帝国内地をぶらり旅.5
俺は、亡骸が横たわる穴を見つめる。
大半の者の腹が開き、生きたまま喰われたのだろう。腐りながらも歪んだ、その表情。
俺は、集中する。
攻撃系以外の魔法を、発動させようとするのは、確かこれで三回目……だったかな?
一回目は、ミルンを助けた時。
二回目は、孤児院の火を消しとめた時。
三回目は、今ここで。
魔神と成って初めて、使おうと思った。
流石にこれは、辛過ぎる。
流石にこれは、理不尽過ぎる。
日常を壊され、家族を喰われ、この人達が最後に思った事は、なんだったのだろうか。
苦しみか、怒りか、憤りか。
俺が想像出来る筈も無し。
だからこそ、せめて最後ぐらいは、安らかな眠りを贈ろう。
「願うは炎……」
決して傷付けない、優しい炎。
「想いは天に……」
神が居るこの世界だ、必ず届かせる。
「この者達を、安寧の地へ……」
聞き入れなかったら、全力全開で、ミルン砲を撃ち込むからな。
「脅しじゃ無いからっ、なあ神様っ!!」
はい、ここで失念してました!
称号上、俺って魔神なんだよね。所謂、神と名の付く存在って事だ。
そんな存在が、神に本気で祈った訳ですよ。
しかも、イミフな魔法使いながら。
さて問題!
一体どうなるでしょーうかっ?
はい、こうなりました。
俺が魔法を発動させて直ぐ、小さな火が、穴の中に灯った。
出だしはあの魔法にそっくりだよね。
ミルンのボロ家を潰した魔法。
しかし、あの魔法と何かが違う。
その小さな火は、徐々に膨らんでいき、穴の中で横たわる亡骸達を、包み込んだ。
その瞬間────ボシュッと言う音と共に空に向かって飛び上がると、空に見た事のある扉が現れ、その中へスポッと……良い音をさせながら入って行った。
『列を乱すなぁああああああ────っ!?』
「んっ?」
スポッと入った扉の先から、何やら泣きそうな、男の声が聞こえて来てたけど……扉消えたし、どうでも良いか。
「今の扉ってアレだよなぁ。守護者の称号に書いてた、『神域への扉』。亡骸も無くなってるし、良い仕事したんじゃね?」
「お父さん! 今のお声だれ!?」
「煩かったの! お耳がキーンってなりました!」
「誰だろうな……俺も知らん!」
マジで知らないし、知りたくも無い。
神の知り合いなんて、桃色お化けのアルテラだけで、勘弁して下さい。
「流君……やってくれたな……」
「どうした村長? そんな疲れた顔して」
筋肉村長が暗い顔をしながら、近付いて来るんですけど。
何で若干汗かいてんの?
肌が凄いテカってて、ローションでも塗りたくったのか?
「周りを見たまえっ!?」
「周り? 周りって……うわぁ」
部隊全員気絶してんじゃん。しかも立ったままって、気持ち悪いな。
「何で気絶してんだよ」
「あの声の所為であろうが!? 危うく私もっ、意識を持っていかれるところだったわ!」
「それ俺の所為か? ミルンやミユン……普通に元気だぞ?」
「軟弱な部隊員なの! 叩き起こして来ます!」
「ミルンお姉ちゃん、玉は駄目なの。叩くならお尻を狙うの!」
「何故平気なのだ!?」
知らんがな。
ミルンが可愛い、ケモ耳モフ尻尾だから、大丈夫だったんじゃね?
良く見たら、リティナやニアノールさんも無事だし、アレスさんは……置いといても、マロンも元気だし。
黒姫はどうしたって?
亡骸喰えなかったダラクを、楽しそうに虐めてるぞ。
「流のおっさん…今の何?」
「ほら見ろ村長、アトゥナも元気じゃん」
「何故元気なのだ!?」
「どうしたんだヘラクレス様?」
「さぁ? どうしたんだろうな」
あとは……姫さんは何処だ?
確か、お付きの人と一緒に……居たけど、何してんのアレ。
「なぁ村長……」
「何かね流君」
「いや……あの姫さんさ……」
「うむ」
「何でこっち向いて、祈り捧げたポーズのまま、気絶してんの?」
「良かったな流君。信者が一人、増えたでは無いか。はっはっはっ……」
「そうかそうか信者かぁ(絶対あの姫さんと、くっ付けてやるからな……)」
「今何か言ったかね?」
「何も言ってないぞ?」
俺は信者何て求めて無い。
俺の信者に成るぐらいなら、ミルンを崇め、奉りなさい。
洗礼式には、玉殴りをプレゼントだ!!
「崇め奉る……アイドルだな」
マネージャーはドゥシャさんだろ。サブマネージャーは、アレスさんで良いか。
ミルン、ミユン、リティナ、アトゥナ、ニアノールさんを、メインユニット。
ミウ、メオ、ラナス、コルル、マロンを、バックダンサーに仕上げる。
「完璧じゃんこのアイドルっ!!」
「メンバーに我が入っとらぬのぢゃっ!?」
「大丈夫だ。黒姫はソロでやらせるぞ?」
「我だけソロなのかや? 流石なのぢゃ! 我一人でも、輝く星となれるのぢゃ!」
「それじゃあ、ちょい魔龍になってくれ」
「のぢゃ? 別に良いのぢゃ」
「ほらっ、コレ首にかけてくれ。そのまま飛んで、ぐるっとここいら一周な」
「これ……我をアドバルーンにしようと、しておらぬかや?」
「えっ、その通りだけど?」
「……えっ?」
「……えっ?」
「「……えっ?」」




