不完全燃焼の終わり方
ドルジアヌ帝国の首都、サハロブに到着するのに要した時は、凡そ六ヶ月。
国境から、少数精鋭で出発したのにもかかわらず、それ程の月日がかかってしまった。
途中の町や村などで、亡くなった者の埋葬や、野良グールの対応に追われて、進行速度が上がらなかった所為である。
これがもし、大部隊で移動していたら、更に時間を要しただろう。
そして現在、エグル宮殿とやらを調査中。
門は無かったのかって?
痩せ細った帝国兵が、何の抵抗もせず、すんなり開門しやがったぞ?
首都だけあって、ぱっと見は小綺麗な町並みだったけど、ふと裏通りを覗くと、腐臭漂う死体の山。
リティナ曰く、餓死者が多いらしい。
内戦ばっかりバカスカしてたから、食料難に陥り、首都ですらこの有様。
正しく、不毛な争いってやつだ。
何も生み出さず、何も得るモノも無く、ただ消費するだけの、愚かな争い。
「一番の被害者は、巻き込まれた国民だな」
その愚か者を潰しに来たんだけど、どこを探しても、見つからない。
姫さんが教えてくれた、最奥の隠し部屋に、生活していたであろう痕跡はあったが、朕野郎の姿が見当たらなかった。
「んで、死体はコレ一つだけと。誰だこいつ?」
「知らぬな。ケネラ皇女よ、この者に見覚えは無いかね?」
「……御座います。この者の名は、アルバリル。アルバリル・モノ。北の魔王の、一人ですわ」
この死体が魔王?
北の魔王って、確か二体居るんだよな。
あのオカマは、汚い花火にしたから良しとして、最後の一人が……こいつ?
「何で魔王が死んでんだよ……」
「ここで何か有ったのであるか。争った痕跡も無く、ただ死んでおるなど……異常であるな」
異常過ぎるんだよなぁ。
あの朕野郎も、まだ見つかって無いし。
アレスさんとマロンが、血眼になって、宮殿内を探してるけど、この感じだと……。
キュッキュッ────『朕朕どこなのーっ!』
キュッキュッ────『あっち探すのっ!』
ここの石畳、グリップ効き過ぎだな。
ミルンとミユンの革靴が、スポーツシューズみたいに音だしてるじゃん。
「あの朕野郎、国放置して逃げやがったな」
「逃げる場所など有るのかね?」
「帝国は広いんだろ? 何処ぞで隠れて、何かしようと企んでるとか?」
「兵も居らぬのにか?」
ぐっ……だよなぁ。
魔王も消えて、動かす兵は居らず、帝国自体がいつ終わってもおかしく無い中で、何が出来んだよって話か。
『何処だあああ──っ!! サハロブ・アヒージャ・ノゾ・ルプマンティ──っ!!』
『天使様! 彼方を探しましょうっ!』
アレスさんガチで怖いな。
マロンも物騒なモノ付けて、見つけたら本気で殺る気満々じゃん。
キュッキュッ────『お父さーん! どこ探しても、朕朕居ないのー!』
キュッキュッ────『パパーっ! ミルンお姉ちゃんの言葉が汚いのーっ!』
やっぱ、見つから無いか。
これはアレだ。
物凄く嫌な、後の読め無い終わり方だ。
「こんだけ探しても、見つから無いんだ。これ以上は、時間の無駄だな」
「うむ。国境に伝令を送り、ケネラ皇女との会談でもって、終戦とすべきであろう。ケネラ皇女も、それで良いであろうか?」
「勿論で御座います。何卒、我が帝国に、御助力賜りますこと、伏してお願い申し上げます」
「だってさ村長」
「流君の方が、私より上位者であるからな。絶対に逃がさぬぞ?」
おぉーっ、村長が切り返し上手くなってる。
ちょっとだけ感動もんだ。
「んじゃ、ルシィ来るまでに、少しは明るくしとこうかね。姫さんとお付きの人も手伝え」
「何をなさるのですか?」
「勿論、お手伝い致しますが」
この首都を、多少マシにする。
今この都市に、最低限必要な事は何か。
「五十名の隊員全員で、炊き出しの準備をする。材料は、『空間収納』っと。山程あるから、多少は持つだろ?」
────ズゴオオオオオンッッッ!!
あっ、肉や魚で、部屋埋まった。
まぁ冷えた場所だし、ここなら良い感じで、長持ちするだろ。
「流君……何故ここで出すのかねっ!?」
「「おお……神よっ」」
「また姫さんとお付きの人が……それされんの嫌だって言ってんのに。地味に怖いんだよ」
「お肉がいっぱいなの!?」
「パパ何するの?」
「丁度良いところに。ミルン! ミユン! 宮殿内の隊員を宮殿前に集めて、救護所の設営と、炊き出しの準備を頼む!」
「かしこまっ!」
「りょっ!」
「えっ、今二人共端折った?」
別に良いんだけど、ドゥシャさんの前でそれやったら、多分物凄く怒られるぞ。
気を付けてくれよ、二人共。
『姿を現せえええ──っ!! サハロブ・アヒージャ・ノゾ・ルプマンティ──っ!!』
『天使様! 彼方を探しましょうっ!』
それじゃあ俺は、あの二人をどうにかして、全力で止め無いとね。
あの感じ……止まるのだろうか。




