悪と断ずる事なかれ
矢張り空は気持ち良いのぅ。
遮るモノが無く、ただ思うがままに、真っ直ぐに進む事が出来る。
「星々も、一層近く見えるのじゃぁ」
玩具を蹴って、それを追いかけ、また蹴って。この様な遊びは、壊れ難い玩具があるからであろうの。
「……もう叫ばぬかや?」
ボゴォッ────『っっっかぁっ』
血反吐も出ぬ程、搾り尽くしたかのぅ。
両腕から、血も噴き出しておらぬし、いつ死んでもおかしく無いのじゃ。
「和土国に、入ったばかりじゃと言うのに。今死なれては、困るのじゃ」
ドズンッ────『っっっっはっ』
よしよし、まだ息はしておるの。
ここからじゃと……狙えるじゃろうか?
「ダラクや。今から、御主の住処に蹴り飛ばす故、上手く耐えてみせよ」
神級魔法────『ジャイアント・ブロウ』
神級魔法────『カインドネス・ブロウ』
二つの神級魔法を展開して、鱗に覆われた右脚に練り込んでいく。
地上でこの魔法を使っていたなら、たった一踏みで、帝国領土が割れていたであろう。
「光栄に思うが良いぞ。神をも穿つこの一撃、受けるのは御主で二人目じゃっ!!」
黒姫オリジナルの、名も無き魔法。
その魔法を宿した右脚が、音を置き去りにする速さでもって、ダラクの腹部に突き刺さる。
────ボシュッッッ────────
「ははっ、もう見えなくなりおったのじゃ。うむうむ、七割程なら、こんなものかのぅ」
さてと、狙い通りに当たったかの?
ダラクの奴も、生きて居れば良いのじゃが。
「ふむ、ここかや?」
和土国の最東端に在る、小さな砦。
その小さな砦の中央には、巨大な穴が穿たれ、その周囲には、リティナやアトゥナと良く似た者達が、忙しなく動いている。
「……リティナだらけ、アトゥナだらけ……」
正直少しだけ気持ち悪い。
違うのじゃ。
本気で気持ち悪いのじゃ。
同じ顔が……いち、に、さん、無理じゃ。数えると、頭がどうにか成りそうなのじゃ。
ゆっくりと、穴の中へ降りて行く。
何やら怒鳴り声が向けられたが、その怒りはダラクにこそ向けるべきじゃな。
「手を出す相手を、間違えたのじゃ……あそこが底かや」
静かに足を付け周囲を確認。
岩をくり抜いた、見事な作りとなっており、その中央に────銀色に輝く、人型の魔石が佇んでいた。
「くくっ、くはははははっ! 見事っ! 見事ではないかダラクやっ!」
人型の魔石の側に、上半身のみと成ったダラクがいた。呼吸も浅く、今にも死にそうな身でありながら、力強い眼差しを向けてくる。
「力を振り絞ってかや? よもや、この魔石にぶつからず、御主も生きておるとはなぁ」
「や……ろ」
「止めろと申すか? そちらが手を出して来なければ、アトゥナを傷付けねば、この様な事にはならなかったのじゃがな?」
「………ぃっ」
「謝られても困るのぉ。この様なモノが有る限り、御主は諦めぬじゃろ?」
人型の魔石に触れ、ゆっくりと内部を確認。
少しだけ肩をすくめた。
「……これはただの抜け殻なのじゃ。力だけは残っておるが、大半がアトゥナに渡ったのぅ。ふう……馬鹿らしいっ!!」
軽く力を込め────パッアアアンッ!!
人型の魔石を、粉々に砕いた。
「ぁ……ぁぁぁぁぁっ…」
「御主の姉はここに居らぬわっ! それすらも分からずに、我等に牙を向けるなぞっ、この馬鹿者がっ!!」
恐らく、リティナとアトゥナの母に意思を宿し、戻る事無く、そのまま亡くなったのじゃろうて。
コンッ────『ダラク様から離れろっ!』
ぬっ、何じゃ……石ころ?
コンッ────『ダラク様に何をした!』
この者らは、悪魔族の子かや?
リティナとアトゥナを縮めたかの様な、物凄く生意気そうな童なのじゃ。
『皆んなーっ! ダラク様がっ、早く来てくれえええっ!』
『くそっ、何だこれは、ダラク様!?』
『貴様がやったのかっ、像がっ、無い……?』
何やら面倒になってきたのぅ。
このダラク、何気に良い統治しとるのかや?
このままここに居ると、リティナとアトゥナの集団に囲まれるのじゃ。
「ダラクよ、御主の姉はもう居らぬ」
「…………っ」
「この者達に免じて、命だけは助けてやるのじゃ。二度と、リティナやアトゥナに手を出すのでないぞ。姉の娘なのじゃろ……馬鹿者っ」
『ダラク様から離れろっ、このっ!』
我、悪者になってるのかや?
小娘が的確に、ローキックを入れてくるのじゃけど……とんだ貧乏くじなのじゃ。
これはアレじゃな。東の国々を観光して、のんびり帰るとするかや。
「小娘、ダラクにコレを飲ませよ。ある程度まで、身体が再生するじゃろうよ」
『何だよっ、こんな物っ────』
「割ったらダラクは死ぬのじゃ」
『っ……治るのか…糞っ、ダラク様!!』
さてっ、瓦礫に紛れて帰るのぢゃぁ。
このサイズなら、小回りが効いて、見つかり難いぢゃろうて。
『っ、あの者は何処へ行った!?』
『ダラク様を安全な場所へ! 急げーっ!』
『探せ! ダラク様の敵であるぞ!!』
「のーぢゃぁ。久々にスッキリしたのぢゃぁ。どこから帰ろうかのぅ……和土国で、酒でも呑んで帰るとするのぢゃぁ」
ミルンとミユンも居らぬし、影も居らぬから、ツケとやらで呑み放題出来るのぢゃぁ。
和土国に到着後の黒姫
「のっ…のぢゃああああああっ!?」
一軒目、『黒姫様お断り』
二軒目、『ぷにっと黒姫お断り』
三軒目、『駄龍黒姫お断り』
四軒目、『龍出禁』
五軒目、『この顔見たら、傘音技まで』
六軒目、『黒姫見つけ次第、尻を刺せ』
七軒目、『黒姫様は甘酒なら許可』
八軒目、『呑んだ瞬間影送り』
『他店も守るべし。ミルンより、怒りを込めて』




