間話 荒れ果てた地の再開発.4
「何これ? クソでっかいバッタ?」
「川向こうに居た虫さん?」
「うむ。明るい場所で見ると、中々気持ち悪いのであるな」
昨日に頭を潰した虫を、朝起きて直ぐ、二人に見せておるのだが、反応が薄いのである。
「もっと驚くかと思ったのだが……」
「バッタだろ? 黒くて角が無い虫以外なら、俺は大丈夫だぞ」
「この虫さん、お腹の中身が草や木なの。畑を耕したら、確実に来るの」
「そうであるか。これは、家を建てる前に、先に対処すべきであるな」
木を喰う虫なぞ、邪魔でしか無いのである。
どうにかして寄り付かぬ様にするか、それとも駆除するかであるな。
「駆除はおすすめしないの」
「ぬっ、何故であるかミユン君」
「この地の生態系の一部だから、駆除したら、もっと酷い事になるの」
「そうなのであるか? しかしこのままでは、この地に人が戻らぬぞ」
ミユン君の言葉であるからな。
間違いは無いのであろうが、このまま何もせず、住居や畑を作ると、こちらの受ける被害が、大きくなってしまうのである。
「お家は、木材じゃ無くて、石造りにするの。畑には、レモモの木を植えれば、虫さんは寄って来ないの」
「レモモの木? 有れに、その様な効果があるなど、聞いた事が無いのであるが」
「レモモの木に、少しだけミユンが手を加えれば、虫除けの木に成るの。村長に、貸しが沢山増えてく……返してね?」
うむ、ミユン君が怖いのであるがっ!?
「っ、致し方無しであるな。返せる様になったら、少しずつ返すのである」
「利子が無いだけ、有難いと思ってね? ミルンお姉ちゃんだったら……」
「分かっておる。ミルン君ならば、暴利な上に取立てが凄いと、聞いておるからな」
「ミルン、そんなんやってんのか? 消費者金融業って、結構しんどいのになぁ」
「そう言えば、パパ。何か忘れてない?」
「んっ? 忘れてるって、何が?」
そう言えば昨日、ミルン君が何か言ってたであるな。確か、『あの太陽があそこまで傾いたら、もう一回ミルンを呼ぶの!』であったか。
「流君。昨日のミルン君の言葉を、思い出すのだ」
「昨日のミルンっ、不味い……ミルン呼ぶのすっかり忘れてた!?」
「パパ。ミルンお姉ちゃんの事だから、お外でずっと待ってるの」
「ミルン呼んだら……俺、逃げて良い?」
「駄目なの」
「逃す訳が無かろう」
今流君に逃げられては、この場所の整備が進まぬし、ミルン君の怒りがこちらに向くと、正直対処が出来ぬ。
「はぁ……腹を括るか。『緑化魔法』」
ボコッ────『ギルティなのっ!!』
「ミルンさん……何で"斬撃強化"のナイフを、両手に持ってるの? 危ないから、ちゃんと仕舞いなさいな?」
「ギルティなのっ!!」
「同じ言葉しか、言っておらぬな」
「ミルンお姉ちゃんの、プチ怒りモードなの」
手に持つ斬撃強化のナイフを、擦り合わせ、尋常で無い殺気を放っておるが、あれがプチ怒りであるか?
あれはどう見ても、ガチ怒りであろう。
むっ、流君が動いたな。
ゆっくりと膝を床に付け、腰を曲げながら、額を床に擦り付けた?
「ミルンさんっ! お昼にお肉を進呈するからっ、どうか怒りを収めて下さいっ!!」
「魔神が娘に本気の土下座……」
「アレこそがパパなの。ミルンお姉ちゃんには、絶対に勝てないの」
「お父さん……ギルティなのっ!!」
「お肉うまうまなのっ!」
「むちゅむちゅ、美味っ!」
うむっ、先程の光景は、何だったのか!
肉を与えて直ぐ、機嫌を戻すとは。ミルン君はそれで良いのか?
「危なかったぁ……肉の在庫、残しといてよかったぞマジで」
「アレだけの量を、帝国の民に振る舞ったのだ。残っている事が、不思議でならぬぞ」
「あと数日分で無くなるから、一度ファンガーデンで補充するわ」
むぅ、流君は帰ってしまうのか。
となれば、今日中に拠点を作らねばな。
「それならば、ミユン君の言っていた、石造りの家を作るのである。石材を持ってはおらぬか?」
「石材は山程残ってるぞ。正直邪魔だったから、ここに放置しても良いか?」
「構わぬと言うか、有難いのである。全て使っても良いのか?」
「問題無しだ。村長の領地になるんだから、これくらいは提供するさ」
「……感謝するのである」
この流君。
会った時は、人の家に無断で押し入り、勝手に食事をしたり、寛いだりと、盗賊も真っ青な行いをしておったが、今となっては良い思い出であるな。
「パパが良い顔してるの」
「お父さんが、無料で資材をあげてるの」
「「ドゥシャに報告して、お仕置きなの!!」」
「流君、すまぬな……」
「良いさ、村長……」
ミルン君とミユン君は、どこぞの領主より、金勘定を、しっかりしておるのだな。




