お前は一体何者だ.4
空に逃げたラブメントは息を吐く。
魔王に成ってからと言うもの、ある一人を除いては無敵であったのに、この有様。
ピィイイイイイッ!!
「何よあの筋肉達磨…口笛?っ、合図っ!?」
下ばかりに気を取られ、反応が遅れた。
空に逃げた事で、安心していた。
迫り来るは、澄み渡る空を覆い尽くさんとばかりに放たれる──矢の雨。
「っ、数が多いわね──がっ!?」
翼を守る為、敢えて腕で矢を受ける。
片腕が斬り飛ばされた為、腕で防げ無い分は身体で受け切る。
大丈夫よぉ。
栄養さえ摂取出来れば腕は生えるし、傷も直ぐ治る。しかし今翼に矢が刺さると、制御出来ずに落ちてしまうわぁ、
下に居る三人……落ちれば間違い無く、総攻撃で潰しに来るわねぇ。
「前線に来るんじゃ無かったわぁぎゅっ、がふっ、ぶふっ。狙うならぁ、本陣ねぇっ!!」
矢の雨の中を突っ切るっ!
翼の制御を失う前にっ、落ちる位置を割り出してやればぁ、砦の周りなら栄養源が沢山居るわよねぇ。
「邪魔なのよ羽虫共がぁあああ────っ!!」
「突っ込んで来るぞ! 総員一定の距離を保ちつつ手を休めるな! 回り込んで逃げ場を潰せ!」
糞がっ! 中々良い配置じゃないのっ。
相当練度の高い軍だけど、国境を守る兵にこんなの居るなんて、情報には無かったわねぇ。
「矢筒班! 弓兵の側から離れるなよ!」
「「了解!」」
「部隊長! あの化物っ、幾ら矢を撃っても落ちません!」
「狼狽えるな! 幾ら再生しようと所詮は生物っ、少しずつ消耗させるだけで良い!」
あぁ……穴見つけたわぁっ!!
「っ、矢筒班狙われてるぞ! そいつを近付けさせるなぁあああっ!」
「嫌ねぇっ。練度は高いけど、実戦不足だわぁ」
一瞬の判断ミス。
仲間を守る為に陣に乱れが起き、矢の雨に穴が生まれた。
「────抜けたっ」
「くっ、ここからでは仲間に被害がっ」
「地上部隊に合図を! (ヒュンッ)」
何よ、仲間に火矢を放つ……これはっ、獣族の軍っ!? 降りたら不味いじゃない!!
「獣族がこんな数っ、本陣はどこよ!」
「「「おおおおおおおおお──っ!!」」」
くっ、この気迫っっっ、何でオーガまで居るのよっ! しかも雌じゃないっ、相手が悪過ぎるわよ!
本陣は──砦の側っ、あの小屋ね!
肥えた貴族が居るのならっ、その栄養を全て取り込んであげる!
バキィイイイッ────急降下で屋根を突き破り、中を確認。
あらぁ皇女ちゃんとモシュちゃんが居るじゃなぁい。他は、人種の女と、猫族の女、寝ている男と、座っている男。
「先ずは座っている奴から頂こうかしらぁっ!」
「何だ? 屋根からオカマが?」
「その者は魔王です!」
「流にーちゃん!」
「流さん!」
遅いわぁ、もう掴んだからねぇ。
「あんっ? 何で急に頭掴んでんだ?」
「えっ……あらっ? 融合…出来無い?」
「えっ?」
「えっ?」
「……『えっ?』」
何何なんでよ! 何故融合しないのよ!
スキルは発動しているしっ、私に触れられたらっ、そのまま私の一部になる筈でしょ!
「あーうん、話せやこら。『敵』かお前──」
この男っ!?
直ぐ手を離し、小屋から飛び出す。
今のは何っ、何っ、手を離さなかったら、間違い無く『何か』が起きていたっ。
「ったく、小屋壊しやがって……さっきお前、魔王って言われてたな。東の魔王の次は、北の魔王ってか? 遭遇率半端ないなぁ……」
小屋からゆっくりと、まるで散歩をするかの様に歩いて来る男。以前にも一度だけ、融合が通じなかった、あの男と姿が被る。
「有り得無い……有り得無い有り得無い有ってたまるかぁああかっ!?」
「うぉっ、急に叫ぶなよ気持ち悪いっ。どうした魔王様? オカマでノイローゼか? と言うか、何で半裸……ミルン呼ぶ前で良かったぜ」
私が相対した中で唯一、逃げる手段しか思いつかなかった相手。
自らをあの場所へ閉じ込め、何とか逃げ切る事に成功したが、お陰で数百年間、窮屈な思いをさせられた。
「お前は一体……何者だ」
「普通の喋り方出来んじゃん。俺が何者かって? そりゃぁ貴族? 何か違うな……イクメン? 世のパパさんに殺されるな。魔神様だぞはっはっはっ……取り敢えず豪炎ッ!!」
「えっ────」
ようやく流が出て来たよ!
遭って直ぐ様豪炎ブッパ!
こんがりジューシー直ぐ治る!
東の魔王に北の魔王!
魔王のインフレこじれてひゃっはー!




