リティナとアトゥナと魔王ダラク.1
簡易小屋の天井を直し、今は扉を修理してる真っ最中だ。
あの村では、結局働かせて貰えなかったけど、まさかこんな所で、役に立つなんてな。見よう見まねだけど、中々良い出来じゃん。
「おい誰や! 何で知らん男が増えとんねんて! アトゥナ! 誰がこいつ持って来たんや!」
煩い奴だよまったく。
これで聖女って言われてるのが、不思議でならない。
「さっき、ヘラクレスさんが運んで来たぞ」
俺は扉の修理に集中したいのに、さっきからリティナの奴が煩いんだ。
「っ、あんのヘラクレスっ、こいつも魔物混じっとるやんけ! ウチを過労死させるきか!」
「リティナ様…大変言い辛い事なのですが。その者は、私の兄であり、帝国の第二継承権を持つ、サハロブ・ブリージ・ノゾ・ゴルゾドディアで御座います。まさかとは思いましたが…」
「知るか! 半魔に戻すんに、ウチの力結構使うんやで! 流にーちゃんと言いヘラクレスと言いっ、いっぺん悪夢見せたろかぁ!!」
病人が居るのに、そんな大声出すなよな。
まぁ、俺が口出したら、またギャンギャン言い返してくるから、何も言わないけどさ。
「ケネラ様…今が好機、その愚か者の首を刎ねてしまいましょう」
「ウチが治す言うとるのにっ、そないな事させるかぁっ!」
「そうですよモシュ。それに首を刎ねるならば、戦を終わらせてからですわ」
「そうそう終わらせてからやなぁって、あんたの兄貴やろ!? ほんま怖い事言うなや!」
ガコッ──「あとはこれをっと…良し、扉の修理完了したぞ。ニアノールさん、次は何をしたらいいんだ?」
「器用ですねぇ。じゃあ次は、あそこのアッパー辺境伯を移動させましょうかぁ。ここも手狭になって来たのでぇ」
隣の天幕に移せば良いんだな。
「分かった。俺がこっちを持てば良いんだな」
「そうですぅ。行きますよぉ、いちにの今っ」
よいしょっ……流石に痩せてるとは言え、このおっさん重いな。
「はい、このまま歩きますよぉ」
「分かった。おいリティナ、このおっさんの服持って来てくれ」
「後で持ってくわ……あー、そん人運んだら、次はこのおっさんも頼む。簡易小屋は女専用にするさかい」
「分かった、次はそのおっさんだな」
このおっさんよりかは軽そうだ。
にしても、戦場とは思えない程のんびりしてるよな……流のおっさんの所為か?
「ふぅ…疲れた…」
おっさん二人を天幕へ運んで、結構疲れたから一休みだ。
「お疲れ様ですぅ、お茶どうぞぉ」
「あっ、どうも…ずずっ」
猫族のニアノールさんか。
見た感じ、ここの誰よりも、常識持ってそうな獣族なのに、何でリティナと一緒に居るんだろ。尻尾ふりふりしてるし。
「どうしましたぁ、私の尻尾を見てぇ(ふりふり)」
「いや尻尾じゃ無くて……ニアノールさんは、リティナとの付き合い長いんですか?」
「長いですよぉ。リティナ様とは、同じ場所で育ちましたからねぇ。私も、リティナ様も、元奴隷でしたからぁ」
これは……聞いちゃ不味かったかな。
「……すみません変な事聞いて」
「良いですよぉ。毎食お腹いっぱい食べれてましたしぃ、今は幸せですからねぇ」
奴隷なのにお腹いっぱい?
いやいや、変な事聞いたら駄目だな。ニアノールさん遠い目してるし、あまり詮索したら失礼だ。
「アトゥナさんは、良い子ですねぇ。リティナ様とそっくりなのにぃ、正反対と言うかぁ、変な感じですぅ」
そんなに似てるかな……いや、似てるか。
最初会った時、一瞬鏡見てる様な気持ちになったし。なんでこんなに、似てるのかな。
「あそこにもぉ、似てる人?が居ますねぇ。流さんが連れて来た方の様ですがぁ……黒姫さんがくっ付いてますぅ」
「……何て説明したら良いんだろ。流のおっさん寝てるから、説明が難しい……」
あのそっくりさんは、魔王ダラクです。
悪魔族を集めてます。
ついでに俺も狙われました。
「簡単に言ったら……こうなるのかな?」
「何がですかぁ?」
「いやっ、何でも無いです」
「あらぁ、こっち来ますよぉ」
こっち来るのかよ。
面倒事だけは勘弁してくれよ。
「あらぁ? 方向変えましたねぇ」
「何してるんだ黒姫さん……頭持って何か遊んでるし」
『そっちじゃ無いのぢゃ(グギッ)』
『そやからっ、首捻って誘導すんのやめい! このド臭化物がっ!』
『我は臭く無いのぢゃ(ゴリッ)』
『ぐっっっ、今もの凄ぉ力込めたやろ! 首引き千切る気かおどれっ!』
『その気なら既にやっとるのぢゃ(グリッ)』
ほんと……あの魔王の喋り方、リティナに似てるよなぁ。ガラの悪さもそっくりだ。
『ほれ、あそこにアトゥナが居るのぢゃ(ゴキッ)』
やっぱりこっちに来るんだな。
黒姫さん、遊び過ぎだろ。




