プロローグ② 連邦国家の腹黒達
南の連邦国家。
数多の小国が手を組み、議会議員制と言う、民衆によって選ばれた者達が、国の舵取りを行う、民主の国。
その国々の中でも、最も力を持つ五カ国。
その代表者達が、ノーザン中央に在るレストランへと集まり、会食と言う名の、腹の探り合いをしていた。
「お久しぶりですね、オーゲッツさん。中央から"わざわざ"御足労頂き、有難うございます」
ノーザン国代表、『ハバノア・アスダオルタ』。
最もジアストールと国境を接し、幾度もその進行を捌き、押し退けて来た、連邦国家にとっての『盾』となる国。
「ふんっ、若造が……お前には色々と、聞かねばならん事もあるでな」
ジルトン国代表、『オーゲッツ・デルガ』。
連邦国家内全ての、流通を担う国。
中央に位置し、各国の軍を統治する他、何が、何処で、どれほど必要なのかを判断。即座に行動し、采配を行う正に『心臓部』。
「……ご飯食べたらぁ、帰って良い?」
アルマシロ国代表『マルマリ・オッツ』。
連邦国家の資金源である、地下資源の採掘国
鉱石の産出量が異常な程多く、本来ならば、単一国家としてもやっていける、強国である。
「酒よ酒! ほらもっと持って来なさーい!」
イヨワリ国代表『ノムーワ・シュヌ』。
医療、薬学に精通した者達の国。
しかし、大半の国民が酒呑みの為、夜に治療をお願いする場合は、酔っているので要注意。
「……シュヌ、煩い」
ツキヨ国代表、『十花忌・道理』。
ツキヨ国は、東の国々と国境を接する国。
入れ替わり差し代わりと、攻めて来る東の兵共を、時に集団で、時に単独で討ち滅ぼす、連邦国家にとっての『剣』である。
「年に一回。主要な国々の皆様と交流出来て、若輩者の僕としては、有難い事です」
「ふんっ、何が若輩者か。ここに居る誰よりも、その腹の内は黒かろうに」
「いやいや、僕なんてまだまだ。オーゲッツさんの足元にも及びませんよ」
貸切のレストラン。
そこで働く配膳係は、冷や汗を滲ませながら、料理を運んで行く。
「んかぁ──っ! この酒旨っ! ちょっと持って帰りたいから、銘柄教えてよ!」
「……連邦国の酒じゃ無い。何処の?」
ノムーワと十花忌。その二人の視線が、配膳係を捉え、震え上がらせる。
その瞳は、正に肉食獣が如し圧を放ち、答えねば間違い無く、解雇真っしぐらであろう。
恐怖なのか、配膳係の股下に、若干の染みが滲んでいる。
「お二人共。そのお酒は、和土国の傘音技代表から頂いたものだよ。手土産に貰ったヤツだから、今回特別に出したんだ」
「和土国……東の国の一つ……」
「えーっ! じゃあ今呑んでるヤツだけって事? 隠してるんでしょ! 出しなさいよーっ!」
「貰ったのは二本だけだし、その内の一本を開けたんだ。勘弁して欲しいな?」
「ええいっ、御主ら煩いわ!!」
「眠いなぁ……帰って良いかぁ?」
正に、混沌。
誰も彼もが好きに言い放ち、この集まりのホストで在る、ハバノアですら加わり、全く話が進まない。
「あっ、そうそうもう一つ。ジアストールの魔王から、こんな物を貰ったんだ」
そう言って取り出したのは、一枚の皿。
白地の上に、見事な細かい紋様が彫られてはいるが、ただの皿である。
「皿では無いか?」
「皿よね?」
「……皿」
「眠い……んぁ?」
「流石マルマリ、気付いた様だね」
マルマリは、ゆっくりと動き、テーブルに置かれた皿を手に取ると、じっくりとその皿を観察し始めた。
「これぇアーティファクトだぁ」
「アーティファクトだと?」
「そのお皿が?」
「……頂戴」
マルマリの一言で、その場に居る者達の顔付きが一変。
「このアーティファクトの効果は、『毒無効』。このお皿が有るお陰で、毎日の食事が楽しいんだ。だから、通理ちゃんでも、これをあげる事は出来無いなぁ」
「毒無効っ、国宝級では無いか! それを魔王に貰っただとっ……」
「くれないなら何で見せたのよーっ!」
「……ケチ」
「眠いぞぉ。帰って良いかぁ?」
そう、このハバノア。
お皿を見せびらかす為に、割れない様わざわざ自分で梱包して、クッション性抜群のカバンに入れ、こうして持って来たのである。
「ふふん。これは、僕が"流さん"から貰った、友好の証だからね。これが欲しいのなら、"流さんが来た時"にでも、頼めば良いさ」
「ほぅ……その魔王は"流"と言うのか」
「ふーん、"流"と言うのねぇ」
「……"流"覚えた」
「もぅ帰るぞぉ」
ハバノアは、調子に乗ると口を滑らす。
連邦国家主要五カ国全てで、魔王の名前が周知されてしまった。
「さぁ、儂はもう帰るぞ」
「そうねぇ、やる事出来ちゃったわぁ」
「……帰る」
「私もぉ、帰るぞぉ」
こうして、連邦国家主要五カ国の集まりは、何の議題も話す事なく、スピーディーに解散したのである。
「……えっ? 皆んな帰った!?」




