追う者と追われる者 .1
「タイミング最悪だっ! 糞っ!!」
『もう糞は出ぬのぢゃ!』
そう言うことを言ってるんじゃ無い。
帰ったら絶っっっ対っ、黒姫を影さん達の群れに放り投げるからな。
「『知覚』最大っ!」
何処だ……この短時間で、知覚範囲外に出るなんて無理なはずだ。焦るな俺っ、ダラクとアトゥナ、二人の反応を探せば良い。
「見つけたっ! 『緑化魔法!』────」
甘いぞダラク!
こちとら緑化魔法で、お前らを引き寄せる事が、可能だからなっ!
ボコッ────『何だあああっ!?』
ボコッ────『ひゃあああっ!?』
「……何でおっさん二人なんだよっ!? その見た目っ、賊の仲間じゃねえか!!」
『何でここに戻っ』────ズボンッ!
『待て何をっ!?』────ズボンッ!
セーフアースに行ってらっしゃい。
じゃないわっ!?
「何で賊が生き残ってんだよ!?」
他に反応は……っ、何だこの数っ!?
「二人で行動してる奴多くねっ!?」
「流君対策か……どうするのかね?」
あの時、ダラクと一緒に転送したから、俺のスキルの詳細がバレた?
あの一回で理解出来んのか?
分かんないけどっ、今はそれを考えている場合じゃないな!
「んなもんっ、根刮ぎいっらあああっ!!」
ボコッ────『いやあああっ!?』
ボコッ────『おぅっ(ブリッ)?』
「オカマと糞中っ、邪魔だ!!」
『なによぉっ!?』────ズボンッ!
『糞っ逃げれっ』────ズボンッ!
「ダラクの奴っ、結構な数逃してやがったなゴラァアアアッ!!」
ボコッ────『おぅっ、おうっ』
ボコッ────『やめろおおおっ!?』
「お楽しみ中御免な! そのまま逝ってろっ!」
『おおおおおお』────ズボンッ!
『だずけろおお』────ズボンッ!
「おらぁっ!! 次の奴はどうだあああっ!!」
ボコッ────『ぶふっ、おおおっ!?』
ボコッ────『俺の干し肉どこいった!?』
「賊が悠長に飯食ってんじゃねえええっ!?」
『何だテメっ』────ズボンッ!
『干し肉どこ』────ズボンッ!
「どれがダラクとアトゥナだっ!!」
ダラクの脚は相当速い。
俺と戦った時もそうだけど、あの時……アトゥナが捕まった時の速さなら、俺の知覚範囲から出るのも、時間の問題だ。
「流君……不味いぞ……」
「何がだ村長っ! こっちは集中して……」
村長が上を向いてる?
そういや、まだ昼前なのに、辺りが妙に暗いよな。
そう思い、空を見上げた。
その空には、紫色の雲が陽光を遮り、ボッ、ポッと、何かが降って来きていた。
その何かが、大地に咲く花に当たったその時────ジュッ! という音立て、一瞬にして、花が溶けて無くなった。
「流君っ!!」
「総員っ!! 防具を上にかざせええええええええええええええええ────っ!!」
退避する間も無く、大地すらをも溶かす死の雨が、濁流の如く降り注いで来た。
「のぢゃっ!?」
◇ ◇ ◇
「はっ、はははっ! 賭けはウチの勝ちやなぁ! あん化物が、死ぬ事は無いやろうけど、逃げる時間は充分稼げたわ」
正直言って、幸運が重なった。
運が良かった。
何かに使えると思て、賊共を逃しといて正解やったわ。
ウチにずっと引っ付いとった、あん化物が、まさかあんな気を抜いて、糞するとは思わんかった。
「しかも、こんアトゥナが一人で居るなんてなぁ。姉やんの娘……貴重な器……」
一緒にリティナも、連れて行きたかったけど、先ずは器や。あん化物なら、リティナぐらい護り切っとるやろうしなぁ。
「化物のスキルをペラペラ喋ってた、あん糞化物には感謝しか無いわぁ」
「うぅっ……」
「おっと、アトゥナが起きる前に、出来るだけ移動しとかなあかんなぁ」
大事な身体やし、これ以上殴って、気絶させたく無いからなぁ。
「魔物が跋扈しとる場所なら、アトゥナも逃げられんやろ……」
もう少しや。
もう少しやで、姉やん。




