ヤバい奴らの大追跡.2
死ぬかと思うた。
ほんまに死ぬか思うたわ。
後少し、森から出るのが遅うたら、アトゥナ諸共あの魔法に巻き込まれ、そのまま消滅しとったわ。
「何やさっきの黒い渦……あんなん受けたら、姉やんで、もただでは済まへんで」
何某らの魔法や思うけど、あんな魔法見た事無い……まさか神級魔法っ!?
「有り得へん、とら言われへんなぁ。間違い無く、追っ手の誰かが放ったやろうし。アトゥナ殺す気ちゃうやろな」
こん子は仲間や無いんか?
あの化物の男、一体何考えとるんや?
「っ、今は余計な事考えとる場合ちゃうな。この短い時で、追って来るの早過ぎやろっ」
こっちはアトゥナを担いどるかならぁ、移動に注意を払わなあかんのや。
けど……森から抜ければこっちのもんや。
「何とか帰って……こんアトゥナに呑ませる事が出来れば……っ」
「んぁ…何か揺れて…」
起きおったっ、このタイミングでか!?
「何だ…っ!? この糞っ! 離しやがれ!!」
「じゃかましい!! 大人しくしとれ!!」
「誰がっ、大人しくするか!」────ブシッ!
「痛っ!?」
あかんっ、離してもうたっ!?
ズシャアアアッ────「ぐぅうううっ!」
馬鹿かアトゥナ、ウチ走っとんのやで。
上手く頭を護って転がった様やけど、下手したら死ぬやんけ。
「まさか武器隠しとったとはなぁ……魔王のウチに、傷を付ける程の技もんかいな」
「へへへっ…特別製らしいぞっ…」
「っ、嘘やろ……何で今ので動けんねん」
「ぐぅ…っと。過保護な、メイド長からっ、この服貰ったからな。流石に痛いけどっ、俺は動けるぞ」
手に持つナイフ…アレがウチに傷を付けた?
あんな軟そうなモンでか?
妙な構え方しとるけど、中々どおして、様になっとるやんけ。
「せやけどそんなんで、どうにかなると思てんのか? 大人しゅうすれば、痛い思いせんで済むで?」
「思ってる訳無いだろ。でも……こう言う時は、全力で抗えって、言われてるもんでね」
「……しゃあないな。急いどるし、二度と逆らわれへん様、半殺しにして、連れてくわ」
◇ ◇ ◇
「──っ、臭いが近いのっ!」
黒姫の魔法のおかげで、森が開けて、臭いに向かって真っ直ぐ行けるの!
「くははっ、我の考えた通りなのじゃ」
「黒姫、嘘は良く無いの。嘘吐きは泥棒の始まりって、お父さんが言ってたの」
「嘘も方便と、流は言ってたぞえ?」
お父さんはアレなの。
その場のノリでペラペラ喋る、お口達者な駄目人間なの。
「早くドゥシャと、結婚させなきゃ……」
「怖い娘が居ると、彼奴も大変じゃのぅ」
「ミルンは優しいの。優しくなかったら今頃、お父さんの玉は半分なの」
潰しちゃったら、弟か妹が出来ないから、今は潰さず我慢してます。
出来た後なら、しっかり潰すの。
「何やら、怖い事を考えておらぬかや?」
「怖く無いの。全然怖く無いの」
「御二方! あそこに居るで御座るっ!」
「あれがダラクっすか!」
皆んなお目々が良すぎるの!
ミルンにはまだ見えないけど、黒姫も目付きが変わったの……黒姫?
「ダラク……我を怒らせおったな…っ」
────ズドンッッッ!!
「っ、黒姫!?」
「黒姫殿!!」
「ぷわっぷっ!?」
黒姫が全力で走ったのっ!?
滅多に怒らないのに、一体何があったの!
「影達急ぐのっ!」
「御意にっ!」
「黒姫さんって速いっすねっ!」
黒姫に追い付いた。
黒姫は、目を血走らせながらダラクを見つめ、手にはダラクの片腕を持っている。
ダラクは、残った片手でアトゥナの首を掴み、盾にする様に前に突き出している。
そのアトゥナの姿。
顔は酷く焼け爛れ、両手脚が変な方向に曲がっており、胸がまったく、動いていない。
「────お前は絶対っっっ、殺す!!」
魔法の使用回数全部使ってっ、お前をバラバラの肉片にしてやるのっ!
「止まりやミルンっ! まだアトゥナは生きておるのじゃっ!」
「っ、黒姫っ、本当なの!?」
「はははっ、まだ生きとるで……少しでも動いたら、こん首が腐り落ちるけどなぁ!」
「……アトゥナを離すの。離せば、楽に首を落としてやるの」
まったく隙が無い。
下手に動けば、アトゥナが死んじゃうの。
「嫌やわぁ。ウチかてやりたい事があんねんから、無駄に死にとう無いわぁ」
「アトゥナを傷付けまいと、あの時動いたお主が、何故そこまで痛め付けおった……意味が分からぬのじゃ」
「あの場では、アレが最善やったって言う事やな……ほんまやったら、帰ってからしよう思てたけどっ、逃げられへんし、しゃあないわ」
ダラクは何かをしようとしてる?
魔法やスキルを発動するなら、黒姫や影達が察知するし、どう足掻いても逃げられ無いの。
「ははっ……これ何やと思う?」
何あの結晶……何かのカケラ?
「っ、全員アレを止めるのじゃ!?」
「承知っ!」
「何っすかアレ!?」
「何をする気なのダラクっ!!」
「姉やんのカケラ、器に入れたらどうなると思う?」
『────っんく』
「ええ夜やで、姉やん」




