間話 貧乏籤を引いた者達
お父さん、お母さん、お元気でしょうか。
私は今、帝国の首都サハロブで、何故か出向行政官として、働いています。
門兵の下っ端だった私が、今や陛下の腹心となり、部下を持ち、あとは幸せな結婚だけ。
そう思っていました。
そう思っていたんです。
はい。帝国の馬鹿が、ジアストールの領地に攻め込んで来て、戦が始まりした。
頭が痛くなりました。
陛下自ら、王都の軍を率いて砦まで向かい、愚か者共を叩きのめすと、やる気満々なのですから。
兵達を招集し、食糧を積み込み、それこそ異常な速さで出陣しました。
陛下がファンガーデンの軍を見て、その迅速な行動に悔しがり、感化されてしまった所為ですね。
正直良い迷惑です。
道中、あの流さんとお会いしましたが、あの人?も、陛下に並ぶ異常者です。
何故マッスルホースと並走出来るのか。
意味が分かりません。
しかも、陛下と話をした後に、我々を置き去りにして、一瞬で遥か先まで爆走ですよ。
異常者だらけのジアストールです。
しかし、その異常が、日常なのでしょう。
二月半かけて、北の砦に来てみれば、おかしな事だらけでしたから。
傷を受けたと聞いていた、アッパー辺境伯が、獣族達に混ざって、砦の補修作業をしていたのです。
しかも、ファンガーデンの兵達の指示に、従いながらですよ? 一兵士に従う、辺境伯とは?
後から聞いた話では、少しでも体力を回復させる為に、アッパー辺境伯自らお願いして、従っていたとの事。
アッパー辺境伯も、ファンガーデン色に、染まったのでしょう。そう納得する事にしました。
それから半年が経ち、砦の補修が完了して、いざ帝国へ攻め入らんと会議をしていると、流さんより伝令が来ました。
『戦終わったから、ルシィ連れて、首都までさっさと来い。早く来ないと、帝国に移住しちゃうかもねっ! 小々波流より、愛を込めて』
その文の何処に、愛があったのか。
陛下は暗部を呼び出し、私の首根っこを掴み、キングマッスルホースに飛び乗って、鬼の様相で、帝国の首都まで駆け抜けました。
寝るのは三日に一回。
お手洗いは……書きたくありません。
食事は、キングマッスルホースの上で、激しく揺られながら食べる。
周りには、黒外套の暗部の集団。
今から帝国に、突撃かます訳では、無いですよね?
四ヶ月半かかる行程を、三月まで短縮できました。
わーいわーい。
その時だけは、笑顔を浮かべ、力を込めて、陛下の頭に拳骨を落としました。
暗部達も、サムズアップしてましたね。
それが間違いだったのでしょう。
首都サハロブに到着するなり、陛下と、帝国の皇女の間で、終戦宣言がなされ、調印式が執り行われました。
『帝国領土の一部を、ジアストールに割譲する』
『国宝を数点、ジアストールに進呈する』
『物の輸出入の税を、五年間免除とする』
『出向行政官として、ラナ・セルブ・ヴァリオルを、着任させる』
ジアストール側の勝利ですね。
陛下は何も、していませんが。
しかも、最後の文面。
私に何の相談も無く、知らない間に、出向行政官ですよ?
しかも、私に家名何て無かったのに、勝手に家名を決められて、『はい着任!!』
誰ですか? ラナ・セルブ・ヴァリオルって?
はい私です。
流さんには、貞操帯さんって、言われてましたね。
門兵だと、アレが無いと襲われますから。
男だらけでしたし。
そんなこんなで、帝国の民達の為に、こうして粉骨砕身働いて居るのですが、兎に角量が膨大なんです。
帝国の領土は、ジアストールの十倍以上。
と言う事は、仕事量も十倍以上。
帝国の文官達は、軒並みあの世に旅立った様なので、生き残っていた地方の文化を掻き集め、少しずつ復興を、前に進めています。
ファンガーデンの兵達は、知らない間に消えていました。
流さんも、『じゃっ、あと宜しくー』とだけ言うと、そのまま外に行かれました。
はい、丸投げですね。
しかし、陛下も流さんも帰りましたが、一人だけ残らされている方が居ます。ファンガーデンの表の代表である、ヘラクレス・ヴァント様ですね。
本人は、『ミウとメオが待っているのである!』と、帰る事を切望していましたが、陛下からの命と、皇女からの要望で、『割譲される地を治める、領主』とされた様です。
ご愁傷様です。
その割譲された地が、辺境となる訳ですから、仕事量は、私の比では御座いません。
今頃は、割譲された地で、あれやこれやと頑張っているのでしょう。もしかしたら、流さん達が手伝っているのかも知れません。
こちらの方も、手伝って欲しいモノです。
お父さん、お母さん。
アレやコレやと愚痴を書きましたが、私は元気に働いています。
落ち着いたら、また手紙を書きます。
ラナ・セルブより。
追伸、陛下からの贈り物が届いたら、一度床に投げ捨ててから、貰って下さい。
貧乏籤を引かされた二名
戦で荒れ果てた新領地の開拓。
ヘラクレス・ヴァント
戦後処理出向行政官
ラナ・セルブ・ヴァリオル




