盗賊達を潰し隊.2
元帝国将校、ヤバイヨ・シリガーは、酒瓶を傾け、喉を潤していた。
その側には、先程まで遊んでいた娘が、目を虚に横たわっている。
『映えある帝国将校様が、今やただの盗賊か』
口から自然と、言葉が漏れた。
武を磨き、勉学に励み、やっとの事で、一生安泰で暮らせるとまで言われる、この地位まで、登り詰めた。
平民でありながら、将校に成るなど、長い帝国の歴史を振り返っても、数える程しか無い。
誰も彼もが、尊敬の眼差しを向けて来た。
美しい女も、娶る事が出来た。
広大な屋敷を、手にする事が出来た。
『……今やそれも、ただの幻だぁな』
帝国の御家騒動に巻き込まれ、その全てを失った。
妻も、子供も、部下達さえも、全て魔物と化し、俺は只々、逃げるしか無かった、
カチッ────
酒瓶をテーブルに置き、腰に携えた剣を、ゆっくりと抜いていく。
『娘さんは何歳だぁ? 今どんな気分だぁ?』
どうせ帝国は終わるのだ。
それならば、本能のままに、欲望のままに生きても、問題は無いよなぁ。
『何処から斬ろうか……腕か? 脚か? 皮をゆっくり剥ぐのも良いなぁ』
『…し…ね…』
『おっ、今死ねって言った? 帝国将校の俺様に向かって、死ねって言ったのかぁ?』
帝国法では、帝国兵に罵詈雑言を吐いた者は、軽くても禁固刑。重ければ死罪となる。
『俺はぁ、優しいからなぁ。ゆっくり股下からぁ、裂いてやるよぉ』
剣をゆっくりと、横たわる女の股下へ近付けていく。
『痛いかなぁ? 痛いだろうなぁ。ゆっくり刺してやるから……楽しんでくれぇ!!』
力を込め、剣を刺し込もうとした。
────カランッ
剣を落とした。
酒がまわり過ぎて、手が滑ったのか。
そう思い、剣を拾おうとするが、手が動かない。
しゃがもうとするが、脚が動かない。
疑問に思い、目を擦ろうと腕を────腕が無い。
しかも、目の前に、いつの間にか子供が居て、手を振りかざして────『あえ?』地面が迫って来て、そのまま闇に、呑まれていった。
◇ ◇ ◇
「ギリセーフなの。勢い余って、首ちょんぱしちゃったの。七番、その人の容態は?」
「気絶している様ですが……相当酷いですね。肋骨が折れ、内臓を傷付けている恐れがあります」
「分かったの。八番と一緒に簡易担架を作って、ゆっくりと、村人達が捕まってる場所まで運ぶの。周囲の雑魚は、ミルンが始末しておく」
「「了解っ!!」」
中々ヤバい盗賊さんなの。
戦場の末期患者なの。
歯止めが効かなくなって、本能の赴くままに、やりたい放題、好き放題。
「魔物より魔物っぽいの」
こんな人達は、スパッと殺らないと、しぶとく襲って来るの。
それでも、『なんじゃこの餓鬼?』ミルン達の相手にならないけど。
『おい餓鬼まっ──』(ボトッ)
『何だ? おいどうし──』(ボトッ)
『何遊んで──』(ボトッ)
ミルンの魔法は、使い勝手抜群なの。
回数制限が有るから、無駄打ちは出来ないけど、楽に首ちょんぱ出来るの。
「ミルン隊長! 一番から五番が、村人達を護っております! 我等も向かいませんと!」
「なら六番は、この村から逃げ出す賊が居ないか、高台から監視なの。逃げ出す者が居たら、即殺処分なの」
「ええっ!? この村結構広いんですけど!?」
「後続隊が来たら、連携してやれば良いの。万が一賊を逃したら……」
「りょっ、了解致しましたっ!!」
ザッザッザッ────「六番の奴、逃げ足は速そうなの」
それじゃあミルンは、襲って来る賊どもの玉を、しっかりと確実に、根刮ぎ引っこ抜いて行くの。
「竿も玉も、二度と悪い事出来ない様に、使えなくしてやるの」
お父さん曰く、『去勢』と言うらしい。
「「「おおおおおおおおおおおっ!!」」」
もう後続隊の声が近付いてくるっ!?
早く盗賊達の玉を引っこ抜かないとっ、お父さんからストップがかかるの!!
「それは駄目なの──っ!!」
潰すのはミルンのお仕事!
引っこ抜くのはミルンの楽しみ!
「獲物は誰にもっ、渡さないのーっ!」
────村の中央へ猛ダッシュッ!!
盗賊達がミルンに向かって、剣を振って来るけども、玉を殴りながら間をすり抜け、前へ前へと突き進む。
「────あそこなのっ!」
村人達を囲う様に、斥候部隊員達が等間隔で広がり、上手く賊達を牽制してるの。
見た感じ、四十名あまりの盗賊。
「半分は何処に居るの?」
────プウウウウウウウウウッ!!
反対側からのラッパっ!?
「そんなっ!? お父さん側に行っちゃった……ミルンの楽しみがっ!?」




