間話 魔王ダラクの昔話.2
私は今、和土国の東の端にポツンと存在する、悪魔族が住まう砦に来ている。
その理由は、魔王からの呼び出しだ。
この東の地で、多分私ではなかろうか、と言う仕事をしているが、まさか魔王にまで、知られているとは。
「っとまぁ、こんな感じやなぁ」
「ふむふむ……そのお話は、一体どれ程昔のお話なのでしょうか」
「どれ程前て、覚えてへんわ。姉やん攫った国滅ぼして、同胞集めて、同じスキル持つ奴を探して、忙しかったからなぁ……」
「成程。しかしどうしてまた、この様なお話を残そうと、思われたのですか?」
「……教訓と、あの白い翼を持つ者には、気を付けろって、教える為やなぁ」
そう、私の仕事は、この東の地で、ありとあらゆる歴史を残す事。
新しい国が出来ては、直ぐに消え行くこの東の地で、これ程無謀な仕事をするなど、私以外誰が居ようか。
「白い翼ですか……羽人族では、無いですよね」
「そやなぁ。羽人族と似とるけど……全くの別モンやろ。存在感が半端なかったからなぁ」
「それで、あそこに有るカケラが、お話にあったお姉様であると……粉々ですね」
「あの糞龍曰く、姉やんはもう居らんそうや。まぁ、そやろうとは、思うてたけど……」
「お姉様とは、逢えずじまいと……」
中々に重たい話ですね。
東の魔王の一人。
元々は、お淑やかな緒方ですか。
「一度だけなぁ。それっぽいのと、話をした事があんねんよ」
「っ、そうなのですか?」
「忌々しいけど、あの糞龍が言うてた事な……ドンピシャやったわぁ」
「あのっ……先程から言っておられる、糞龍とは、誰なのでしょうか?」
「ウチをこんなんにした、化物やなぁ」
この東の地にて、数体確認されている魔王の一体であり、そのスキルは災害級。
田畑を腐らし、川を飲めぬ水と変え、幾つもの国を、滅ぼして来た魔王。
その魔王の今の姿が、何と言うのか。
片目が潰れ、両脚が無く、この様子を見る限り、恐らく身体の中も、ボロボロだろう。
「魔王が、化物と称する存在ですか……」
「そやで。手を出したらあかんモンに、手を出してしもうたからなぁ」
「……それは、聞いても宜しいので?」
「言う訳無いやろ。流石にこん話は、愚か過ぎて残したく無いねん」
それは、少し残念ですね。
魔王から話を聞けるなど、そうそう出来る事では無いので、頑張りたいのですが。
「ふぅ……あかんっ、ちと疲れたわ」
「お客人。申し訳無いが、ここ迄にして欲しい」
ぐっ、まだ聞きたい事が沢山有るのにっ。
「そっ、そうですか。それでしたら、また何かお話が有れば、是非お呼び下さい」
「すまんなぁ。また頼むわ」
「お願い致します。それでは、失礼を……」
◇ ◇ ◇
「ダラク様。余り無茶を、なさらないで下さい」
「ははっ、すまんかったわ。流石にっ、まだ動くもんちゃうなぁ……」
「っ、あの薬さえ、もっとあればっ……」
糞龍が渡して来た薬かぁ。
ウチの千切れた腕治して、腰下まで治した不気味な薬やけど、何やろなぁアレ。
あの糞龍。ジアストールの糞龍やろうけど、ホイホイとは寄こさへんやろうし。
「生きてるだけ、儲けモンや」
「必ずっ、手に入れます。ダラク様のお陰で、我々は助かったのですっ……」
「さよか。ほな、のんびり気長に待つわ」
「はいっ。必ずやっ」
こん子らも、同じスキルを持つ者探すついでやったけど、気付いたら沢山集めてもうたわ。
ウチらと同じ顔の所為で、酷い目におうてもうたのに、文句の一つも、言うてけえへん。
「ホンマに、悪い事したなぁ。すまんかった」
「ダラク様?」
「いや、自分らに謝ってんねんで?」
「なぜですか?」
「見た目の所為で、酷い目におうたやろ」
「見た目? 奴隷商に攫われるぐらい、可愛いですもんね」
「えっ? 何言うてんの?」
「気にしておりません。と言う事です」
はぁぁぁ、何やこん子ら。
昔のウチらより、根性あるんちゃうの。
なぁ、姉やん。
「そう言えば、ダラク様のお姉様。お名前を聞いた事が、無いですね」
「んっ? 言ってへんかったっけ?」
「はい。一度もお聞きした事、無いですね」
「そやったか……リザナ、リザナ・オルカスって言うねん。ウチの大好きな、姉やんや」
昔は良う、大きい胸に抱きついたりして、甘えとったなぁ。
『いつ迄甘えとるんじゃこんボケェッ!!』
「ひゃいっ!?」
「ダラク様、どうされました?」
「いや……何でもない……です」
「? おかしなダラク様ですね」
今の声、姉やん? こん子、まさかな。




