お前は一体何者だ.3
「これは、中々に凄いものだな。マロンが戦っておる者、自らを魔王と言っておるが……マロンの動きについて行けておらぬ」
「あれぐらいは当たり前だ。マロンは元々、雲にする予定だったからな。私自らが、一対一で基礎を叩き込んだ」
影殿と一対一の訓練っ、殺す気かね。
「しかしあの者…魔王にしては弱い気がするのであるが、どう言う事か分かるかね」
ただひたすらにマロン君に殴られ続けておるし、本当に魔王かね。
「ドゥシャに何も聞いていないのか? 全ての魔王が規格外な訳では無い。あの体型、動きから察するに、あの魔王は後衛向きの特化型だな」
「流君と同じと言う訳か……いや、流君は魔神となってやけにタフだから、流君の下位互換と言うのが正しいか?」
「それは違う。魔神様は古き神の魔法を使うが、あの魔王は魔法を使う素振りを見せん。魔法を使えない時点で、魔神様と比較するのも馬鹿げている」
確かに、流君とは比較にならぬ程の弱さか。
何やらマロン君を捕まえようとしておるが、力だけで無く速さも、マロン君の方が勝っておるからして、あの魔王には捕らえられぬ。
「あの魔王のスキル…どうやら、対象に触れねばならぬ様であるな」
「そうみたいだ。それにもう一つ、受けた傷が一瞬で治っている。再生とは、珍しいスキルだ」
「再生スキル……となると、一撃であの魔王を仕留めねば、こちらの体力が削られて、詰むのである」
中々厄介なスキルであるな。
マロン君の体力が保てば良いのだが。
「マロンは私が鍛えていると言った。二、三日でも戦い続けれるぞ」
心を読まれたっ!?
あの様な幼子に、一体どの様な訓練をしたのであるかアレス殿!?
「マロンは内戦に巻き込まれた、孤児だからな。強くならねば……この世界で生きて行けない」
「強くし過ぎであろうよ……っ、アレス殿! 魔王がっ、彼奴飛べるのか!?」
◇ ◇ ◇
天使様のご指示は絶対。
何故なら、私を助けてくれたから。
お母さんを大事に、優しく埋葬してくれたから。
目標も示してくれた。
お国の上の人の首を取れって。
大好きなお母さんを殺した、村の人達を殺した、その元凶を殺せって。
天使様は優しい。
私に出来ない事は、出来る様になるまで、つきっきりで教えてくれる。
ゴブリンの群れに遭遇した時は、一匹だけ残してくれて、ゆっくりと戦う術を教えてくれた。
私は身長が低いから、『より低く腰を落とし、相手の足を引っかけて、転ばせてから顎を踏み砕け』と、分かりやすく教えてくれた。
頑張って転ばせて、いっぱい踏み付けた。
『素手』で魔物を殺せるなんて、思ってもみなかった。
お前は力が無いと言われた。
怒られたのかと思って、少し悲しくなった。
でも違った。
天使様は、ジアストール国に着くと何処かへと消え、お戻りになった際に、私に武器を下さった。
なんでも、宝物庫と言う所で埃をかぶっていた物で、使う者が居ないからと……私は嬉しくて泣きそうになり、なんとか我慢した。
棘の付いた、巨大なガントレット。
その武器は、私の背丈の半分程の大きさ。
腕に嵌め込むと、ずっしりとした重量感で、このままだと全く動けない。
でも、その武器に『付与されているスキル』が発動すると、途端に力が漲り、簡単に振り回せる様になった。
天使様は満足気に笑みを見せ、それからの訓練は、ただひたすらに天使様と戦った。
何度も何度も膝をつき、倒れたけども、天使様は、私が立ち上がるまで待ってくれた。
優しく見守る、お母さんの様に。
「天使様のご指示です」
腕に嵌めた、巨大な塊を撃ちつける。
「ぐぃっっっ、何故こんな餓鬼にっ、この私が押されるのよっ!?」
天使様に教わった通り、大柄な男を相手にする時は、脛、膝、下腹部、鳩尾を重点的に攻めて、腰を落とした所で────顔面。
「天使様のご指示です」
「がぼっ!?」
相手の動きを良く見て、何をしてくるのかを予測して動く。青髭男は、執拗に私を掴もうとしてくるので、掴まれたら駄目なのだろう。
右から来る────迫り来る青髭の手を、ガントレットで弾き飛ばし、ガラ空きの腹に突きを撃ち込む。
「ぎぃっっっ、がはっ、はぁ、はぁ……その腕の物騒なモノっ、ふぅ、ふぅ、厄介ねぇ」
「天使様のご指示です」
「話が通じない餓鬼ね。魔眼と言いその武器と言い、意味が分からないわ……」
私に魔眼は無い。
ただ動きを良く見て、対処しているだけ。
腹の傷……少し血が滲んでる。
「(ニタァ)天使様のご指示です」
「っ、やってられないわぁっ。お肌が荒れるじゃないのよ! ぎぃいいいいいい──っ!」
────ペギョッギギギギギギ────
あれは……翼? ラックバットみたい。
空に逃げると手が出せない。
「栄養を摂らなくちゃっ…嫌になるわぁ」
「逃がさない。天使様のご指示です」
全力で踏み込んで、狙うは翼──『ふふっ、ようやく焦りを見せたわねぇ。動きが単調よぉ』──しまった、誘い込まれました。
掴まれる────『矢張りまだまだだな』
「えっ──ひぃやああああああああっ!? わだじの腕がぁああああああっ── !?」
風が駆け抜け、青髭の腕を斬り落とした。
バサッバサッ──「ぎぃいいいいいいっ」
「天使様、青髭が逃げます」
「ヘラクレスっ! 軍を動かせ!」
「分かっておる! (ピィイイイイイッ!!)」
「申し訳御座いません。倒せませんでした」
「構わない。良い動きだったぞ」
「……有難う御座います、天使様」
私が油断したばっかりに、お恥ずかしい。
あの青髭、絶対に逃がさない。




