魔龍の怒り
ミルンがダラクを殴って、影二人と離れた事を確認した後、転がって行くダラクを足で止めて、少ぉし遊んでおるのじゃ。
「あっ、ほい」
ドゴォッ────『げぱぁっ!?』
「のーじゃっと」
メキィッ────『がっはっ!?』
「そりゃっ!」
ピキキッ────『ぎゃあああっ!?』
ふむっ、玉蹴りとは違って、そこそこの力で遊んでも良いからのぅ。
これは中々どおして、楽しいものじゃ。
衝撃波が地面を抉っておるが、ミルン達ならば大丈夫であろうて。
「ほれほれダラク。飛ばねばこのまま、死んでしまうぞえ」
ドンッッッ────『ぎいいいいいっ!!』
「そうであったのぉ。御主は翼無き魔王。蹴り上げれば、落ちるしか脳が無い、ただの蹴り玉よなぁ」
ドチュッッッ────『ああああああっ!?』
おやおや。
残った片腕が千切れおったわ。
これでは、我の蹴りを防ごうとしても、残った脚だけでは、どうにもならぬの。
「アトゥナにした仕打ちを考えれば、まだまだその程度、不足過ぎるのじゃ」
────────ドチャッ!!
柔い地面では、面白味がないのぅ。
せっかく高く蹴り上げても、綺麗に脳髄をぶち撒けぬのじゃ。
「ぎぃっ、なんっ、何で…やっ!」
「ほぉ……まだ喋れるかや?」
「何っで! 姉っ、やんっ!」
ふむふむ。
アトゥナに魔石のカケラを呑ませたのに、何故アトゥナが無事なのか?
そう言う疑問かや?
「ダラク御主、哀れじゃのぅ。あの様なカケラ如きでは、どう足掻いても、姉は戻らぬと言うのに」
「っ、何…言うて……」
「我は黒姫。長き時を生きる、最古にして、最強の龍であるぞ? 蓄えておる知識も、貴様の比ではないわ」
「うっ…そや、嘘やっっっ…」
此奴を、このダラクを、少しでも苦しめる方法を考えておったが……矢張りコレかのぅ?
「ほっと!(ポンッ)黒姫の──っ、簡単魔法講座なのぢゃ! 今の姿でも、御主を瞬殺出来るからしてっ、最後まで聞くのぢゃぁ」
「ぐっぅうううっっっ(ギギギッ)」
歯軋りが凄いのぢゃぁ。
歯茎から血が出ておるが、しっかりケアせぬと、入れ歯生活になるぞや?
「さて、先ずは結論から。御主の姉は、どう足掻いでも、戻る事は無いのぢゃ。そもそも、魔石化を発動した場所が、悪かったのぅ」
魔石化の欠点。
必ず密閉空間でそれを行う事。
意識を移す為には、カケラも残さず、塵も残さずに、魔石化した全てを、取り込ませなければならない事。
「御主の事ぢゃ。保護した悪魔族達に、その魔石化した姉を見せる為、開けた場所においとるのぢゃろ?」
「っ────」
「沈黙は、是也ぢゃなぁ」
悪魔族の特徴。
白の髪に、青の瞳の褐色肌。
それは良いのぢゃ。
しかし、リティナ、アトゥナ、ダラク、他の悪魔族達等、容姿までもが似過ぎておる。
「風に乗った魔石の粉が、拡がっていったのぢゃろうなぁ」
意識やスキルまでは移らぬものの、容姿などの因子を、取り込んだのであろうて。
「目付きの悪い、貧乳娘の出来上がりなのぢゃ」
では何故、この魔王ダラクは、リティナとアトゥナを姉の娘と言ったのか?
ダラクの姉は、数百年前に魔石化しておるから、どう考えても可笑しいのぢゃ。
「奇跡と言うのかのぅ。力は戻らんかったが、少しの記憶を、引き継いだ者がおったのぢゃな」
その者が、リティナとアトゥナの母。
リティナは、先祖返りとでも言うのか、治癒のスキルを持ち、悪魔族固有のスキルも持った、特殊な例なのぢゃ。
アトゥナは逆に、悪魔族固有のスキルも持たず、何も持たぬままに産まれた、これも特殊な一例ぢゃな。
「御主の姉が、何故魔石化なぞと言った、禁忌に手を染めたのかまでは分からぬが、自らの子を贄として、戻りたいなどと思うかや?」
「うるっ、さいっ……」
「詰まるところ、御主が勝手に暴走して、馬鹿な事をしているだけ。と言う事になるのぢゃ」
「うるさいねんっ」
「御主の姉も、浮かばれぬのぅ。この様な愚か者の所為で、娘が魔王に変質したのぢゃから」
「っ、うるさいんじゃああああ──っ!!」
ほぉ……まだ立てるのかや。
いつもの我なら、その戦意に敬意を表し、命ぐらいは助けるのぢゃがなぁ。
「今回は許さぬよ? 確か和土国に、御主の住処が有るのぢゃったなぁ」
「何をっ、する気やっ……」
「いや何。御主の望みを、粉々にしようかと思っての?」
「はっははっ…場所も知らんとっ、何言っとんねん」
「馬鹿ぢゃなぁ、御主。我の本気の知覚は、流の比では無いのじゃぞ?」
ドズンッ────『ごあああ──っ!?』
「高く飛んだのぉ。さてとっ、一緒に空の旅でも、楽しむのじゃっ!!」
高く上がったダラク目掛け、飛び上がり、そのままダラクの横腹を蹴り飛ばす。
グジュッ────『ゲボはっっっ!?』
「ダラクや、目的地まで、死ぬで無いぞ?」
黒姫のガチ怒メニュー
① 肉体的に、徹底して潰す。
② 精神的に追い詰め、更に殴る。
③ 相手の大事なモノを、粉々に潰す。




