かして、感触を確かめる。
ねちょっと言うか、滑っとしている。
何だか生温かくて、気持ち悪い。
しかし、親指の感触的に、固い部分も有る様で、これならば、掴む事が可能だろう。
掴んで引っ張る────ボコっという音と共に、あの顔が出て来た。
どうやら、上手い具合に、女性の口の中に、指を突っ込んでいた様だ。
左手で女性の顔を押さえて、右手を後ろに引っ張ると、女性の唾液が糸を引きながらも、俺の指は、解放された。
黒姫がそれを見て、爆笑している。
ミルンは尻尾を逆立て、女性を威嚇。
埋まったままの女性に、威嚇するなんて、危ない気配でも、感じたのだろうか。
黒姫は後で埋めよう。
そう思ったその時────『……連邦国ツキヨ……十花忌道理』
俺は一度空を見て、息を吐き、背に乗るミルンを前に持って来て、頭を撫で撫で、尻尾をモフモフした後、行動に移した。
掻き分けた土を集め、女性の顔に盛り付けて、その上から優しく、ぽんぽんっと、土を押し固める。
「ミルン、黒姫。今日は帰ろうか?」
「賛成します!」
「彼奴はあのままで良いのかや?」
黒姫さん。良いんです。
厄介事になる前に、退散しよう。
今日は、皆んなでセーフアースに行こう。
ハーピィ達の抜け毛で、枕を作ろう。
「俺達は、何も見なかった。以上解散!」




