ヤバい奴らの大追跡.1
ザッザッザッザッ────『足跡っす! 皆んなーっ! こっちっすよーっ!』
ザッザッザッザッ────『ミルン御嬢様! 進路このまま! 南東に進むで御座るっ!』
お父さんと別れてまだ半日。
濃ゆい影二人と、ミユンのお鼻を使い、全速力でダラクを追ってるの。
「すんすんっ……確かに臭いの。ダラクの奴、わざわざ森の中央を通るなんて、絶対私達への嫌がらせなの」
「ふむ、まだ姿は見えぬのじゃ。相当距離を稼がれておるのぅ」
「……黒姫何でその姿? お胸が揺れてて、イラっとするの」
脚を動かす度に────ボインっ!
腕を振る度に────バインっ!
飛んで着地する度に────ブルンっ!!
その御胸が揺れる度に、イライラムカムカして、掴んで全力で捥ぎりたいの。
「この姿ならば、あのダラクが何かしようとも、直ぐに対応出来るでな。眺めるだけで、勘弁して欲しいのじゃ」
「嫌でも目に入るの。大人になったら絶対、黒姫よりボインになってやるのっ」
「ふむ、我より巨乳かや? 今のミルンの成長具合じゃと……」
「何故途中で黙るっ。変な事考えてるなら、今直ぐにでも捥ぎ取るのっ」
「違うのじゃ。この先に魔物が居るでの。このまま進むと、戦闘は避けられぬが……」
この先に魔物が居る?
そんな事、気にしてる暇無いの。
「片付けながら先に進むの!」
ザッザッ────『フゴッ?』
「居たのじゃっ!」
猪型の大きい魔物なの。
帝国兵に狩られていないと言う事は、そこそこ強い魔物なの。
でも、ミルンの敵じゃ無い!!
『フゴォオオオッ!!』────ドッドッドッ!
ミルンに真っ直ぐ突撃っ!?
一番弱いと思われたっ!?
「屈辱なのおおお──っ!!」
走る勢いそのままに、突撃してきた猪のお鼻をめがけ、下から突き上げる様に、パンチを繰り出す。
メゴォッ────『プギュッ!?』
ヒュンヒュンヒュンッと、猪がその場で三回転半捻りを披露して、着地に失敗。
顔面が凹んだまま、動かなくなった。
「見事なものじゃなミルン」
「黒姫に褒められたって、嬉しくないの」
「……尻尾は嘘をつけぬのぅ」
尻尾が勝手に揺れてるだけなの。
本当に、黒姫に褒められも、嬉しくないの。
どうせなら、お父さんに褒めて貰いたい。
「ぬっ、どうやらこの森、彼奴らの棲家のようじゃな」
今さっき、潰したばかりの猪型の魔物。
その魔物の棲家。
見える範囲で、凡そ二十体。
「問題にもならないのっ! 襲って来たら、その都度潰すっ!!」
『やっほぉ──いっ! いっぱいお肉が転がってるっす──っ!』
『拾えぬで御座るよ! そのまま放置して、先に進むで御座る!』
『ええっ!? 小さいの一匹ぐらい、良いじゃないっすか──っ!』
少し離れた所でも、影達が魔物と戦ってる?
戦ってると言うより、気軽にお肉を狩りながら、散歩してる風に感じるの。
『フゴォオオオッ!!』────ドッドッドッ!
『フゴォオオオッ!!』────ドッドッドッ!
『プギィイイイッ!!』────ドッドッドッ!
「ミルンも負けてられないの!」
「どれっ、我も軽く運動かや?」
帝国の南東に位置する、広大な森。
その日、その森に古くから存在する、一種の魔物が、その姿を消した。
月明かりの下、焚き火を囲みながら、御夕ご飯プラス、黒姫に説教なの。
黒姫の所為で、見晴らしが良くなりました。
「黒姫……やり過ぎなの」
「じゃって……我だってっ、良いとこ見せたいのじゃ! 戦いたいのじゃ!」
森の半分以上が、更地になってるの。
草の根一つも残って無いの。
危うく、呼び出した影が、影も残らずチリと化していたって言う、冗談じゃ済まないお話になっていたの。
「いやーっ、死ぬかと思ったっす!」
「うむっ。危うく巻き込まれて、死ぬところで御座ったな。アレが神級魔法で御座るか」
「黒姫はお馬鹿なの。お父さんでも、地上に向けて撃った事は……一回しかないのに」
「一回は有るので御座るかっ!?」
「それ我初耳なのじゃが!?」
「はっはっはっ、流石魔神様っすねー!」
黒姫と会う前のお話なの。
村一つが、隕石?って言う魔法で、ものの見事に吹っ飛んだの。
「アレは凄かったの……ムグムグ」
「もしかして、我だけ知らぬとか無いよの?」
「知らないの、黒姫だけかも?」
「ああー、確かに! 随分と前に、影の間で噂になっていたで御座る!」
「成程っ! あの話っすか! やっぱり神級魔法だったんっすね!」
「何故影共は知っておるのじゃ!? 我だけ知らぬとかっ、仲間ハズレは嫌じゃっ!!」
だって、黒姫その時封印されてたの。
知ってたら不思議発見なの。
「我にも教えてたも! なっ?なっ?ミルン教えて欲しいのじゃあああっ!!」
「大人の姿で、駄々を捏ねられると……何だか無性に殴りたくなるの。なんで?」
「おーしーえーてーなーのーじゃあああああああああああ──っ!!」
やっぱり黒姫は、小さい姿の方が似合ってるの。
大きいと……イラっとするの。
駄々っ子黒姫のあやし方。
一、角を持って、顔面膝蹴りをぶち込む。
二、角を持って、頭をぐりんぐりん振り回す。
三、一と二の後で、山盛りご飯を、嫌と言っても無理矢理喰わせる。
四、吐いて失神する。
『真似をしたら駄目なの。黒姫だから良いの!』
『我でも良く無いのじゃっ!?』




