1話 ゆっくりとのんびりと.1
ミユンが帰って来ない。
村長の所で、何かお手伝いをしている様だけど、もう一週間は経ってるの。
「お一人様のお布団……つまらなぁい」
窓から、太陽さんが『起きなさい』して来るけど、今日は出たく無いのぉ。
「お布団ぐるぐる、丸めて籠る」
正にお父さんなの。
お父さんは今頃、ドゥシャに叩き起こされて、悲鳴をあげてるの。
コンコンッ────『ミルンお嬢さまーっ、朝でっすよーっす』
何故うざ子?
そう言えば、ミウとメオが出て行ったんだった。村長の領地で働く為、護衛も付けずに行っちゃったの。
「今日はお昼まで出ない。ミユンも居ないし、お友達が減ったから」
ラナスとコルルは、この時間だとお庭のお手入れだし、寝起きのお父さんに近付いたら、魔法発動しそうで危ないの。
「起きないと、ドゥシャ様に怒られるっすよ?」
何故部屋の中にっ!?
扉が開く音しなかったのにっ、やっぱり影は意味不明なのっ!!
「ほらミルン御嬢様っ、お布団をはなすっす!」
ギチギチッ────「離さないのおおおっ」
お布団が悲鳴をあげてるけど、もし千切れたら、うざ子の所為です。
「力強いっす! ミルン御嬢様っ、起きたら美味しい甘味が待ってるっすよ!」
甘味……和土国で手に入れた、餡子?
アレを朝から食べれるのは、今日は何か良い日なのかな?
ギチギチッ────「こし餡?」
「何で影よりっ、力強いんですかっ!」
ギチギチッ────「つぶ餡?」
「ぬうううっ、好きな方っすよっ!!」
「なら起きるの!」
「あっ────」
────ガシャンッ!!
うざ子がお布団ごと、ミルンのお部屋に置いていた、ガラス細工に突っ込んだの。
ドゥシャが丹精込めて作った、お花を飾る、綺麗な花瓶なの。
「ドゥシャに伝えるのっ」
「それは勘弁っす!?」
このうざ子、無傷なの。
と言うか、何でメイド服着てる?
影なのに、お顔見えてるの。
「うざ子……鬼人?」
「そうっすよ? 可愛い角を持つ、超絶美人ナイスバディな鬼人族っす!」
「何でメイド服着てる?」
「休暇っすよ! ミルン御嬢様と過ごしたくて、こうして遊びに来たっす!」
休暇なのに、休んで無いの。
正直この影より、御座るの方が良い。
御座るなら、ここまでぐいぐい来ないし、良い距離感を理解してるから。
「……それなら、鬼ごっこするの。ミルンが鬼で、うざ子は逃げるの」
「良いっすよ!」
「それじゃあうざ子は逃げるの。十秒数えたら、追いかけます」
「ふふんっ、捕まらないっすよおおおっ!!」
────ズドドドドドッ!!
凄い勢いで走って行ったの。
さらばうざ子。
ドゥシャにはしっかり、伝えておくの。
「んっ──っ、ぷはっ……甘味っ!!」
背伸びをして、準備完了なの。
お部屋を飛び出して、食堂へ走るの!!
「……何故ここに居る」
「あっ、ミリュンおひょうさまっ。んぐっ、ここの朝御飯、美味しいっす!」
せっかく、何処か行ったと思ったのに、うざ子が優雅に朝食を食べてるの。
鬼ごっこは?
何故食堂に?
「意味が分からないのっ」
「どうしたっすか? お団子美味しいっすよ?」
「ドゥシャはどこ?」
「ドゥシャ様なら、さっき商会の会合に向かったっす! 戦後処理やら何やらで、結構苛々してたっすね」
タイミングが悪いのっ!?
このうざ子と二人きりは、地味に疲れます。
「ふわぁっ…おはようミルン……」
「お父さん!」
お父さんが来たの!
これならあのうざ子と、二人きりにならずに済むの!
「ん……知らない奴が居る? 誰?」
「アレは不審者なの。追い出すの」
「……不審者?」
ファンガーデンなら、お父さんの方が上位者なの。いくら影と言えど、その命令なら無視出来ない筈なの。
「おはようっす魔神様!」
「……その言い方、影さん?」
「早速バレたの!?」
「メイド服姿で、何してんの?」
「ミルン御嬢様の御世話っす!」
「それは違うの」
今さっき休暇で、遊びに来たって言ってたのに、しれっと嘘を吐いてるの。
「まぁ、良いか。ミルンも暇だろうし、相手してやってくれ」
「お父さん!?」
「了解っす! ミルン御嬢様の事、この惨影にお任せ下さいっす!」
不吉過ぎる名前なの!?
影にお名前があるのは、ビックリだけど、そのお名前は、誰が考えた?




