2話 稲作は難しい.1
「あーっ、こし餡旨めぇ」
朝から何やら、ミルンがご機嫌斜めだった。
影さんも居たけど、何やってんのかね。
そんな事を思いながら、ファンガーデン近辺の地図を見て、一人黙々お仕事中。
「やっぱり、城塞都市の中じゃ無理か……」
何を考えているのかって?
米を作る場所を考えているんだ。
珍しい事に、執務室で俺一人。こうして真面目に、仕事してんだぞ。
「一人言はなれたもんっと」
元々ファンガーデンは、稲作を前提とした作りになっていない。
居住区の畑では、小麦に似た穀物と、芋をメインに、他には葉野菜を育てている。
その直ぐ近くには、コカトリスの養鶏場まであるから、稲作するには場所が無い。
「やっぱ、拡張するしか無いな」
村長の領地が、稲作に手を付けるには……爆速でやっても、数年は必要。
それまで待っていられないし、和土国から仕入れるにしても、距離が離れ過ぎている。
「列車か飛行機か……」
大量輸送手段が無いからね。
ちまちまやってたら、お金にロケットが生えて、宇宙まで飛んでっちゃう。
「問題は、気候だな」
このジアストール、全く寒暖差が無いの。
帝国は、行けば行くほど肌寒くなっていたのに、この国は年中温暖。
確か米作りは、春に苗を作って、夏本番前に田植えをして、秋を感じる前に収穫。後は、乾燥させてのあーだこーだだ。
「温暖でも育つけど、見た目と味に拘りたい」
もちっと感と、ねっとり感は大事だ。
カレーなら、少しパサついていても良いが、毎日食べるのなら、そこは妥協出来ない。
「稲作をやるのなら……南だな」
アトゥナの居た村より先まで、俺の領地みたいだし、先に伐採進めとくか?
城塞都市内の消費を考えたら、どれぐらいの広さが有れば、問題無いんだろ。
「思い出せーっ、確か……」
十平方メートルで、年間通しての一人分の米が出来るんだったか。んで、ファンガーデンの人口は、二十万を超えてると。
「ドーム何千個分の広さだよ」
勿論やるよ?
やりますとも。
だって、米の為だからね。
人口増えてるから、米作りに誰かを雇えば、働き口兼、お米が出来る!!
「うしっ、いっちょやりますか!」
南の森を切り拓いて、更地にしてからじゃないと、何も出来無いからね。
「『空間収納』無双!!」
いやーっ、便利便利。
山削った時もそうだけど、保管場所と言うより、最早重機だよね。
「開拓チート乙っ、『空間収納!!』」
ただ一つだけ、思う事が有るんだ。
ドームうん千個分だからね。
ただただ辛い。
「……口調は楽しそうなのに、顔死んでるぞ、流のおっさん」
はい、アトゥナを道連れにしました。
旅は道連れって言うからね。
「はははっ、こんなん顔死ぬって」
「怖っ!? 止めろよ気持ち悪い!」
うんうん。アトゥナさんや、そんなん言われ慣れ過ぎて、四十五点。
「リティナに勝ってるのは、胸だけだな」
「急に何だよっ、胸を見るな!」
「アトゥナ。年齢的に範囲外だから、御免な?」
「流のおっさんがっ、領主とは思えないっ」
そりゃあ、何ちゃって領主ですからね。
何か問題が起きたら、即座に皆んなを連れて、セーフアースに高跳びするぞ。
「やっぱり一人より、誰かと居た方が楽しいな。『空間収納』っと……辛い」
「情緒不安定かよ!?」
「米の為とは言え、休んで無いからな。次休む時は、一年程姿を消すかもね!」
「ドゥシャメイド長と、旅行に行かないのか? 結構楽しみにしてたけど……」
「マジで?」
「うん。下着とか真剣に見てたし……」
嫌な情報有難う。
独身貴族の危機過ぎるっ。
あんな悩殺バディに迫られたら、俺のミジンコ理性なんて、一瞬で飛んじゃうぞ。
「なぁアトゥナ」
「何だよ?」
「ドゥシャさんさ、何色の下着見てた?」
「真っ黒のだったぞ」
「俺の趣味にドンピシャっ!?」
何で俺の好きな色を知ってんの?
アレか? 俺って、プロファイリングでも、されてるのかな。
「暗部の長なだけあるなぁ」
「変な流のおっさんだな……俺見てるだけだから、暇なんだけどさ。何か手伝う事無いの?」
「アトゥナに出来る事? それなら、この棒使って、正方形に線を引いてくれ」
「流のおっさんが、くり抜いた大きさでか?」
「正解。胸を揺らさず、やってくれよ」
ズリズリッ────「揺れるんだけど……」
それだけデカけりゃ、揺れるか。目に毒過ぎるぞ、アトゥナさんや。




