1話 ゆっくりとのんびりと.2
ザッザッ────「……」
「ミルン御嬢様、何処行くんっすかぁ」
ザッザッ────「……」
「あっ、あそこに焼き串売ってるっすよ!」
ピタッ────「何で付いてくる?」
朝ご飯を食べた後、気分転換にお外を散歩しているのに、うざ子が付いて来るの。
しかも全く、歩く音がしない。
臭いがするから分かるけど、物凄く落ち着かないし、正直お邪魔なの。
「魔神様に任されましたから、地の果てまでもお供するっす!」
「地の果てまでは嫌なの。ハウスなの」
「家は無いっすよ? それなら、ミルン御嬢様の行く所にお供するっす!」
「動じないウザさ!?」
影の中でも、ダントツの絡み具合。
御座るは一体何処に行った?
御座るが良いの。
「……語尾に御座るを付けてみて?」
「良いっすよ! 今日は何処に行くで御座るっすか?」
「語呂が最悪……やっぱり戻すの」
「分かりましたで御座る……っす?」
「御座るが残った!?」
この影といると疲れるの。
ミルンは突っ込み役じゃない!
突っ込みは、あそこでアトゥナと揉み合っている、リティナのお仕事なの!
『こんなん付けとるからっ、治療に邪魔になるんや! 引きちぎったるわ!』
『止めろって! これ握られんの痛いんだよ!』
「……見ない事にするの」
「あの二人、良い動きしてるっすねぇ」
今日はあの場所に行くの。
最近完成した、ファンガーデンで今一番人気の、ほっとなすぽっとなの。
このウザ子なら、絶対嫌がる筈なの。
居住区の一画に建てられた、そこそこ大きめの、石造りの建物。
王都では、特権階級の貴族か、高ランクの冒険者しか、利用出来無い様になっている建物。
「ボソッ(ミルン御嬢様、お外行かないんですか)」
「今日はここで読書なの」
「ボソッ(この空気苦手っすぅぅぅっ)」
「嫌ならウザ子だけ出て行くの」
ファンガーデン図書館。
ドゥシャが、各方面から集め、お父さんの、変な知識を活用して出来た、智の宝庫。
「ミルンはお勉強好きなの。ウザ子は苦手?」
「ボソッ(苦手と言うか、眠くなるっす)」
「寝たら追い出されます」
「ボソッ(それ……本当っすか?)」
本当なの。
あそこの、カウンターに居る受付さん。
ジッと周りを観察してて、あの目は間違い無く、獲物を探しているの。
「だから大人しくしてるの。周りの子達も、黙々と本を読んでるでしょ」
「ボソッ(うぅ……ミルン様が読んでるの、少し見せて貰ってもいいっすか?)」
「見てみるの。楽しいよ?」
タイトルは、『魔物の生態』なの。
ゴブリン、オーク、コカトリスだけで無く、ハーピィや、ウッドドールの事も、細かい文字で書かれてるの。
「ボソッ(うへぇ、凄い見辛いっすぅぅぅ……)」
「ウザ子?」
ウザ子が本を見たまま、固まってるの。
もしかして……寝てる?
でも、目は開いたままなの。
「すぅ、すぅ、すぅ」
「目を開けたまま……怖いの」
でもこれで、静かに本を読めるの。
次は何を読もうかなぁ。
あれっ? カウンター受付さんが居ないの。
何処行った?
『失礼致します』
「っ!? 近づいて来てたっ……なあに?」
『そちはのお方は、寝ておられますか?』
「寝てる……と思うの」
『畏まりました』────ギチィィィッ!!
受付さんはそう言うと、ウザ子のメイド服を掴んで、そのまま持ち上げ、お外へと運んで行きました。
「……強制退館させられたの」
あの受付さん、気配も無かったし、臭いもしなかったの。
ウザ子を超える隠密性……何者?
ウザ子が居なくなったので、裏口からこっそりと出て、お散歩再開なの。
「もう直ぐお昼……買い食いするの!」
今日のお口は、サッパリ系です。
お魚さんか、コカ肉さんか、この二択から考えて、問題は味付けなの。
「塩味……お醤油……」
お父さんは、塩よりお醤油派なの。
特に、お魚の煮込みを食べた時のお父さんは、何だかとても幸せそう。
『惨影的には塩っす! 食べ慣れた味が、一番美味しいっす!』
「……どこから現れた!?」
いつの間にか、背後にウザ子が居たのっ。
ミルンの平穏が脅かされてるの!
「ウザ子には聞いてないっ」
「そんな事言わずに、お魚一緒に食べるっす!」
「勝手に決められた!?」
ミユン早く帰って来るの!
ミユンが居ないと、ウザ子がしつこいの!
「ほらほら行くっすよ!」
「……帰ってお父さんと食べるの」
「何でっすか!?」




