間話 荒れ果てた地の再開発.1
それは、『ルルシアヌ・ジィル・ジアストール』陛下の一言から、始まった。
『ヘラクレス・ヴァントよ。御主に、帝国から割譲される地を任す。荒れた果てた地を、見事復興させよ』
ジアストール国の新たな領土。
その広大な地を、ただ一人の男に任された。
それは有り得ない行いであり、陛下の頭がどうかしたのかと、疑う程だ。
「町や村が……無いでは無いか」
陛下の命を受け、新たな領土となる地を見て回っておるが、廃墟だらけでどうにもならぬ。
畑も荒らされ、矢や鎧が散乱し、正直このままファンガーデンに帰りたい。
しかし、それを行えば、陛下への反逆罪で、下手をすれば首が飛ぶのである。
「先ずは拠点作りからだろ?」
「……何故流君が居るのかね」
「えっ……皆んな根っこで送った後に、のんびり帰ろうと思って走ってたら、村長見かけたから来たんだけど?」
「……本音を吐きたまえ」
「今帰ったら、ミルンとミユンに監禁されて、寝床にドゥシャさんとシャルネが準備万端!って成りそうだから、寄り道中だぞ」
この流君は、会った時と変わらぬな。
良い歳であろうに、身を固めず、自由気ままに生きておる。
しかし、一切音を立てず近付くとは、一体どの様な走り方なのだ。
「……気にしも仕方無いな。来たのならば、是非とも手伝って欲しいのである」
「あいよーっと、地図無いのか? と言うか、何で村長だけなんだ?」
「地図はここに有る。あと、他の者なぞ居らぬであるな。人員は状況を見てからと、断ったのだ。移動には邪魔であるしな」
「ふーん。どれどれ、新しい領土は……ルシィ馬鹿じゃね? 広過ぎだろこんなんっ!?」
流君でも驚くのだな。
まぁ驚くのも無理はないのである。
割譲された地は、帝国国土の十分の一であり、ジアストール国がスッポリ入る程の、広さであるからな。
「こんなん命令されたら、俺ならその場でルシィ泣かすぞ。良く引き受けたな村長……」
「所詮は国に仕える身であるよ。陛下の命に、背く訳にはいかぬのでな」
「そんなんだから、無茶振りされんだぞ。偶にはルシィの頭に、拳骨してやれっての」
「……普通に死罪になるのである」
あの陛下に拳骨を落とせるのは、流君の様な者だけであろうな。
「取り敢えず、川の近くに拠点構えて、その周辺の調査と開墾。それと並行して、新たな都市を作る為の資材調達だな」
「流石、ファンガーデンを考えただけあるな。少しだけ見直したのであるぞ」
「……帰っちゃうぞ?」
「それは困るな。流君が居れば、資材運搬の人員も不要であるし、効率が良いのである」
あの不可思議なスキルであれば、鉱山や森からの資材調達、運搬等が、流君一人で済むからな。来たからには、手伝って貰わねば。
「見返りは、その取った資源の二割だぞ?」
「馬鹿にするで無い。幾ら取ったかも判断出来ぬのに、二割で済む訳が無かろう。こちらの作業に支障が無いのなら、好きにしたら良い」
「そりゃ太っ腹な事だな。そんじゃ、拠点の場所決めて、ミユンだけでも呼んどくか」
「ミルン君は良いのかね?」
「……だよなぁ。二人共呼ぶか」
流君も、少しは苦労している様だな。
ジアストールと帝国の元国境から、北東に、マッスルホースで二週間程進んだ場所。
大きめの河川が流れており、丁度良い高さの高台も有る、好立地な廃墟に到着した。
廃墟の理由であるか?
あの砦に攻めて来ておった、グールの進路上にあったと言えば、理解出来るであろう。
「ほいっと『緑化魔法っ!』」
ボコッ────『ミルンのおにぐぅ!?』
ボコッ────『もちゅもちゅ……?』
これは、呼び出した時間が、悪かったのでは無いであろうか?
ミルン君の片手には、肉の切れ端が刺さったフォークと、ミユン君は、何かを頬張っているでは無いか。
「おにぐが消えたの!? ここどこ!?」
「もちゅもちゅ……パパなの!?」
「あー、飯時だったか。食べてる最中に、呼び出してすまん。外で食べてたのか?」
「ドゥシャと外でバーベキュー中なの! 早く帰して下さい! お肉が無くなるの!!」
「ミユンはお腹いっぱいなの。何か用があるなら、ミユンだけ残るの」
ふむ。仕方無いのであるな。
ミルン君が居れば、上手く流君のストッパーになってくれたのだが。残念である。
「お父さん! あの太陽があそこまで傾いたら、もう一回ミルンを呼ぶの! だから早く館に帰して下さいな!」
「分かった分かった。それじゃあ、また呼び出すから、宜しくな。『緑化魔法』っと」
『必ず呼ぶのっ』────ズボンッ!
「毎度思うのだが、中々アレな絵面であるな」
穴の中に、引き摺り込まれる子供という、何とも形容し難い不思議現象。
側から見たら、魔物に襲われ、地中に引き摺り込まれている様にしか、見えぬであろうな。
「それは、このスキル使ってる俺でも思うわ」
「村長、パパ、ここで何するの?」
「来て貰って済まぬなミユン君。ここに新たな拠点を作るのだが、あの場所一帯で、作物が作れぬか、確認して貰いたいのだ」
「んーっ、村長の頼みなら仕方無いの。これはお高い貸し一つなの」
「ミユン君、感謝する」
流石であるな。
何を要求するのでも無く、"貸し"とする事によって、後々の利益を取りに来るとは……流君の娘なだけある。
「そんじゃあ俺は、一旦この廃墟を更地にするわ。瓦礫やら何やらと、邪魔過ぎるだろ?」
「頼むのである。私は念の為、川の状況を調べておこう」
「その方が良いな。人や魚の死骸とか有ったら、場所を考え直さにゃならないし」
「汚染であるな。分かっておる」
戦の爪跡が残る地を、どの様に再建するか。
これはある意味、挑戦であるな。




