無知のダラク
「っ、全員アレを止めるのじゃ!?」
何故彼奴がアレを知っておるのじゃっ!?
アレは禁忌中の禁忌っ!
神の中でもっ、高位の存在しか知らぬ筈じゃぞ!
「姉やんのカケラ、器に入れたらどうなると思う?」
『────っんく』
「ええ夜やで、姉やん」
「くっ、アトゥナを上手く盾にしおってっ!」
『あっ』
「アトゥナっ!」
『ああっ』
「ミルン離れよっ! 巻き込まれるのじゃ!」
『あああっ』
「っ、ミルン御嬢様、御免っ!」
「離すの影!? アトゥナが!」
『あああああああああああああああああああああああああああ────っ!?』
「これはやばいっす!?」
神域魔法────『腐樹泥落』
「ここでその魔法を放つかやっ!?」
寝惚けて放つ魔法としてはっ、最悪じゃぞこの馬鹿者がっ!?
「ダークネスオブディストラクション!!」
「黒姫っ! だめええええっ!」
「伏せるで御座るっ!?」
「逃げ場ないっすよおおおおおおおっ!?」
『腐樹泥落』────魔法の範囲に存在するモノ全てを腐らせ、大地へと引き摺り込んでいく、広範囲殲滅魔法。
その魔法の発動間際、黒き炎がその魔法を包み込み、一瞬にして燃やし尽くした。
その余波がダラクとアトゥナを襲い、砂埃と共に、衝撃波を撒き散らす。
「黒姫さん何やってんすか! 危ないっすよ!」
「範囲は固定しているのじゃ! 気を抜くで無いぞ影!」
視界を覆う砂埃が、ゆっくりと散っていき、そこには────何事も無かったかの様に、平然と立っているアトゥナと、衝撃を受け、ぼろぼろになったダラクが居た。
「アトゥナの傷が癒えておる……再生スキルを持っておるかや……」
「アトゥナ! 無事だったの!」
「下手に動くで無いぞミルン! 今刺激すればっ、また魔法を使われるのじゃ!」
「この威圧っ、魔王で御座るか…」
本来、魔物しか宿すことが無いとされるモノ、魔石。
魔物が魔物である為の、力の根源であり、身体を動かす為の、心臓でもある。
人種、獣族、他種族共に、それを宿す者は限られており、俗に言う半魔と言われるモノ達しか、確認されていない。
魔神である流ですら、魔石を有さない。
しかし、方法は無くは無い。
禁忌魔法『魔石化』────自らの全てを魔石と化し、それを取り込んだモノに、自らを移す。神域でも禁忌とされる魔法。
「悪魔族が、全員似ておる訳じゃな。愚かな事をしたもんじゃ」
「アトゥナ…何か見た目が変わってるの」
今し方、ダラクがアトゥナに呑ませたモノ。
恐らくは、魔石化した者のカケラ。
しかし、カケラだけじゃと……全ての力、意識の移動は、出来ない筈じゃが。
「ボソッ(ミルン。我が合図したら、アトゥナを担いで、この場から離脱なのじゃ)」
「ボソッ(アトゥナどうしたの。さっき魔法発動しようとしてたけど、近付いて良いの?)」
「ボソッ(アレはただのお漏らしじゃ。流も時々、寝起きで豪炎使おうとするじゃろ。あれと同じなのじゃっ)」
「ボソッ(アトゥナがお漏らしなのっ!?)」
「ボソッ(えっ…今のがお漏らしっすか!?)」
「ボソッ(普通に死ぬで御座るよ?)」
「何ごちゃごちゃ言うとるんや。カケラと言えども、魔王のカケラ。これなら、姉やんの意識ぐらいは、戻るやろぉ……」
半端な知識で、この魔法を使いおったのか。
矢張り、愚かとしか言えぬよ、ダラク。
「ダラク。矢張りお主は、その魔法の全てを、知らぬようじゃな」
「なんやっ、どういう事や」
一体誰が、どうやって、どう言った理由でこの魔法を教えたのか知らぬが、この魔法には、大きな欠点があるのじゃ。
「……うぇ? 何…何これ?」
「姉やん、起きたんかっ……ウチや、ウチの事分かるか、姉やん?」
「えっ、姉やん? 手脚治ってるし、顔が痛く無い? えっ?」
「姉……やん?」
意識が戻った────『今じゃっ!!』
影二人が、呆然と立ったままのアトゥナに肉薄し、両脇を抱えて逃走。
ミルンは、ダラクの眼前に一瞬で移動して、拳を握り、ダラクの顔面に向かって、全力パンチ!! を撃ち込んだ後、尻尾を振って逃走。
ダラクは────『ぶふっ!?』
油断していたのだろう。
ミルンの全力パンチを、何の防御も無しに顔面で受け、そのまま転がって行く。
「ダラクや。禁忌に手を出し、アトゥナを変質させた罪。御主は、我の手で消してやるのじゃ……」
アトゥナの救出に成功!!
影二人がアトゥナを運ぶ中、ミルンのお目々は、アトゥナのとある場所ばかり見詰めている!!
アトゥナは一体、どの様な姿に成っているのか!
ミルンの視線の意味するところは?




