間話 荒れ果てた地の再開発.3
簡易小屋を建て、周囲の状況を確認した後、夕暮れが近付いて来たので、今日はここに泊まる事にした。
その簡易小屋の中で、やたらと流君が、この地で育てろと推して来る作物。
「ふむ、これが和土国で手に入れた、"苗"であるか。これがあの、"米"になるのだな」
「そうそう。村長も一度、王都の城で食べた事あるだろ? どうせ一から畑作るなら、これ育ててみないか?」
「米であるか……ミルン君。この米とやらは、この地で育てるのに適しておるのかね?」
「うーん、雨がどれぐらい降るかなの。あの川が氾濫して、稲が水に沈んだら、せっかくのお米が台無しなの」
「雨であるか……あの川から水を引く訳であるから、水路作りもせねばならぬな」
この米と言う食べ物。
以前王城で食した際は、腹持ちが良く、中々に美味であったな。
出来ればこの地で栽培して、パンや肉に並ぶ、主食としたいのだが……こればかりは、試行錯誤であるな。
「先ずは、その苗を育てる物達が、しっかりと暮らせる環境を整えねばな。流君、話はそれからであるぞ」
「分かってるって。でも、何を育てるのかの案としては、悪く無いだろ?」
「悪くは無いが、そもそも何故米なのかね? ムギでは駄目なのか?」
「分かってて聞いてるな村長。まぁ、誤魔化す気も無いけど。この米でも、保管さえしっかりしてれば、数年間は備蓄出来る」
「矢張りか。腹持ちが良い食材が、数年分備蓄出来るともなれば、芋も併せて育てておけば、飢餓対策になるか」
「芋は遠くで育てるの。近くで育てて病気になったら、一気におじゃんなの」
作物連鎖であったか?
ファンガーデンで、流君が言っておったな。
ミユン君が住んでおる、ファンガーデンならばいざ知らず、この地では徹底して、作物の管理を行わねばならぬ。
「まぁまぁミユンさん。お米が出来たら、ファンガーデンに卸して貰うから、ここは力を貸しといて、安く買い叩こうぜ」
「と言う事なら、力を貸すの」
この二人、抜け目ないのである。
「安く卸すのは、"ファンガーデンだけ"で良いのであるな?」
「そりゃそうだろ?」
「女王には、高く売り付けるの」
「あい分かった。それであれば、ミユン君の力を、貸して欲しいのである」
ファンガーデンに安く卸したとしても、この広さの土地なのだ。ミユン君の力を借りれるのであれば、充分採算は取れるであろう。
「それなら、ミユンの管理する土地の広さで、対価のお米の価格を決めるの」
「っ、そう来たであるか……」
「村長は甘々なの。全部の土地を、ミユンが管理するのなら、寧ろ対価を要求するレベルの広さなの」
「……その対価とは、何かね?」
「取れたお米の五割を、ファンガーデンに無償提供なの。こんなの払える?」
「五割っ、無理であるな。税の事を考えれば、無償提供だと厳しいであろう」
「でしょ? 楽は出来ないの。アドバイスはサービスでしてあげるから、コツコツ頑張って、作物を育てるの」
ミユン君は、中々の策士であるな。
アドバイスはサービスであるか。
有償とも、無償とも、言っておらぬな。
「それで、アドバイス料は幾らかね?」
「どうするパパ?」
「んーっ……村長付き合い長いし、お米の為だから、お金は要らんだろ?」
「と言う事なの。村長で遊ぶと楽しいの!」
「……勘弁して欲しいのであるっ」
私は遊ばれておったのか。
そう言えば、精霊とは長き時を生きる者。
見た目に惑わされておったが、ミユン君の実際の年齢を、私は知らぬ。
「女の子に年齢は、聞いちゃ駄目だよ?」
心を読まれたっ!?
いや、私の言動や表情から、考えている事を予想したのであるな。
「……その様な事は聞かぬよ」
「んっ? ミユンってダラクより歳上じゃね?」
「パパ? しゃらっぷっ!」
ゴンッゴンッ────『むにゃむにゃ…すぅ』
「むぅっ……」
ゴンゴンッ────『があああっ…ごおおおっ…』
「ぬぅっ?」
さっきから、この変な音は何かね。
流君もミユン君も、ぐっすり寝ておるが、気になって眠れぬでは無いか。
ゴンッゴンッ────「また……」
この様な夜更けに、何なのだ?
この音の所為で目が覚めて、寝るに寝れぬ。
仕方無い、確認してみるのである。
ギイイッ────「扉の先は、異常無しか」
であるならば、裏?
魔物であれば、即潰さねばな。
足音を立てぬ様に、そっと……何だ有れは?
「あの川向こうに居た、昆虫型の魔物?」
ゴンッゴンッ────『シシャアアアアッ』
「何故小屋に、突撃しておるのだ」
ゴンッゴンッ────『(ガリッ)フシシシッ』
「ぬっ、欠けた木屑を喰っておるだとっ!?」
『シャッ!?』
しまったっ、気付かれたかっ!
小屋を削り喰う魔物なぞ、不気味過ぎて逃す訳にはいかぬぞっ。
ドンッッッ────「一気に近付いてっ、殴るのであるっ!!」
頭を狙い拳を振り抜く。
一撃必殺。『パンッ』と弾ける音と共に、昆虫型の魔物の頭を、粉々にした。
「ふむ、この一体だけであるか……」
しかし、この魔物は……魔石が無い? 魔物では無く、普通の虫なのであるか?
この様な虫など、ジアストールでは見た事が無いし、何故小屋を喰っておったのだ。
「それにしても、大き過ぎであろう。ミユン君の頭程有るぞ……」
これは、害虫対策をしっかりせねば、作物を育てる前に家が建たぬでは無いか。
『で、ミユンさんや。実際は何歳なんだ?』
『黙秘するのっ!』
『俺のお父さんと、知り合いだったから……』
『それ以上考えたらっ、シャルネを突撃させるのっ!』
『……頼むから、夜這いさせんの止めてね?』
『なら、年齢の事は言わないの。パパは失礼なの!』
『黒姫みたいに、大きくなれるのか?』
『あれは、黒姫が意味不明なの!』
『やっぱり黒姫だけなのか……黒姫と同い年?』
『あんなババアと一緒にしないでっ!!』
『黒姫さんや……ババアって、言われてるぞーい』




