アトゥナ救出部隊
「お父さんの許可を貰ったの! 影達来るのおおおおおお────っ!!」
ミルンが叫んだ。
それはもう高らかに、天に向かって叫んだ。
両手を上げ、まるでそこに、元気◯を集めんとせん勢いで。
しかし……何も起きない?
「……影さん達、来てないよな?」
「むぅ……居ないのである」
「ミルンお姉ちゃん失敗した?」
「かっ、かか影は来んで良いのじゃ!」
周囲を見ても、正に影も形もない。
ミルンが両手を上げ、尻尾をピンっとしたまま、固まってる。
少しずつ尻尾が下がってきた。
シュンっとなった。
「影来るのおぉぉぉっ……」
若干涙目になっちゃったよ。
でも、これでミルンは、アトゥナを追う事が出来なくなったな。
「影さん来ないから、追う事は出来ないぞ」
「何で影来ない……」
「きっとお昼寝中なの。また呼べば来るの」
影さんが昼寝?
それはそれで見てみたい気もするけど、来れないのなら一安心だ。
『影にも色々有るで御座るが故に、モグモグ。和土国で置いて行かれた時は、モグモグ、びっくりしたで御座るなぁ』
「それは仕方無いだろ? 元々、黒姫を呼ぶつもりじゃ無かったし、向こうにも戦力置いとかないと、ダラクを抑えれないと思ったんだから」
黒姫とダラクを、こっちに呼んじゃったから、こんな事になったんだよなぁ。
これも、俺のミスだ。
『あー、死ぬかと思ったっす。ゴブリンの養殖場とかっ、連邦はヤバいっすねー』
「報告書にあったゴブって、養殖されてたのか? ゲテモノ喰いにも程が有るぞ……」
『持って帰ろうとしたら見つかって、危うく戦闘になるとこっすよ。セーフっす!』
持って帰ろうとすんなよ。
アレか……ルシィに喰わせる為に、持って帰って来ようとしたのか。
「流君……」
「どうした村長? そんな変なモノを見る目してさ。何かあったか?」
「後ろに居るでは無いか」
「何がだよ……後ろ?」
村長に言われ、後ろを振り返ると、和装影さんがご飯をモグモグと食べ、黒外套の影さんが地面に寝そべっている。
「んだよ、ただの影さんじゃん」
「うむ、影殿であるな」
「んんっ? ……影さん?」
「……そうであるな」
「影さんじゃん!?」
「影来たのおおお────っ!!」
ミルンガッツポーズしちゃったよ!?
いつの間に背後に来たの! 何か呑気にご飯食べてるし!?
「ふぅ…食べたで御座るっと。ミルン御嬢様の呼び掛けに、この影、馳せ参じまして御座る」
「他の影は来てないっすね? 陛下が動いてるから、その護衛っすかねぇ。来たっすよーミルン御嬢様!」
コレまた……中身が濃過ぎる影が来たなぁ。
御座る影さんと、元気っ娘影さん。この二人混ぜても、大丈夫なのか?
「濃ゆい影が来たの。ミルンお姉ちゃんが、少しだけ心配なの」
「ミユンさんや、口に出してはいけないよ?」
「濃ゆい影でも影は影なの。お父さん……コレでミルンが動けるの。保存食下さいな」
「っ……無茶な事はしないと、約束出来るか? 影さん達の言う事聞いて、勝手に突っ込んだりしないか?」
「しないの。アトゥナを助けたら、全速力で逃走するの。最悪、御座るかうざ子を生贄にして、時間稼ぎで逃げるの」
御座るにうざ子って……確かにあの元気っ娘の影さんは、若干うざったらしいけど。
「状況は分からぬが、御安心召されよ魔神様。ミルン御嬢様をお護りする事こそ、ミルン御嬢様親衛隊の務めに御座る。ミルン御嬢様には、傷一つ付けぬで御座るよ」
「そうっす! 何を安心するのか、いまいち分からないっすけど、ミルン御嬢様はお護りするっすよ!」
この二人、ミルン親衛隊の影さんだったのか……どうりで濃い訳だわ。
止める事は、出来そうに無いなぁ。
仕方無い。
「ミルン!」
「はい!」
「領主として命令する。ミルン、黒姫の両名にっ……アトゥナ救出を命じる!!」
「了解なの!」
「のぢゃっ!? 影も一緒なのかや!?」
「大丈夫っすよ黒姫様! 私らは、黒姫ファンクラブの影じゃ無いので、安心するっす!」
そんなファンクラブあるの?
それじゃあ、いつも黒姫を玩具にしてる影さん達が、ファンクラブの面々か。
「ボソッ(帰ったら確認して、黒姫をその影さんの群れに、投げ入れよう)」
「今流何言うたのぢゃ!? ボソッと何か言ってたのぢゃ! 悪い事考えておるのぢゃ!!」
「そんな事考えてないぞ。ライオンの群れに兎を入れたら、どうなるのかなって……少し考えてただけだ」
「嘘なのぢゃ!? 悪い顔してるのぢゃ!」
へいへい、悪い顔ですよっと。
そんじゃあさっさと、行動開始しますかね。
「アトゥナ救出隊! 出動なのっ!」
「……頼むぞ影さん。ミルンが我儘言って、ダラクに突進しない様、見張っててくれ」
「承知で御座る。敵将の首っ! この影が見事っ、打ち取って見せましょうぞっ!」
「ダラクって誰っすか? 取り敢えずぶっ飛ばせば良いっすよね?」
不安しか、無いんですけど?
「なぁ……ニア」
「どうかされましたかぁ?」
「何かあそこ、人数増えてへん?」
「あらぁ……影さんですねぇ」
「ウチら完全に、蚊帳の外やん」
「あそこに行ったらぁ、巻き込まれますよぉ」
「それは、嫌やな……」
「ヘラクレス様もぉ、黙ったままですねぇ」
「ヘラクレスの奴、ようやっとるわ」
「どうやらぁ、ミルンさんが動く様ですねぇ」
「流にーちゃんよう許したな……だから影呼んだんか?」
「逃げたダラクも真っ青ですよぉ」
「……そやろうな。ジアストールの暗部に追われるや何て、ゾッとするわ」
「黒姫さんも行くっぽいのでぇ、小国なら簡単にぃ、落とせますよねぇ」
「……この部隊て、化物だらけやな……」
「そうですねぇ」




