間話 女王の思惑アタリとハズレ
ジアストール国と、ドルジアヌ帝国との戦。
内戦で弱っているとは言え、本来ならば、こちらに多大な被害を出していたであろう、大国との戦。
終わってみれば呆気ないモノ。
こちらの被害は、砦の兵が数百名程度。
しかもその者達は、帝国の者達に殺された訳では無く、同じ砦の兵達に、殺害されたというでは無いか。
終戦宣言と、調印式を終え、こうしてジアストールへ戻って来たのは良いが……儂が行った意味が、殆ど無かったのぅ。
「あーっ、つまらぬのぅ……ナブリルよ、お茶を持って参れぇ」
「陛下。私は文官であり、メイドでは御座いませんので、お断り致します。それよりも、宜しかったのですか?」
「……ラナと、ヘラクレスの事か?」
「左様で御座います。特にヘラクレス様は、流様のストッパー。ファンガーデンには、無くてはならない存在かと」
「そのファンガーデンに、戦力が偏り過ぎておるのじゃ。これは我が国にとって、あまり良い事では無いのじゃよ」
ヘラクレスは高レベルの戦士。
我が兄の娘、ミルン。
ドゥシャは暗部の長。
アルカディアスの化物、シャルネ。
魔龍である黒姫。
大地の精霊であるミユン。
聖女リティナ。
リティナの護衛、ニアノール。
コレだけでも、国を簡単に潰せそうであるが、あのオーガを加えた、意味の分からぬ兵達も居るのだ。
それらを纏める存在が、あの流じゃぞ?
「馬鹿みたいな戦力じゃな……」
「陛下? どうされましたか?」
「何でも無いわ。各大臣には、伝えたのだな?」
「滞り無く。ヘラクレス様が、帝国より割譲された地を整え次第、新たな辺境伯と成る事、通達致しました」
「アッパーの方はどうじゃ?」
「はい。アッパー辺境伯は降爵。伯爵家となる事、本人も御納得されております。それに加え、家督を息子に継がせるとの事に御座います」
「うむ。馬鹿をした者達の処分は、進んでおるのかの?」
「問題無く。オーグド家の爵位剥奪。砦守護の任に付いていた各貴族家及び、帝国に通じて居た者達の処分は、完了しております」
「ふむ。アッパーには、悪い事をしたのぅ」
帝国共と繋がっておる者を見つける為に、放置しておったのが、戦の所為で、裏目に出てしまったのじゃ。
「陛下。アッパー伯爵に瑕疵が無かったとは、言い切れませんので」
「分かっておるわ。彼奴は脳筋じゃからのぅ。国境を護るには、向いておらんかったわ」
「それで陛下。ラナ文官長は、いつお戻りに?」
ぬっ……今それを聞くのかこやつ。
彼奴は優秀ではあるがの。この儂に拳骨を喰らわすなど、許せる訳が無いのじゃ。
「帝国が……安定するまでじゃな」
「左様で御座いますか。ラナ文官長の御自宅に、陛下からの書状と、贈り物を持って行ったのですが……投げ捨てました」
「んっ? 儂から贈ったモノを……何て?」
「陛下からの贈り物を、地面に投げ捨て、踏み付けてから、お受取りになられました。ラナ文官長の御両親様は、陛下を許さないそうです」
「何でそうなるのじゃ!? 他国とは言え、ある意味昇格なのじゃぞ!」
「一人娘を他国に置いたまま。イコール、人質と思われても、仕方の無い事です。暗殺には御注意下さい」
しれっと怖い事言いよるの此奴。
ラナの家族が暗殺などする訳……確かラナの家の者は、金物屋であったか?
「……気を付けるのじゃ。詫び状と、なるべく早くに、ラナを戻すとしようっ」
「それが宜しいかと思われます。私も一瞬、死を覚悟しましたので」
「何が有ったのじゃ!?」
「……残念ながら、陛下にはお伝え出来ません」
「ぬぐぅっ、仕方無い。昼夜問わず、影に護って貰うしか無かろう」
「それなのですが、暗部の者達から、退職届なるモノが提出されております」
「退職届? 何ぞそれは?」
「ファンガーデンにて実施されている、雇われている者から、雇い主に送られる、一枚の書状に御座います」
雇い主に送られる書状? 感謝の言葉でも、送られて来るのか?
一体どの様なモノなのか、気になるのぅ。
「どれ、見せてみよ」
「どうぞ、こちらになります」
「ふむ、どれどれ……」
『ジアストール国代表殿
この度、御社の昼夜問わずの労働環境、及び、無理難題に耐え切れず、改善の兆しも見えない為、御社を退職致します。又、雲一同も、これに同意します。
ジアストール暗部 影一同より』
「暗部が退職できるかあああ──っ!!」
「と言う突っ込みが見れれば、多少の休暇を貰うだけで、勘弁してやるとの事です」
「儂遊ばれとるのかっ!? 儂女王じゃぞ!!」
「暗部と言えど流石に、キングマッスルホースとの並走は……無茶でしたね」
あれかっ!!
しかし儂とラナじゃけだと、何かあった時には対応出来ぬし、影ならば、問題無くイケると思ったのじゃ!!
「流が出来るならば! 影も出来るじゃろ!」
「陛下。このままですと本当に、暗部が解散してしまいますが、宜しいのですか?」
「……交代でなら、休暇を許可する」
「それが宜しいかと」
暗部の休暇なぞ、この国始まって以来の、異常事態じゃぞ?
休暇ってなんじゃ?
儂にも休暇をくれぬか?
女王じゃから、休みなぞ無いわーい!!
『ひゃっほーい! 休暇っすー!』
『疲れた身体を、温泉で癒すで御座るよ』
『黒姫様……早く帰って来てっ!!』
『陛下もこれで、少しは改善してくれるかしら?』
『改善してくれなきゃ、全員でどこか行く?』
『ミルン様の下なら、楽しそうだよね?』
『ファンガーデンに、暗部作らないのかなぁ』
『お休み沢山貰えそう……』
『でも、ドゥシャ様居るよ?』
『……陛下の下の方が、楽か?』




