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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
四章 異世界とは悪魔っ娘が居る世界

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間話 荒れ果てた地の再開発.5



 流君が、ジアストールに帰った。


 前日に、拠点となる、小さな石造りの家を作り、その日のうちに、ミルン君を連れて、行ってしまった。

 少し寂しくなるのは、仕方がなかろう。

 騒がしい者が、居なくなったのだからな。


 そして今、流君が置いて行った石材を、整理しているのだが、これが中々ハードである。



「ふんっ!! ぬぐうううっ!!」


 プピップピッ────『もう少し右なの!』


「ぬうううんっ、ぐぐぐっ!!」


 プピップピッ────『あと一歩前なの!』


「おおおおおおっ!!」


 プピップピッ────『そこっ!』


「ここであるなっ!!」────ドズンッ!!



「かはっ……石材とはっ、重いのだなっ、この私でもっ、疲れてしまうのであるっ……ふぅ」


「村長お疲れなの。あと百二十個で終わりなの」


「それは、まだまだと言う事であるな。ミユン君は、帰らなくても良いのかね?」


 流君とミルン君は帰ったのに、何故かミユン君だけは、残っておるのだ。

 それが不思議でならぬのだが。


「ミユンはまだここに居るの。村長一人だと、寂しいでしょ?」


 どうやら、見透かされておった様だな。


「感謝するのである」


「感謝は行動で示すの! お昼を下さいな!」


「むっ、もうそんな時間かね。確か拠点に、流君が食料を置いて行ったであるな。それでは、少し待っていたまえ」


「りょっ!」


 その返答をドゥシャ殿が知れば、間違い無く大目玉であるぞ、ミユン君。

 今は、私しか居らぬから、問題は無いが。


 拠点に戻り、食材を確認する。

 流君が置いて行った食材は、何と言うか、キワモノばかりである。


 オークの睾丸、オークの脳髄、ミノの逸物、コカトリスの肝と言った、貴族の夜のタフネスを上げる、特殊な食材ばかり。

 唯一まともな食材は、ミノの舌であるな。


「前は苦手であったが、食べ慣れると癖になる食感である。今日の昼はこれで良いな」


 石窯に火を付け、鉄鍋に油を少量。

 薄切りにしたミノの舌に塩を振り、さっと火を通したあと、レモモの果汁をサッと振りかけたら、完成である。


「牛さんの舌なの!」

 

「出来上がったのである。皿を取ってくれぬか」


「山盛りを希望します!」


 皿を受け取り、葉野菜を敷いて、その上に山盛りのミノ舌をのせて……酒が呑みたくなってきたのである。


「村長、パパからこれを預かってるの」


「むっ、何かねその陶器は?」


「和土国のお酒なの!」


「……呑んでも良いのかね?」


「パパからのプレゼント。村長はファンガーデンを離れるでしょ? 選別みたいなモノなの」


 離れたくは無いのだがな。

 陛下にこの地を任された以上……そうなってしまうのである。


「……有難く、頂戴するのである」


「ここが上手くいけば、ミウとメオが働きに来るの。村長専属の、貴重なメイドになるの」


 何とっ、ミウとメオが来るのであるか、

 あのモコモコした尻尾が、机仕事での唯一の癒しであったからな。


「あの二人っ……頑張らねばなっ! 先ずはご飯を、食べようでは無いか!」


「頂きます! むちゅむちゅ……コリコリの歯応えと、お野菜のシャキシャキが旨しっ!!」


「私はこの酒をっ」

 ────キュポンッ


 ほう……蓋を開けた瞬間から、酒精の香りが一気に広がるとは、相当強い酒であろうな。


「では一杯だけ。んくっ……っ!?」


 この酒っ!? 

 まさか以前城で呑んだ、清酒であるか!

 しかも、城のモノよりも遥かに旨いっ!


「……ただただ旨いとしか言えぬな」

 

「むちゅむちゅ。それが一番の褒め言葉なの。傘音技が聞いたら、大喜びなの」


「うむ。いつか私も、和土国に行きたいものであるぞ」


「領地が潤ったら、自然と向こうからお話が来るの。頑張って畑を耕すの! むちゅむちゅ」


「成程、貿易であるか」


 ジアストールがまるまる入る土地を使った、広大な畑である。これが上手くいけば、得る事の出来る作物は、規格外の量になるであろう。

 

「王都や他領に卸したとしても、有り余る量であるからな」

 

「米はファンガーデンでも作るけど、量が少ないの。米が出来たら、ファンガーデンにしっかり卸すの!」


「念押しの圧が、凄いであるぞ……」




 さて、少し帝国の話をしよう。

 帝国皇帝の長兄は、行方不明となり、その弟は半魔と成った後、公開処刑された。

 残っておるのは、皇女のケネラ様のみ。

 

 ドルジアヌ帝国の、長い歴史において、女帝が誕生する事は、さほど珍しく無い。

 護るべきは血統。

 皇帝の血を、絶やしてはならない。

 であるからして、普通であれば、『リリトア・ケネラ・リル・パネラシア』が帝位を継ぎ、『女帝』として君臨する筈なのだが……何故なのか。


「ここで何をして居られるか……モシュ殿、ケネラ皇女」


「ケネラ様見てください、もう畑がこんなに」

「あの荒地をどうやって……流石ヘラクレス様ですわ」


 うむっ! 国境を越えて不法入国であるな!

 しかも、現帝国の長であるぞ!

 はっはっはっ、驚かないである!


「邪魔するなら帰るの。岩塩で殴られたい?」


「ミユン君っ、それは不味いのである」


「何で? あの二人邪魔なの」

 ────ブンッッッ! ブンッッッ!


 その勢いで岩塩をぶつけたら、間違い無くあの二人が死ぬのである。

 終戦して直ぐ、帝国の長を撲殺。

 笑い話にもならぬわっ!?


「何しに来た?」


「ミユン君。礼節を持って話さねば、ドゥシャ殿に怒られてしまうのである」


「ごーとぅーほーむっ!」


「何を言っているのか分からぬが、礼節のカケラも感じぬぞ……」


「未来の皇帝に、『愛』に来たのですわ」

「私はケネラ様の『オマケ』です」


 私は皇帝なぞ、不可能と言っておるのに。

 このしつこさ……厄介なのである。

 

「村長には、ミウとメオがいるの」


「っ、想い人がいるのですかっ!?」

「独身と言う話ではっ!?」


「ミユン君、あの二人はメイドであるぞ。しかも幼い子供では無いか……」


「獣族のしつこさを、舐めちゃ駄目なの。狙った獲物は、絶対逃さないの」


 ミウとメオは、娘の様な者なのだがな。

 亡き妻が居れば、さぞ甘やかして、可愛がったであろうに。



「これはっ、恋のライバルという者ですか……」

「ケネラ様。ここは、(ラナ殿の様に、首都に呼び付け、寝取りましょう)」

「モシュ、(良い案ですわ)」



 丸聞こえであるな。

 帝国の首都には、行く事は無いであろう。

 襲われては堪らぬ。


「村長。十年経てば、ミウとメオにも襲われるの。逃げ場は無いの」


「……私に選択肢は?」


「無いの。ふぁーいとっ!」


「田舎でのんびり……暮らしたいのである」


 ミウ、メオ、私は信じておるぞ。

 お主達が、その様な娘で無い事を。

 信じておるぞっ!!




『ドゥシャメイド長。大変お世話になりました』

『今まで、有難うございました』


『ミウ、メオ。ヘラクレス様の下で、しっかりと御勤めを果たしなさい。メイドたる者、一切の妥協無く、主人に尽くすのですよ』


『はい! しっかり尽くします!(骨まで)』

『必ずや、村長の筋肉に埋もれます!(逃さずに)』


『……頑張りなさい』


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