間話 魔王ダラクの昔話.1
むかーしむかし、とある東の端っこの村に、双子の姉妹が居りました。
目付きは鋭いものの、とても美しい娘達。
互いが互いを支え合い、戦続きの東の地で、懸命に生きておりました。
その双子、顔や背丈は同じなのですが、それ以外は全くの真逆。
一人は、見事なまでの絶壁で、気が弱く、周りからは、お淑やかと思われている娘。
一人は、見事なまでの御山で、気が荒く、周りからは、触るな危険と言われている娘。
いつもの様に働き、いつもの様にご飯を食べ、いつもの様に、お互いを想い合う。
そんな頑張る姿を見て、村の人達も、その双子に負けじと、頑張って働きました。
笑いが絶えない毎日。
優しさで包まれた毎日。
戦が絶えないこの東の地で、それでも二人で、幸せに暮らしていました。
そんな娘達に、転機が訪れます。
村を治める、とても偉いお方が、一人の娘を娶りたいと、村長の元を訪れていました。
娘達には親が居らず、村の村長が、親代わりであった為です。
多額の金子に目が眩み、その親代わりの村長は、頷いてしまいました。
とても偉いお方が、娶りたいと言われた娘。
立派な御山を持つ、姉の方です。
勿論、その姉は断りました。
村長の顔面を殴り付け、家を破壊し、そのお偉いお方にさえ、腹ぱんをしておりました。
そのお偉いお方は、腹ぱんをされたにも関わらず、何故か喜び、その姉を部下に拘束させ、そのまま連れて行ってしまいました。
妹は、何も出来ずに、見ている事しか、出来ませんでした。
妹は、堪え切れずに、泣きだします。
倒れている村長を、踏み付けながら、何日も、何日も、泣いておりました。
気が付けば、村長は事切れておりました。
妹は決心しました。
攫われた姉を、絶対に助けると。
村長の亡骸を、最後に蹴り上げ、その妹は、村を出て行きました。
お淑やかと言われた娘はどこへやら。
姉を追う旅の中で、妹はメキメキと、力を付けていきます。
凡そ人とはかけ離れたチカラ。
その娘を見たものは、必ず死を迎える。
そしてとうとう、妹は到着しました。
姉が居るであろうお城へと。
向かって来るモノ共を蹴散らせながら、奥へ奥へと進んで行きます。
大好きな姉に会える。
あの時に、助けられずに御免なさいと、伝える事が出来る。
そう思い、城の最奥へと、足を踏込み入れました。
そこに居たのは────
妹は、その姿を見て、泣いてしまいました。
ぼろぼろになった、姉の姿。
姉の目には、色が映っておらず、手足の腱が斬られ、身体のあちこちには、裂傷の痕が残り、あの気性の荒い、姉とは思えない姿。
一時の油断。
姉に近付こうとした時、妹の胸から、一本の槍が、突き抜けました。
そして直ぐに、もう一本。
更に追加で、もう一本。
それでも、妹は倒れません。
歯を食いしばり、ゆっくり、ゆっくりと、姉に向かって、歩いて行きます。
そして、拳を握り締め、姉の顔面に向かって、その拳を振り抜きました。
力の無い一撃。
されど、想いのこもった一撃。
妹は、姉の目の前に、倒れてしまいました。
城の者達が、続々と集まって来ます。
倒れている妹に、とどめを刺すべく、ゆっくりと迫って行きます。
そして、一本の槍が、倒れている妹の胸に、突き立てられました。
城の者達は、そこで安堵したのです。
立てぬ筈の"姉"が、立っているにも関わらず、安堵してしまったのです。
その姉は、一瞬にして、その場に居た全ての者を、粉々にしました。
そして、倒れている妹に手を差し伸べ、そのチカラを行使します。
そのチカラとは、『交換』。
妹が得たスキルを取り込んで、自ら得たスキルを与える、固有のスキル。
姉は、あの一瞬で、『魔王』と成ったのです。
姉は直ぐ様、妹のスキルと、自らのスキルを交換しました。
妹のスキルは、癒す者。
姉のスキルは、獄雨。
それを交換して、直ぐに妹を癒します。
しかし、傷は塞がりましたが、肝心の心の臓が、全く動きません。
何度も、何度も、スキルを行使しますが、動き出す気配が、全く無いのです。
姉は、泣き叫びました。
私の所為だ。
私を助けようとしたからだと。
声をあげて、泣き叫びました。
そうして居ると、姉の目の前に、一人の白き翼を持つ者が、現れました。
その者は言います。
自らの心の臓を使えば、妹を助けられると。
姉は懇願しました。
妹を助けたい。
妹の為ならば、何でもすると。
白き翼を持つ者は、"笑み"を浮かべ、とある方法を、姉に教えました。
自らの心の臓を抜き取り、妹の胸に突き刺し、癒しのスキルを発動させる。
自らの空いた胸に、魔物の魔石を差し込み、癒しのスキルを発動させる。
姉は、直ぐに行動に移しました。
自らの心の臓を抉り取り、妹の胸へと突き刺し、癒しのスキルを発動させ、自らの胸には、白き翼を持つ者が渡して来た、真っ白な魔石を、差し込みました。
少ししたら、妹の胸が上下して、小さい寝息が聞こえます。
姉は喜びました。
涙を流しながら、喜びました。
白き翼を持つ者は、"笑み"を浮かべます。
姉は、少しずつ、その姿を変えていきます。
胸元から、徐々に、徐々に、先程差し込んだ魔石が、侵食していきます。
そしてとうとう、身体全てが、魔石と化して、しまいました。
妹は、目を覚ましました。
死んだ筈なのにと、自らの体を確認します。
受けた傷が一切無く、理解出来ません。
しかし、理解出来なくとも、分かる事はあります。目の前に、魔石と化した、姉が居るのですから。
その側には、白き翼を持つ者が居ました。
その者は言います。
この姉のカケラを、同じスキルを持つ者へ、取り込ませなさい。
そうすれば、貴方の姉は、帰って来ます。
そう言い残し、白き翼を持つ者は、その姿を消しました。
妹は、理解しました。
自らに宿るスキルが、消えていたから。
姉の想いを、感じるから。
姉を助ける為に来たのに、その姉に助けられ、姉をこの様な姿に、変えてしまった。
妹は、そのスキルを、解放しました。
東の地に、『魔王』として君臨する者。
悪魔族、ダラク・アトゥナ。




